第10話 「スパルタン・ライフ」
〜スパルタン・ライフ〜
追い詰められ、絶望する瞬間こそ好む。
そんな魔法がある。それがスパルタン・ライフだ。
プリズン・ブレイカーとはまた違う強壮を
促してくれる魔術である。
そもそもプリズン・ブレイカーは囚われている
現状に対して有効だが、そうでなければ不発。
例えば自ら頑張ろうと奮闘していたことが
上手くいかずに苦しくなった時なのだろう。
「もうダメだ」と思った瞬間がトリガーとなる。
必要なのは苦行と好物。好物は日頃のご褒美や
好きなものだと尚更効く。あとはそんな状況に
なった時にご褒美を報酬と考えて心臓に魔法を
掛ければ良い。ただし使ったら絶対にご褒美を
体に与えることだ。さもなくば植物人間となる。
先程までには無かった物だらけの準備室。
いない筈の人間。そして何より戦時中としか
言いようがない風景。外は焼け野原で机に
向かう人間一人一人が俯いている。
それを見ていると突如黒男が喚き出した
中にいる人間をみて叫んでいる。
「違う!上だ!上に逃げるんだあ!
馬鹿野郎っ、そっちは火の手が…!」
「落ち着けって!…てかどうなってんだ?
さっきの落雷で山火事でも起きたのか!?」
「…いや、違う…
俺達は今誰かが仕掛けた結界の中だ」
結界を敷く魔術には難度がある。
映像だけを見せる低度なものと温度も伝う物や
パニックを煩わせる中度なもの。そして本格的な
殺生や洗脳を行える高度なものがある。
「温度はわかる。しかし後は本格的に
殺生能力があるかどうかは受けてみない限りは」
そう言った途端、黒男が自らの歯にカース・
エッジをかけて拘束を噛みちぎった。
「あっ!?コイツ!」
「ついて来い、どけ!」
「なっ…!」「一貴!」「カズ!」
不意を突いた瞬間に一貴を手刀で気絶させ
弱った所に蹴りを入れるとそのまま担いで
逃げ去った。
「一貴!!!待てゴルァ!!!!!」
「ひえー!黒男も怒ったせんせもこえー!」
走り去る黒男。階段まで逃げると
上へ登るが、何故かそのまま上がらず
迂回するように図書館へ向かった。
しかしその先では丘咲が待ち伏せる。
「アームド・モダニズム!
行け、ワトソン!ひなりん!」
丘咲のペットのボーダー・コリーことワトソンの
化身と数年前怪我して落ちていた雀(今はもう放出済み)
ことひなりんの化身を召喚した。
ひなりんが前で羽ばたくと足がすくみ、
ワトソンが噛み付くと思いっきりずっこけた。
「うぅっ…!早くしなきゃ…」
「そこまでだ。
生徒に手を出してタダで済むと思うなよ」
「黙れ!政府の犬が!
あの方は欲している…あの方ためにも…!」
「ボスがいるんだな。よし死ね」
「てめえがなっ!」
体を勢いよく回転させると足にカース・エッジを
掛けて、蹴りを入れた。だが上手く構えて受け止めると足を掴みヌンチャクの如く振り回す。
壁という壁にぶつけ回すが出血が無い。
「負けねーぞ…!
こっちには家族がかかってるいるんだ!
"スパルタン・ライフ"…!」
「クソっ…不死の化け物が…!」
「あわわ…あんだけぶつけられて死んで無いとか…」
黒男が野上にがっつくと狂気とも言える
笑い声を上げながら力の限り押し除ける。
野上も必死の抵抗をしたが、離さず落とさずで
遂に突き当たりの音楽室にぶち込まれた。
「せんせえええ!!!」
福吉が悲鳴を叫ぶとギロリと視線を向ける。
体が膨れ上がっており、迫る姿は恐怖そのもの。
アッパーで福吉を天井に突き刺し引っこ抜くと
ワトソンとひなりん消し飛ばし、丘咲へ殴りかかった。
すかさず躱わして逃げ出すも影を伸ばして捉えてしまう。生徒3人は瞬く間に連れ去られてしまう。
「ごはっ…ハア…ハア…やめろ…
生徒に…手を…出すんじゃねえ…」
「悲しいな、お互い守るために失うばかり」
「抜かせ…!何者だ!」
「…さあな、ただ別の生徒でも連れてくれば
その時は教えてやるよ…」
そういうと3人を担いでどこかへ去った。
雪辱のまま野上もまた気絶した。
数時間後
「野上先生!野上先生!」
「…むぅ…ここは」
保健室だった。
運んでくれたのは見回っていた遥秋だった。
「何があったんですか!?音楽室の扉は変形して
廊下には血しぶきが飛散して…
そんなことより生徒はどこに!?」
「…すまん、俺のせいだわ」
「なるほど…」
事情を話すと遥秋は穏やかに笑う。
「とりあえず、お昼にしましょう。
朝から回ってもう14時も過ぎてますし」
野上も遥秋も持って来た弁当を広げた。
「遥秋先生…俺ぁ、教師失格ですよ…
叱った筈が、まさか生徒に言うこと聞かされる
ための勝負に負けて、生徒は行方不明。
退職届…書かなきゃなあ、なんて…」
「水っぽいですよ〜。大体本気で戦ってなくて
負けるなんて仕方ないじゃ無いですかぁ」
「ただ問題としては生徒を守りきれなかった
自分にあるんです。あそこで悠長な事はせず
とっとと(ゴー・ラウド・ヨドルクフ)をすれば…」
「それはこの後の見回りでしましょうよ。
あえて同伴をスルーしたのが吉とでましたし」
バツ悪そうに笑う野上を活気付かせ
午後の見回りを始める。
警察署の人間も取り調べで応援に来てくれた。
「では行きましょうか。
野上先生、無理は禁物ですよ」
「わかっている。
だが油断した自分への怒りが収まらん」
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補足なのですが、黒男は空襲で家族を失っています。
ゲームの勝者になれば助けてやろうと言われ、
勝利条件となる若い子供の体を取引にし、
少年少女を誘拐しているのです。




