家
何事もなく街に着く。そこそこ大きな街のようだった。
お金すら持ってない怪しい身なりの僕だったけど、リドがお金を払ってくれたのでなんとか街に入ることができた。
「ここは冒険者がたくさん集まる街なんだ。だから、王都からは少し遠いけど結構人が多くて栄えてるんだよ」
「……迷宮があるから?」
「うん、そうだよ。俺は両親が冒険者で、ここで生まれたんだ」
親。僕はそれすら意識したことがなかった。
「親とは、どういったものなの?」
「ものっていうか……うん。そうだなあ、俺の親は結構優しかったかな。戦う訓練をするときは厳しかったけど、その御蔭でそこそこ強くなれたと思う」
……たしかに、周りの人よりもリドは結構強そうだった。
しかし、これでは魔王には勝てない。だからこそ僕たちがいるのだけど。
「いい人たちなんだね」
「うん」
羨ましい。そんな気持ちが湧いてきて、すぐにその考えを振り払った。これは負の感情だ。力の大きいものが抱いてはならない。
それに、何が羨ましかったのか、僕にはよくわからなかった。
それに、過去形。親はもういないのかもしれない。
「あ、ここ。俺の家な」
やがてたどり着いたのは、小さいがしっかりとした作りの、2階建ての一軒家だった。
三人で住むなら、寧ろちょうどよいくらいなのかもしれない。家には誰もいなかった。
「とりあえず、体洗ってきなよ。使い方、分かる?」
「多分」
思えば、僕のいた部屋には常に浄化魔法がかけられていたのかもしれない。体が汚れたのは、魔王を探し始めて部屋を出たあとが初めてだった。
よくよく、僕は結構臭いかもしれない。気にする相手もいなかったし、気にすることもなかった。
「服は、どうする?ボロボロだけど」
「捨てて欲しい。僕の血がもし誰かの体に入ったら、危ないから」
リドは不思議そうにしていたが、それなら、と手の上で燃やしてしまった。
魔法だ。僕は制限されて、一部しか使えない魔法。僕が使えるのは身体強化と浄化だけだった。
血が危ないのは、魔力が異様に多いからだ。狼が死んだのも、きっと魔力を受け止めきれなかったからだろう。
「どうかした?」
「いや。何でもない」
僕は初めて使うシャワーに戸惑いながら、汚れを落とした。