42話「迫る会敵」
時を同じくして仁帝国艦隊も都である重庆近郊の軍港を進発していた。
士気は十分な物であった。
当たり前であろう、この戦いに敗れれば彼らの国に未来は無い、都を落とされ、将官は軒並み戦犯扱いを免れることはありえないだろう。
ガーディアンズとは彼らにとって、それほど恐るべき敵だったのである。
総司令官の地位を与えられていた年瀟もまた、兵たちとは違った類の恐怖心に苛まれていた。
(この戦いに敗れ、領内への侵入を許したとして。さて、ガーディアンズに処刑されるのが先か、陛下に粛清されるのが先か、、、どちらにせよ負けはありえない)
そう考えながら彼は慄然とした。
脳裏に自らの、凄惨としか言いようのない最期がよぎったからである。
「第46偵察部隊より連絡『乙地点ヨリ正面二艦影多数望ム距離20000』」
旗艦である戦艦四川の艦橋を軽い刺激を伴った緊張が満たす。
それは戦意と恐怖が化学反応を起こし発生した戦闘直前特有の緊張であり、それが最高値に達した時、戦端が開かれるのである。
年将軍はオペレーターからの報告に頷き、偵察部隊へ速やかに退避するように伝えさせながら、続けざまに命令を飛ばした。
「全艦隊第1級臨戦態勢に入れ。戦術班!情報をもとに敵との会敵時刻を割り出せ!」
第46偵察部隊からの報告に、艦影が敵だとは記されていなかった。
しかし状況的に味方ではありえない。
同時刻、ホーチミン市に急遽拵えた前線基地から出撃し、北上してきたガーディアンズ東南アジア方面軍司令・カーリー・マハーデーヴィー大将も同じ結論を弾き出していた。
険しい顔で見つめるモニタには、大規模な艦隊が彼らに近づきつつあることを示す光点が表示されていた。
「元帥閣下の本隊とは連絡は付いたの?」
顔とは裏腹に、面白くもなさそうな声で参謀に尋ねる。
「本隊の正面にも、大規模な敵艦隊が展開されているそうです」
「そぉ、、、じゃ、作戦の第1段階はひとまず成功した、という訳ね」
ひらり、とモデルのような所作で彼女は翻り、旗艦チャクリ・ナルエベトに参集していた自らの指揮下にある提督たちの顔を眺めるように見つめた。その中には普段見ない顔もある、本部から派遣されてきた提督たちの顔だ。
「聞いての通り闘いが始まるわ。恐らく最初はお互い様子を見ながらの撃ち合いになると思う。しばらく様子を見てから指示を追って出すわ」
「現状作戦はあるのですか?」
本部から派遣された者の1人、石井中将が尋ねる。
「相手の出方次第ね、真っ当な戦い方をしてくれるなら勝てるであろう計算はいくらでも立ててあるんだけど」
それはこちらが真っ当な戦い方をしないということでは無いのかーー石井中将はそう思いながらも引き下がった。
「この戦いはガーディアンズにとっても相手にとっても重要な戦いよ、くれぐれも気を抜かないで」
そう言うと、マハーデーヴィー大将は麾下の提督を各艦隊に戻した。
新暦162年3月27日16時前後、3つの戦場において同時多発的に作戦が始まった。
それはその規模に反して現在も正確に名前がついていない、しかし俗称として「三頭犬作戦」と呼ばれているものであった。




