1話 人狼ゲームのはじまり
放課後の校舎は、いつもより少し静かだった。
朱莉は女子バスケ部の練習を終え、汗を拭きながらロッカールームを出た。
隣でスケッチブックを抱えているのは、美術部の桃華。
二人は同じクラスの親友で、お互い部長同士
これから2人で部長会議の会場に向かう。
朱莉:「桃華ー、今日の会議、絶対また黒銀が絡んでくるよね。『女子バスケのコート使用時間が不公平』とかさ」
朱莉が明るく笑いながら言うと、桃華は優しく微笑んだ。
桃華:「朱莉ちゃんが言い返したら、きっと黙っちゃうよ。……でも、みんなで仲良くできたらいいな」
朱莉:「仲良くって……あいつら、いつも煽ってくるじゃん!」
二人は廊下を歩きながら、くすくす笑い合った。
夕陽が差し込む窓から、オレンジ色の光が足元を照らす。
この時間が、朱莉にとっては一番落ち着く瞬間だった。
会議室のドアを開けると、すでに他の部長が揃っていた。
黒銀と緑弥が、わざとらしく腕時計をチラチラ見ながらヤジを飛ばす。
黒銀は、男子バスケ部の部長
仲が悪くていつも私の悪口ばかり。
隣にいる緑弥は、サッカー部の部長で黒銀とつるんで、私といつも対立している。
黒銀「おーい、遅刻女王様のお出ましー」
緑弥「女子は時間にルーズだよな。練習も会議も」
朱莉は一瞬ムッとしたが、すぐに笑顔を貼り付けた。
朱莉「……ごめんね、ちょっとロッカー片付けてた。
でも、まだ5分前だよね。」
テニス部の茉黄がにこっと笑ってこちらを見た。
茉黄「時間前だし、全然大丈夫だよ。揃ったから少し早いけど、始めちゃおう!」
卓球部の橙里はぼんやり窓の外を見ていて、陸上部の白樹は椅子の端でほとんど気配を消している。
パソコン部の一茶はノートパソコンを開いたまま、無言。
帰宅部の青馬だけが、のんびりした声で言った。
青馬「いやー、今日も平和そうだねぇ。ところで、帰宅部のワイは、この会議にいる意味ある?」
黒銀「ないと思う」
小さく笑いが広がったが、すぐに空気が変わった。
会議は部費の話から始まり、体育館の使用時間調整へと移っていく。
そして、案の定、男女バスケ部の練習試合の話題になると火がついた。
黒銀がテーブルを叩く。
黒銀「女子が週4回もコートを借りるってどういう理屈だ。こっちは大会の出場準備で大変なんだぞ!」
朱莉も負けじと反撃。
朱莉「こっちも大会あるから!男子は練習量多くないと勝てないってビビってるの?」
緑弥がニヤニヤしながら横やりを入れてくる。
「朱莉のシュート、最近マジで精度落ちてるよな。
黒銀の言う通りフォームダサいわ」
朱莉「あんただって、誰でもでも触れば入りそうなシュートをこの前外していたよね!」
声が大きくなっていく。
桃華が「みんな、落ち着いて……」と手を振るが、無視される。
その瞬間、ドアが勢いよく開いた。
担任の佐藤先生が立っていた。
目が異様にギラついている。
佐藤先生「……お前ら、うるさいぞ」
全員が凍りついた。
先生はゆっくり近づき、にやりと笑った。
「喧嘩する元気があるなら、もっと面白いゲームをやらせてやる」
次の瞬間、視界が真っ白に染まった。
─────
目を開けると、そこはもう学校の会議室ではなかった。
古い洋館の広間。
高い天井に巨大なシャンデリアが揺れ、赤い絨毯が足元に広がる。
木の壁は重厚で、窓の外は真っ暗。何も見えない闇。
9人が呆然と立ち尽くす。
桃華の声が震えた。
「ここ……どこ?」
空から、重く響く声が降ってきた。
『ようこそ、我が屋敷へ』
『これより、お前たちには「人狼ゲーム」をしてもらおう』
『市民は人狼を見つけ出し、処刑せよ。人狼は市民を騙し、夜ごとに一人ずつ食い殺せ』
『役職は、今この瞬間、お前たちの心に刻まれた』
『誰が何の役職か……それは本人にしかわからない』
『始めよう』
声が消えると、沈黙が落ちた。
黒銀が低い声で呟く。
「……マジかよ」
緑弥だけが、興奮したように笑った。
「面白くなってきたじゃん」
朱莉は拳を握りしめた。
(冗談じゃない……こんなところで、命賭けのゲームなんて)
でも、逃げられないことは、誰もがわかっていた。




