40話 「初陣」
「それにしても、王准将はどうしたんだろう、、、」
自室でその日の日記をつけていたガブリエーレはため息とともに独白した。
その独白を、急遽出来た彼の同居人はしっかりと聞いていたようだ。
「どうしたんです?ため息などついて」
「、、、あなた、寝てたんじゃないんですか?」
「人の気配があったので目が醒めてしまいました。して、そんな顔をしてどうしたんです?」
「俺、そんな心配されるような顔してました?」
「ええ、夜叉か般若かのような表情をなさってましたよ」
思わず彼は自らの顔に手をやった。
まさか感情が顔に出ていたのか、いやまさか、しかし今日は色々有った、ありえない訳では無い。
酷く混乱する彼を横目に尊心は驚いたような顔をして「こいつは重症だは」と呟いた。
「それで、どうされました?王准将がどうなさったのです?」
「どうしても言わねばなりませんか?」
「『聞くな』とご命令なさるなら別ですが」
さてガブリエーレは困ってしまった。
王准将失踪に関しては現状限られた人間しかその事実を知らない、現状彼にそれを話していいものか。
かと言って目の前の酷く悪趣味な表情を披露している男は引き下がるつもりは無いようだ。
今の発言もどうせ自分が強く物を言えるか否かを見て愉しむつもりだろう、ガブリエーレはそう判断した。
「、、、あなたも今や俺と同じ元帥付副官の身、遅かれ早かれ閣下から説明されるでしょうし、今話しても同じですかね」
少し言い訳じみてしまったか、彼はそう思ったがそれを無視した。
事の顛末を聞いた本部所属の劉少尉は面白そうな話に目を輝かせた。
「面白そうな話ではありませんか。決戦が迫る中消えた女スパイ、どこぞの銀幕のスターにでも演って貰いたい物ですな」
「面白くもなんともありません!この忙しい時期に、諜報部とはいえそう簡単に人員を裂けられないんですよ!」
叫ぶように言ってハッとした。
確実にこの男のペースに乗せられてしまっている、こんなはずではなかったのに。
困惑が彼の胸を占めて行った。
「だからこそ面白いのです。常に心に余裕を、ですよ」
趣味の悪い笑みを顔にうかべながら尊心は言った。
余裕のある言葉長く戦場に立っている者だからなのかもしれない。
「そう思えるようになれると良いんですけどね」
「大尉殿は今回初陣ですか」
「ええ」
17歳の少年は答えた。
尊心はなんと言葉をかけるべきか悩んだ。
17歳の戦士、確実に若すぎる。
例え自分よりもよっぽど体格の良い男10人を一気に相手にしても負けないと分かっていても、その正体は17歳の少年に過ぎないのである。
しかしそれを指摘することは出来なかった、尊心が初めて戦争に身を投じたのは15歳の時だったのだから。
「どうしました?」
心配そうに見つめてくる若い上官に彼はほほ笑みかけるだけだった。




