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プロローグ

中短編とでも言った加減の長さの作品です。

書いてる内に『ローファンタジーにしとけば良かった』と思いました。


サラダ定食感覚でどうぞ。

 




 魔王には矜持という物がある。





「魔王ルキファス! これでお前も終わりだ!」

「ぐぬおおぉっ······」


 勇者の勝利宣言。血まみれの満身創痍だが、それはこっちも同じ。いや、むしろ俺の方が傷は深い。


 さらに、奴は一人じゃない。


「魔王っ、これまでだ!」

「覚悟しなさい!」

「世界の平和のため! 人々のため!」


「ぐうぅっ······小賢しい、人間どもめぇ······」


 仲間の奴らも全員ボロボロだがまだ生きている。


 この場に居る者は全員満身創痍。だが、数は一対四。俺は一人のみ。


 もはや勝敗は決した。


 体力も魔力も底をついたし、部下達は遠くに居て間に合わない。


 我が魔剣も激戦の中において既に折れて、他の魔道具もほとんど使い物にならない。

 俺は立ってるだけでやっとの状態。



 しかし。

 一つだけこの状況から脱する手がある。


 それは、唯一残されたこの魔道具『ワープロープ』だ。魔法の紐で、これを掲げれば自分が過去に施した魔法陣まで瞬間移動出来る。

 部下達の基地の視察に行くのに常備していた物だ。これはまだ使用出来る状態だ。

 これを使えばここから逃げられる。


 そう、逃げられるのだ。


 逃げて、代わりに部下達をここに向かわせれば勇者どもは亡き者に出来るだろう。


 俺も死なずに済むだろう。



 だが────




「クックックッ······図に乗るなよ人間どもめ······。魔王の真の力と、死の恐怖はここからだ!」


「「「!!?」」」


「ぬおおおおおおっ!!」


「ぐうっ!?」

「な、なんて奴だ!」

「ま、まだこれだけの魔力をっ······!」

「これが魔王······!」



 魔王が降参する?


 否。


 魔王が小細工を弄する?


 否。


 魔王が道具や部下に頼って勝つ?


 否。


 魔王が死を恐れて逃げる?


 否。断じて否。




「この俺様をおおぉっ、見くびるなよ人間どもおおおおお!」


 もう限界は超えた。分かっている。戦うだけの力は残っていない、と。



 だが、それでも無様な最期は迎えん。

 疲労に跪いて、地に這いつくばったりなどせん。


 最後まで存分に人間どもに魔王の姿見せつけてから死んでくれよう。



「愚かな勇者ども! 我が死に様をその目に焼きつけろおおおおおおっ!!」


「いくぞっ、皆!!」

「「「おおっ!!」」」

「俺達は負けないっ! 正義の名の下に!」



 死の前の光景が、勇者どもの真っ直ぐな想いと、諦めない目の光。


 人間の持つ憎たらしい正義という矜持。



 正義。何度聞いても虫唾(むしず)が走る。小賢しく、軟弱で、愚かな人間風情にはお似合いの言葉だ。どこまでも夢見がちで、虚しい絵空事の理想。そんな物を御大層に崇めて振りかざす。


 そんな崇高な物などこの世には無いと知りながらも。



 悪くないじゃないか。



 ならば、こちらも魔王の矜持を持って応えてくれよう。


「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」

「「「「はああああああああぁぁっ!!」」」」


 魔王冥利に尽きるというもの。






 悔いはない。











 ────────────────────










 全世界を恐怖のどん底に叩き落とした『魔王ルキファス』。



 強大で、恐ろしく、人間達を苦しめた魔王であったが、勇敢な青年達によって倒され、長きに渡る恐怖も終わりを告げた。


 魔王の死と共に、モンスター達も地上から去り、人間は脅威から解放された。もう敵は居なくなったのだ。



 魔王の亡骸は秘密裏の内に運び出され、誰も寄り付かない僻地へと葬られた。彼が二度と復活しないように聖なる封印も施された。


 高名な魔道士や聖女、賢者。そして賢明なる王達によってその封印は守られ、人々は束の間の平和を手に入れた。


 しかし············。





 程なくして······世界に大きな厄災が訪れ、文明は崩壊した。

 生き残った人々はそれでも懸命に人類を存続させ、また長い時間が経った。


 やがて······。

 かつての繁栄を取り戻した世界は文明を発達させていった。科学と機械の世界の始まりである。


 豊かな森は巨大な農場になり、大地は人工の道が張り巡らされ、海はその底まで解明されつつある。


 木や草の優しさある素朴な家や、職人らの手によって築かれた石の建造物。

 全てハイテクノロジーのビル街へと変貌していった。


 馬はもう荷や人を運ぶ事なく、競技場で走る事しか役目は無い。代わりは疲れも息切れもしない機械の馬車が担った。


 人の手を煩わせる事は少なくなった。力仕事の大半は機械がやった。遠くに手紙を運ばなくても手元の機械で想いを伝えられる。


 旅をしなくても異国の光景を見られる。少し指先を動かせば世界中の知識にアクセス出来る。


 お湯を入れれば美味な食事にありつける。



 何もかもが別世界のように変わっていった。




 魔王の存在は人々の中から完全に忘れ去られていた。かつては人類にとって恐怖の象徴であった“深淵”も、そこに住まう魔物達も、今では好奇心の的になってすらいた。


 神や天使。魔王に勇者。魔法に妖精。冒険や英雄伝説。


 全て風化し、人類の古びた思出話くらいでしかなくなっていた。




 そう。何もかもが変わり果てた現代。

 魔王が封印された、2000年後のそんな世界············。















「············ん?」




 封印の地で声がした。



お疲れ様です。次話に続きます。

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