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聖女の傷はずっと癒えない  作者: くーた
1/6

プロローグ

新作。少し自分が書きやすいように書いてみました。

『我が力よ、我が周囲の者の傷を呑め』


ズキリ、ズキリ、痛みが来る。


「っ……次はどこでしょうか?」


「せ、聖女様……大丈夫でしょうか?」


「えぇ、ご安心を。みんなの傷は直ぐに癒えませんが、私の傷は神様のお陰で直ぐに癒えますので」


笑顔を振り撒き、安心させる度に傷は増える。


「わかりました。では、着いてきてください。案内致しましす」


こんな傷、痛くない訳ないじゃない!そう叫べたらどれだけ楽だろうか。


「ありがとうございます…!ありがとうございます!」


「まさに神の御使い…!」


でも、彼らの笑顔、信頼、幸福……その全てが私の枷になり、救いになる。


「皆様は私が必ず…必ず守ってみせます。だから安心してください!」


歓声、歓声。私を包み込み、逃がしてはくれない。


「私は……癒しの聖女ですから!」


みんな気付いてくれない。


私の心の傷を


------------------------


「仕事もマトモに出来ないのに金を貰えると思うな!このグズが!」


「っ……ごめんなさい…!」


「ごめんなさいごめんなさいって、もう聞き飽きたんだよ!行動で示せないなら出てけ!!」


店の裏口から追い出され、1人俯く。


「…また……失敗…はぁ…」


家は金欠、生命線のバイトも今消えた。家賃滞納で明後日には追い出される。絶望的過ぎる。


「……神様……本当に人は…平等なのでしょうか…?」


大切な十字架を握り締め、神に問いかけても何も帰ってこない。1つ、ため息。


「…お母さん……神様は……信用できますか……?」


小汚い路地裏で空を見上げても、何も見えやしない。足元も真っ暗で見えやしない。この先も真っ暗で進みたくもない。嫌になる。


「……はっ!ダメだダメだ!明るく明るく!絶対に何とかしてみせましょう!」


『絶対に挫けないで。その先にいい未来がきっとあるんだから』


母の言葉を思い出し、自分を奮わせる。大丈夫、大丈夫。心は折れない。昔から根気は良いのだ。絶対に挫けてやらない。


「……1度帰りましょう…」


竦んだ脚で1歩踏み出したその時、


「きゃっ!?何…?」


踏み出した足元に金色の魔法陣のようなものが現れ、彼女はひっそりとこの世界から消えた。


------------------------


今日は、神に選ばれた異世界の救世主を喚び出す儀式があるらしい。僕としてはどうでもいい事だが、暇な休日だからといってずっと寝ているのは駄目らしい。


「もうすぐ儀式魔法の完成だねぇ」


「おっそ、欠伸が出るね」


「ん〜…まぁ仕方ないでしょ。失われた魔法を再現なんて馬鹿げたことをしてるんだから」


「…………何を元に再現してんのか…」


「さぁ?」


……本当にこの儀式は大丈夫なのか心配になってきたぞ。まぁ、失敗したら失敗したで、逃げるけどね。


「あ、完成するみたいだよ」


「見りゃわかる。マジで大丈夫か?あんなバカでかい魔法陣、暴走したら私は逃げるからな?」


「へーきへーき。そうなったら僕も逃げるよ」


魔法陣をせっせと描いていた宮廷魔法使い達が魔法陣に魔力を注ぎ始めた。


「さて…このバカでかいビックリ箱から何が出るかな…?」


全身に魔力を巡らせ、魔法陣とは反対の方向に前傾姿勢しながら魔法陣の方を向く。今のところ不味い気配は無い。


「マジで成功しそうだねぇ」


「おいおい…宮廷魔法使い共の脳みそは何で出来てるんだよ…!」


「少なくともただの脳みそでは無いよねぇ〜」


「……っておい!テメェ!飛ぶのはずるいぞ!」


隣の会話していた男、ジンの方をちらっと見ると、魔法陣に背を向け、ふわふわ浮いていた。


「全力で逃げる準備をしているのは君と同じ。フェアフェア」


「うっせぇ!どうせなら俺も乗せろ!」


「え、やだ…スキャリィ重いし」


「女子に言うことかゴルァ!」


その時、背後の魔法陣に注がれた魔力の乱れを感じ、空気に緊張が走った。


「「……」」


「ナンバー12……もう無理でぇ〜す…」


「誰か12を運んでやってくれ……ぅぐ…」


「7も不味いぞ!ついでに運べ!」


「13人だけで維持とか…これ詰みじゃね…?」


宮廷魔法使い達がざわめき始めた時、嫌な予感を感じ取った。


「ジン、これってアレだよな」


「うん…僕達が代わりになる予感…」


「おーい……暇そうな君たちぃ…俺らの代わり、ヨロスク…」


「この儀式は……我が国の希望だ…頼んだ…ぞ…」


「「……はぁ」」


------------------------


謎の光に呑まれてから、延々と真っ白い空間で浮遊感を感じていた。


「これは……なんでしょうか…?」


何もわからないが、一つだけわかる事はある。今、とても非現実的な事が起こっている事はわかっている。


「……死んだのかな…私は…」


『死んではないから、安心してね』


「っ…?この声………私?」


『正解。貴女は私で、私は貴女。まぁ、私は直ぐに消えるけどね』


「…ここはどこなの?」


思い切って質問をしてみると、思いの外あっさり帰ってきたが、予想外の答えが帰ってきた。


『世界と世界の間』


「……世界と…世界の間…?」


『そう、貴女は今異世界に喚び出されている途中なの』


「は、はぁ…」


場所はわかった様でわからない場所、しかも喚び出された?益々よく分からない。


「どうして私なのですか?他にもっと良い人が居たのではないですか?」


『そうね。貴女より良い人は沢山いる。けど、貴女には他の人が持っていない力を持っているの』


「他の人が…持っていない力……?」


自分で自分のことを考えるが、全く見当もつかない。


『貴女が持っている力、それは失われた過去の力』


「……」


息を呑む。私にそんな力があるのかと疑いもする。とにかく今は静かに聞くことにした。


『癒しの力、貴女が持っている過去のありふれた力こそ、今の異世界の人々は求めているのよ』


「癒しの…力…」


『でも気を付けて。貴女の癒しは……あら…時間切れね…』


「待って!私の力は…なんなの!?」


『貴女の癒しは……歪んでいるわ』


光がさらに強くなり、浮遊感が無くなってくる。


「歪んでいる…?」


------------------------


「まだぁ〜?」


「はぁ、はぁ……じん…ぅ…もうむりかもぉ…」


「あ〜はいはい。後で魔力分けてあげるから頑張ろうねぇ〜」


「ありがとぉ……ぅえ、吐きそぅ…」


魔力不足で吐きかけるのを何とか我慢していると、宮廷魔法使い達のリーダー格であるナンバー1が、


「--完成する…全員、退避するよ」


「りょーかい。スキャリィ、手握って」


「あいよぉ……」


何とかジンの手を握ると、ジンの浮遊魔法で魔法陣から距離を取る。


「くっそぉ……俺の魔力は平均以下だぞぉ…」


「今日まで貯めてた魔力が無かったら12と7みたいになる所だったねぇ」


「うん……ぉえ…」


「あらら……吐かないでね?」


チラリと魔法陣の方を向くと、真っ白な光の柱の中心に人影が1つ浮かんでいた。


「来るぞ……ぅぷっ…」


「ここまでなら平気でしょっと…」


「あ、あんがと…」


ジンにおぶさり、魔法陣を見守る。


「爆発オチとかやめてくれよな…」


「流石にそれはシャレになんないわぁ…」


不穏な事を言った途端、魔法陣は激しい光を発し、一時的に視界が白で染った。


------------------------


気付いた時には、知らない景色の前で立っていた。


「ここは…?」


「……成功…確認……ぅっ…」


「ナンバー1が倒れたぞ!運べ運べ!」


「あぁ……やったんだ…神話の再現を…私達は成し遂げたんだ…」


「……あの…ここは?」


なんの説明も無い。私を喚んだであろう人達は私の事が目に入ってない様だ。


「あー、初めまして。僕はジン、んでおんぶしてる奴がスキャリィ。君は?」


「私は…」


その時、違和感を覚えた。名前がわからない。


「…え?まって……私は…私は……私はっ…!」


「……これは不味いかな…?」


「不味いに決まってんだろ…!ちょっと降ろせ!」


頭の中から私の名前だけが抜け落ちている。どうして?私は誰?苗字は?名前は?思い出せない。違う…これは思い出せないんじゃない…!


「記憶が…無い…?」


その時、視界が真っ暗になり、倒れた衝撃が伝わり、意識も落ちた。

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