新たな出会い
「お前……今日で追放な」
「……え?」
突然の通告にアレンは驚くことしか出来なかった。
彼は黒色の髪に水色の瞳、整った顔立ちをしている。
アレンは信じられないといった表情で目の前の男をみる。
目の前にいるのはAランクギルド【風の囁き】のリーダーであるリファド。
金髪の髪に水色の瞳の彼は意地の悪い笑みを浮かべて口を開いた。
「今日でギルドを辞めて欲しいんだよ。もうお前の力は必要ない」
「なんで! 俺の魔法知ってるだろ。コピー魔法だ。強化魔法も回復魔法も攻撃魔法だってできるんだぞ」
アレンの魔法はコピー魔法。一度見た魔法を自分の魔法として無制限で使うことが出来る魔法。
故に今までも沢山の魔法で攻撃もサポートもやってきた。
だが彼の言い分にリファドは呆れたようにため息を吐いた。
「確かにお前は沢山の魔法を持っている。だが、それって全部代用可能なんだよ! シャルは攻撃魔法が使える。ミアは強化魔法と回復魔法が使える」
確かにコピーという性質上。その魔法は誰かが使っている魔法しか使えない。
そういう意味では確かに自分の魔法は他のメンバーに置き換えることは可能だ。
だから自分は必要ない。その言い分は一見すると正しいように思える。
だけども違う。その理論でいくならば攻撃魔法だけしか使えないシャル、もしくは強化魔法と回復魔法しか使えないミアを追放すればいい。
わざわざ回復魔法と強化魔法と攻撃魔法が使える自分を追放する意味はない。
なのに自分が追放される理由ーーそれは。
「俺がスラム出身だからか」
「あーあ、バレちゃったか。折角お前には気分よく出ていって欲しかったのになぁ」
この国ではスラム街出身の奴は嫌われる傾向にある。
実際、アレンもスラム街出身ということで何度も理不尽な目にあってきた。
「でも今まではスラム街出身でも良いって言ってくれたじゃないか」
「あの頃はEランクのギルドだった。Eランクのギルドなんて無名だし誰も入ろうとはしない。だからお前でもギルドに入れてやることにしたんだよ」
また同じ文言だと思った。今までギルドに何回も所属しては追放されてきた。きっと回数は今回で百回目になるだろう。
そしてランクが上がるとどのギルドもスラム出身は無理だと追放し始めるのだ。
「……他のギルドメンバーも一緒なのか」
「ああ、これはお前がいない時に相談して決めたことだ」
「ミアもか……」
リファドの彼女であるシャルはともかくミアはスラム出身の自分に優しくしてくれた。
少なくとも自分は彼女のことを友達だと思っている。
だから彼女も追放に賛成したなんてこと考えたくはなかった。
「お前さ……ミアは優しいから勘違いしてるみたいだけどお前と仲良くしてたのは同じギルド仲間だから、内心ではお前のこと嫌ってたよ!」
「……そうか」
嫌われるのは慣れっこ。スラム出身である以上はこういう事は珍しくない。
だけどもそう頭のなかでは理解していても心は悲しかった。
「よくお互いの魔法について話し合ったりしたのにな」
リファドに聞こえないように小さく呟いた。
「俺……お前のこと尊敬してた。こんな俺を仲間にしてくれて優しい奴なんだって思ってたよ」
「そいつは残念、俺は見下していたよ。育ちが違うってな」
リファドはそういうと布袋をアレンに渡す。そこには銅貨一枚だけが入っていた。
「ギルドの制度だ。脱退する奴にはある程度の金額を渡さなければならない。スラム生まれのお前にはこれで十分だろ」
「……世話になったな」
銅貨一枚では当然夕食すら満足に買うことは出来ない。
だけどもアレンは文句を一言も言わずにその場を立ち去った。
ーーー
「アレン……もしかしてまた追放されたの?」
酒場の中、アレンは一人の女性と一緒に静かに食事を取っていた。
白色のロングヘアーに紅の瞳、整った顔立ちに大きな胸。
彼女の名前はティアナ。アレンと同じくスラム街出身の冒険者だ。
アレンとティアナは昔からの友達でこうしてよく食事に行ったりしていた。
「なんで……分かったんだ」
「そりゃ、分かるわよ。アレンが落ち込んだ表情をするのはギルドを追放された時だもの。全く何年の付き合いだと思ってるの」
ティアナはそういうと食事を頼み始める。
「今日は私の奢りよ好きに頼みなさい」
「無理するなよ……。ソロの冒険者は儲からないだろ」
ティアナは確かに冒険者。だがソロの冒険者であり、ソロとなるとその活動には制限がある。
この国の依頼は危険度によってランク分けがされており、EランクからSSSランクまで存在する。
Eランクは薬草集めや冒険者の遺品回収といった雑用任務。
Dランク以降で魔物討伐の任務が出来るようになるのだが、ギルドではない冒険者はDランク以降の任務は受けることが出来ない。
まあ危険性を考えた故での事なのだろうが、スラム出身はギルドに入れて貰えずEランク任務しか出来ないのだ。
そしてEランク任務は当然報酬も少ないので苦しい想いをしている。
「今日は沢山薬草を集めたの。報酬も多かったのよ……だから安心なさい」
「なら有り難く奢られるとするか」
これ以上は遠慮する仲でもない。アレンはティアナに料理を奢って貰うことにする。
「ところでアレン……これからどうするつもりなの?」
「……またギルドを探す」
「もう何回も追放されているでしょう。私みたいにソロの冒険者になってみたら」
「ティアナ」
「ん?」
「切り傷……出来てるぞ」
ティアナの腕、そこには魔物との戦闘で負ったのだろう大きな切り傷が出来ていた。
アレンはすぐに治癒魔法を使うと一瞬で切り傷を治した。
「痛みはないか?」
それに対してティアナは小さく頷いた。
「ありがとう。普通の冒険者ならこんなに早く傷を治せなかったでしょうね。だからこそ悲しいわね」
ティアナは思う。もしも彼が普通の生まれだったならばきっとSランクのギルドーーいや、SSSランクの勇者ギルドに入れたかも知れないのにと。
「何勝手に悲しくなってんだよ。俺はいつか勇者ギルドにいくよ」
「そうね……それが貴方の夢だものね」
アレンの夢は勇者ギルドに入ること。勇者ギルドは他のギルドとは別格であり、SSSランクの任務を受け持つことが出来る唯一のギルドだ。
彼はずっとその勇者ギルドに入ることが目的だった。
その為に沢山のギルドに入り、沢山のギルドに追放されたのだ。
だからこそティアナは思う。これ以上、アレンの苦しむ姿はみたくないと。
自分が勇者を諦めたように彼もソロ冒険者として平和な日々を過ごして欲しいとそう思ってしまうのだ。
ーーー
酒場を出てティアナと別れる。住んでいる宿屋に帰ろうと歩みを進めていると一人の少女が複数人の男に絡まれている姿を発見する。
「一体何のようですか……」
「ちょいと金が欲しくてな。良かったら俺にくれねぇかな」
大きな男達三人が、一人の少女の金を奪おうとしている。
それに対して少女は困ったような表情を浮かべる。
黒色の綺麗な長い髪に水色の瞳。身体は華奢で大人に囲まれていると余計にその身体は小さく見えた。
一人の少女に大人が複数人でお金を奪おうとしている。
流石にその状況を見捨てられるほど自分の心は冷たくなかった。
「お前ら、何してんだよ」
「あ? なにお前? 急に来て?」
声をかけられてアレンの存在に気づいたのか一斉に彼を睨む。
しかし彼はそれに対して特に怯えたりはしなかった。
「今すぐその娘から離れろ。でないとお前らを殺す」
「殺す? お前さ、自分の立場分かってる? こっちは三人だぜ?」
三人の盗賊はアレンの言葉に大笑いする。確かに普通に考えれば三人相手に一人は無謀な戦いのようにも思える。
そんな馬鹿にした笑いを浮かべる男達にアレンはため息を吐いた。
「……それでどうするつもりだ」
「答えはなぁ! お前を殺して金を奪うだ!」
一人の男がそういって剣を振り上げたその瞬間、突然彼の身体が燃え上がる。
そしてそれはその男だけではなく残りの仲間達も身体が突然炎に包まれた。
「がぁぁぁぁ!」
「ぐっ……な、なにが起きて……!」
三人ともが炎に包まれて地面に倒れる。それは彼がコピーで覚えていた発火魔法による現象。
発火魔法は視界に映るものを生物や物を問わず発火させることが出来る魔法。
彼はその場から動くことなく三人の男を殺してみせたのだ。
「……お前らみたいなのがいるからスラム出身は嫌われるんだよ」
彼らの服装からスラム街出身なのはすぐに分かった。
スラム街出身が迫害される理由にスラム街出身の犯罪率が高いことがあげられる。
それによって何もしていない自分もスラム街出身だからと犯罪者扱いを受けたことがある。
だからこそアレンは盗賊になって弱い子を襲う彼らが気に入らなかった。
「だいじょう……」
アレンは少女に大丈夫かと声をかけようとして止めた。
自分なんかに声をかけられても少女は困るだけだろうと。
アレンはそう思ってその場を立ち去ろうとする。
「ま、待ってください」
だけどもそれは少女に腕を捕まれて引き止められてしまった。
「……なんだ」
「ようやく……ようやく見つけました!」
自分の腕をぎゅっと掴む少女はアレンを見て目を輝かせている。
その羨望の眼差しで見る少女にアレンは困惑していると彼女は感極まったように口を開いた。
「やっと……やっと神様に出会えました!」
「……は?」
突然の言葉にアレンは間の抜けた声しか出せなかった。




