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空間移動<テレポーター>

8月1日。学生たちの夏休み折り返し地点と言えるべき日。

まるで蒸し焼きにされているかのような日差しの下、一人の少女はセーラー服を揺らしながら信号まで走る。

彼女が駆け付けた瞬間青に変わった信号を見もせず、少女は横断歩道を渡る。

その先にいるのは。



「もう、遅いよ!門限きついんだからね!」

肩までかかった、輝くように黒い髪を持つ少しつり目の少女。

彼女と目があった瞬間、今まで走っていた女子高生・『明日紫』の瞳は輝き、顔は自然と綻んだ。

紫と違う、ブレザーの制服。エリート校、『桃木中等教育学校』の4回生を示す。それはつまり能力を自由に制御できる証。

「悪かったって、ちょっと部活が長引いちゃってさ!」

手を縦に、「ごめん」の意を伝える。

「本当にぃ?私に隠れて彼氏とかつくってたりするんじゃないよねぇ?」

下から覗きこんで睨み、少しムッとした表情を作った黒髪の乙女、『亜麻黒子』。

「そんな訳無いでしょー!まあ実質モテモテだけどね!」

「いやいや、嘘吐くなよ!えっ嘘でしょ!?」

先程の表情からぱっと切り替え、慌てふためく黒子。嘘に決まってるでしょ、と思いつつも紫はその百面相っぷりを楽しんでいた。

―――なんて可愛いんだろうか。


相手は同性であるのに、紫はそんな黒子に惹かれつつあった。

しかしそれを悟られたらきっと相手は自分を軽蔑する。それはなんとしてでも避けたかった。

「まーそんなことより、さっさと行きましょうぜーっ」

あっ、と声を漏らす黒子の手を引っ張って紫は目的の場所へ走り出した。



「うわあああああ無理だあああッ!!」

両手を上げて悔しそうな絶叫をする紫。それを見て呆れたように笑いながら、

「明らかにアームが弱いでしょ……これ。

 操作ボタンを電子パネルにして高性能ですよアピールしてるって言うのに……これじゃあね」

所謂「UFOキャッチャー」の、「高性能ですよアピール」をしている電子パネルにゆっくり触りながら呟く黒子。

「んーしょうがないわね。これは諦めよう!そんでもって……」

手をひっこめ数秒間周りを見渡すと、黒子の目が変わった。

「そうだ!アレやろう!!」

指で示したその先にあったのは、「動くだけで体感!恐怖の4Dゾンビアクション!」と書かれた、黒に血飛沫の模様がかかった看板だった。

「ほーん、あんたそんなのできんの?ビビってぶっ倒れないでよ?」

「ふっふーん、こう見えてホラー耐性には自信があんのよ!」

鼻を高くし腕を組んで強がる黒子に、またしても紫は心を奪われるのだった。

というよりは、もう既に奪われていた。



「おっ、ちゃんと二人用だ」

機械の横に置いてある小さな電子パネルを確認し、密かに喜ぶ紫。

この機械の中の真っ暗な空間で黒子と二人っきり。勿論理性を保つつもりではあるが、やはり一人でプレイするよりも気分は上がる。

そんな事を色々考えていると、機械の中から一人の男性が出てきた。

いや、男性というよりも、少年。彼は紫とあまり変わらないくらいの高校生だ、恐らく。一瞬大人に見えたが。

服は白いワイシャツ、左胸のあたりにカラフルなバッジがいくつもつけられている。腰のあたりまでかかった茶色い髪は、ストレートでそれなりに綺麗だった。

暗闇の猫のような丸い目、すらっと通った鼻、言ってしまえば「イケメン」の部類だろうか。

そんな彼が何故かじっと目を凝らして紫を見つめている。紫も相手を凝視する。

しばし彼と視線を交わした後、中からもう一人同じくらいの少年が出てきた。

「おい鈴村ぁ!さっさと出ろよこのアホ!狭いんだよここ!」

その甲高い声に紫は我に返る。そして狭い機械の入口から蹴り落とされる長髪の、『鈴村』と呼ばれた少年。急いで避けると、彼は床にぶち当たった。

「いってー!なにすんだよもーっ!」

ぶつけた額をさすりながら大きく少し高めの声を出して振り返る少年。そこでもう一人の少年は、

「うるせえな、ほら次の奴待ってんじゃねーか早くどけよこのボケが!」

と罵詈雑言を躊躇い無く浴びせる。

もう一人の少年はかなり背が低く、女子である紫よりも低かった。特に工夫もされていない少しだけ短めの黒髪、半袖で薄い青のワイシャツと黒っぽいジーンズを着ている。

若干三白眼に近く、白目が大きく見える。しかし大きく見開いた眼でまさに不良のようだったが、かかっている青い眼鏡がなんとなく優等生らしさも感じさせた。

「だからと言って……。ちえーっカンナ誘えばよかったー。あっでも今日訓練だったかなー」

「お前、誰だか知らねえがそいつに計画ばらしたりしたらぶっ殺すぞ」

「やだこわーい!まあまあ、一応俺の目的でもあるんだから、裏切りなんてしないって!」

 ……あっ、すいませんどうぞどうぞ!」

何やら物騒な会話をしているのを眺めていると、長髪の方の少年がこっちに向き直って左手を皿のようにして機械へ向け、「どうぞ」を示した。

「……どうも」

とりあえず一言だけ言っておいた。

彼等が過ぎるのを見て、黒子が言った。

「あんたより毒舌な人もいるもんだねー」

「いや、私の毒は愛故の毒だから!」



すっかり夕焼けに染まった空を見上げる。

「んー、楽しかったぁ!今日はありがとうね、紫!」

突然の笑顔にまたも心奪われる紫だったが、なんとか堪える。

「いやいやぁ、むしろゾンビゲームしてる時の黒子のビビりっぷりは面白かったなー!」

冗談を交えて本音を隠す。勿論明日も会おうと思えば会えるが、少しだけ寂しい。

「じゃっ、また明日会えたら、ね!紫も演劇部大変なんでしょ?」

「そんなこと言うお前だってずっと寮で勉強してんだろ~?」

そんな適当な会話をして、黒子とわかれたのだった。



次の日。

紫は早速部活へ向かう。若干だるいが、学校の友達も大事なのできびきび歩く。



「おっと、ゆかりん遅い!3秒遅刻ですッ!」

「さすが部長!その程度の遅れも許さない!今日はどんな罰でしょうか!」

「うむ、ならば新しい部員に挨拶をしてもらおうか!」

部長と副部長が楽しそうに会話をしているので、紫も適当に合わせる。

「ほっほう!その新人とはどちらでしょうかー!?」

「こいつだっ!」

と、部長がハイテンションに紹介したのは、見慣れた顔だった。

新しい部員、つまりは見慣れない顔のはずなのに。

「はじめましてー。水連です」

気だるそうに返事をするのは、明らかに『亜麻黒子』の顔だった。

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