第13章:王国の危機と、天啓の真実
アルベルトとリリアが失意のうちに王都へ帰ってから、数ヶ月が過ぎた。恵みの谷には変わらず平穏な日々が流れていたが、王都からは不穏な噂が聞こえ始めていた。
王国全土で、原因不明の「枯渇病」が蔓延しているというのだ。
マルコがもたらす情報によると、それは作物が理由もなく枯れ始め、それを食べた家畜や人々が、徐々に体力を失い衰弱していくという奇病だった。王宮の魔術師団が調査しても原因はわからず、力を失ったリリアの聖魔法はもちろん、神殿の治癒魔法も全く効果がないらしい。
被害は日に日に拡大し、王国の食糧事情は悪化の一途をたどっていた。
「どうやら、ただ事じゃなさそうだぜ。このままだと、国が飢饉で滅びちまうかもしれん」
マルコの言葉に、私は胸騒ぎを覚えた。
その夜、私は一人で月明かりの下、畑を歩いていた。心配で、土の様子を見に来たのだ。
私がひんやりとした土に手を触れ、意識を集中させると、いつもとは違う、悲痛な「声」が流れ込んできた。
『……苦しい……乾いていく……力が、吸い取られていく……』
それは、アストリア王国全土の大地が上げている、悲鳴だった。大地を流れる生命力の源泉――マナの流れが、何者かによって堰き止められ、枯渇しかけている。それが「枯渇病」の正体だった。
(どうして、こんなことに……?)
さらに深く、大地の声に耳を澄ます。すると、一つのヴィジョンが脳裏に浮かんだ。
それは、王都の地下深く。何百年も前に施された、巨大で複雑な魔法陣だった。その魔法陣は、本来、王国の土地にマナを安定して供給するためのもの。しかし、その中心部分が、黒く淀んだ瘴気のようなものに蝕まれ、機能不全に陥っていた。
そして、その瘴気の発生源は……驚くべきことに、リリアの使っていた「聖魔法」の歪んだエネルギーの残滓だった。
リリアの力は、大地のマナから直接エネルギーを得る正規の魔法ではなかった。人々の信仰心という不安定なエネルギーを無理やり変換し、奇跡に見せかける、いわば「まがい物」の力。その力を使うたびに、変換しきれなかった負のエネルギーが、王都の地下にある魔法陣に少しずつ蓄積されていたのだ。
そして、人々の関心が私に向かい、リリアが力を失ったことでエネルギーの均衡が崩れ、蓄積された瘴気がついに魔法陣を汚染し、破壊し始めた。
皮肉なことだった。国を救うとされた「聖女」の力が、結果的に国を滅ぼす原因になっていたとは。
(では、どうすれば……)
私が解決策を求めて再び大地に問うと、温かい答えが返ってきた。
『あなたの育てる野菜には、大地の力が凝縮されている。淀んだマナを浄化し、正常な流れに戻す力が』
私の「大地の声を聞く力」は、ただ野菜を育てるだけの力ではなかった。大地と直接対話し、その生命力を凝縮させた作物を作り出すことで、土地そのものを癒し、正常化させる力を持っていたのだ。
恵みの谷だけが「枯渇病」の影響を受けずに、豊かな実りを保っていられるのは、私が毎日、畑仕事を通して、無意識にこの谷の土地を浄化していたからだった。
「……私の野菜が、国を救う……?」
それは、あまりにも大きな使命だった。
私は、かつて私を追放し、見捨てた国を、救わなければならないのだろうか。
一瞬、躊躇いが心をよぎる。しかし、すぐに人々の苦しむ顔が思い浮かんだ。罪のない、普通の人々が、飢え、苦しんでいる。
それに、このアストリア王国は、私が生まれ育った故郷でもある。見捨てることなど、できるはずがなかった。
「カイ、マルコ、ソフィア先生、みんな……! お願い、力を貸して!」
私は決意を固め、仲間たちのもとへ駆けだした。
一人の追放された令嬢の小さな畑から始まった物語は、今、王国の運命を懸けた、大きな戦いへと発展しようとしていた。




