第100話
その後も順調に終末の森 中心部に向け進んでゆくユイトたち。
奥に進むにつれ、ユリウスには手に負えない魔獣が増えてきた。
中盤付近になる頃には、ユリウスは完全に見学者となっていた。
しかしこの経験も今後のユリウスの成長の糧になってくれることだろう。
そして終末の森に入ってからおよそ1週間。
ようやく森の最深部、終末の森 中心付近までやってきた。
「…ユイト様。目的地までは一体あとどれくらいあるのでしょうか?」
ユキに乗って移動しているとはいえ、さすがにユリウスはヘロヘロだ。
「あと少しだ。もう少しだけ頑張ってくれ」
さらに奥へと進むユイトたち。
グレンドラのいる洞窟まではあと少し。
と、そのとき、ユイトが突然足を止めた。
「ごめん、みんな。ちょっとだけ寄り道してもいいか?」
そう言うとユイトはどこかに向かって歩き出した。
それから歩くこと15分。
なんとそこにあったのは、あの日ユイトとともにこの世界へとやってきたコンビニだった。
4年前、終末の森を出る際に施した魔力コーティングのおかげで、当時のままの姿でそれは残っていた。
「…な、何だこれはっ!?」
突然目の前に現れた未知なる建造物に驚くユリウス。
「終末の森、しかもその中心部になぜこんなものが……。
……もしかしてこれは、滅びた文明の遺物なのか?
だとしたらこれはもの凄い発見だっ!!」
ヘロヘロだったのが嘘のように興奮しまくるユリウス。
「ユイト様、ティナ様。これは大発見かもしれませんっ!!
私は少しこの建物の中を見てきます!!」
コンビニへと駆けていくユリウス。
そしてすぐにユリウスが戻ってきた。
「駄目です。扉が開きませんでした」
(…あっ、そっか。鍵かけたままだっけ…)
「ちょっと待っててくれ」
そう言うとユイトはコンビニの前で何やらゴソゴソ。
「ほら、ユリウスさん。開いたぞ」
「なんとっ!さすがユイト様です!では今度こそ」
興奮するユリウスがコンビニの中へと吸い込まれていく。
コンビニの外でユリウスを待つユイトとティナ。
「…ユイトさん。これって、ひょっとして……」
「あぁ。7年前、俺と一緒にこの世界にやって来た、俺が働いていたお店だよ。
…7年前のあの日、気付くと俺はここにいた」
コンビニを見つめながら、少しだけ寂しそうに答えるユイト。
「………」
ティナはそんなユイトに向け、静かに足を踏み出した。そして…
ぎゅっ
ユイトを慰めるように、ユイトの寂しさを埋めるかのように、ティナはユイトを後ろからそっと抱きしめた。
「……ありがとな。ティナ」
「ううん」
お礼を言われるようなことじゃない、まるでそう言うかのようにティナは軽く首を横に振った。
「あの時は確かに寂しかった。心細かった。
けど今の俺には仲間がいる。だからもう大丈夫だ」
「……うん。
………。…ごめんね」
「んっ?」
「私、ユイトさんには辛い場所かもって、全然考えてなかった。
ユイトさんが住んでた場所を見れるって、ただ喜んでた……」
「なんだ。そんなこと気にしてたのか?
ティナが謝ることなんて何にもないさ。ここに連れてきたのは俺だろ?
それに…ティナには見て欲しかったんだ。
俺がこの世界にやってきたこの場所を」
「ユイトさん……」
「…さぁて、そろそろユリウスさんも出てくる頃だろうし、離れないと。
ユリウスさんに勘違いされちゃうからな」
「……私はいいよ。勘違いされても」
「えっ?」
「……ううん。何でもない」
そう言うとティナは回した腕をほどいた。
(今、勘違いされてもいいって聞こえたような……)
(えっ…?えっ?まさか、ティナって…)
(いやいやいやいや、そんなことあるわけないよな。何考えてんだ、俺…)
(きっと聞き間違えたに違いない。うん、きっとそうだ)
ユイトは自分にそう言い聞かせる。
そうこうしていると、ユリウスが子供のような笑顔でコンビニから戻ってきた。
「ユイト様!ティナ様!凄いです!!
見たこともないような精巧な作り。そして何に使うかもわからない装置。
きっとこれは、かなり高い文明を誇った古代の遺物に違いありませんっ!!」
興奮し、自信満々に話すユリウス。
(それは違うよユリウス君……と、これまで散々だった彼に言うほど鬼じゃない)
「やったな、ユリウスさん。大発見じゃん」
「はい!探せば他にもあるかもしれません。
いつか自分たちだけでここに来れるぐらい強くなって、
探してみようと思います!やるぞぉーーーっ!!」
燃え上がるユリウス。
(………)
何だかかわいそうになってきた。
「さてと、じゃあ行こうか。目的地まであと少しだ」
ユイトがかつて過ごした洞窟を目指し再び進み始めた一行。
やる気満々になったユリウスは、そこからは自らの足で進んでいく。
順調に森を進み洞窟まではあと少し。
このまま何事もなく到着するかと思った矢先、象ぐらいはある巨大な赤茶色の虎に出くわした。
そう、ユイトがこの世界に来た直後に遭遇した魔獣、レッドデビルだ。
「な、な、な、な……」
あまりの迫力、あまりの威圧感に腰を抜かすユリウス。
「ティナ、やるか?」
「うん。やってみる」
今のティナとはいい勝負かと思われたその戦い。
だが、蓋を開けてみればティナの圧勝だった。
レッドデビルはティナの放った絶対零度の冷気に動きを封じられ、為す術なく敗れ去った。
どうやら想像以上にティナは腕を上げているようだ。
レッドデビルに腰を抜かし、ティナの圧倒的強さに唖然とするユリウス。
そんなユリウスを再びユキの背中に乗せ、先へと進む。
小さな崖を降り、細い道をしばらく進む。
するとその先に広がっていたのは大きな岩壁。
その行き止まりかとも思える岩壁には、1つの小さな穴がぽっかりと口を開ける。
「よし、着いたぞ。ここが目的地だ」