エピローグ:太陽の恵みの下で
あれから、数年の月日が流れた。
かつて「枯れ谷」と呼ばれた場所は、今や王国で最も豊かで、美しい村「恵みの谷」としてその名を知られている。
私たちのレストラン『ノラの菜園』は、マルコの辣腕によって王都にも支店を出し、連日大盛況だ。総料理長はソフィア先生に任せ、私は今も、この谷でオーナーシェフとして、畑仕事と料理に明け暮れている。
夕暮れの畑に、子供たちの元気な笑い声が響く。
「「お母さーん! 見てー! こんなに大きなジャガイモが採れたよー!」」
黒い髪と、私の緑の瞳を受け継いだ双子の兄妹が、泥だらけの顔で、自分たちの顔ほどもあるジャガイモを誇らしげに掲げている。その隣では、夫となったカイが、優しい眼差しで子供たちを見守っていた。
「こら、二人とも。母さんをあまり困らせるな」
「いいのよ、あなた。元気なのが一番だわ」
私はエプロンで手を拭きながら、愛する家族のもとへ歩み寄る。子供たちを抱きしめると、太陽と土の匂いがした。
私の手に入れたかったものは、王妃の座でも、莫大な富でも、誰かを見返すことでもなかった。
こうして、愛する人たちと食卓を囲み、自分たちの手で育てたものを分かち合い、笑い合う。そんな、ささやかで、温かい毎日。
私は、豊かな緑が広がる谷を見渡した。遠くでは、村人たちが今日の収穫を祝い、宴の準備をしている。レストランからは、美味しそうな匂いが風に乗って運ばれてくる。
すべてが、愛おしい。
「ここが、私の手に入れた、私だけの王国だわ」
私は心からの幸福を噛みしめ、空に向かって微笑んだ。
追放された悪役令嬢の物語は、ここで終わる。
けれど、エレオノーラという一人の女性の、幸せな物語は、この太陽の恵みの下で、これからも永遠に続いていくのだ。




