第8話 特訓
本日も深夜更新です。
まあ、初連載なのでさぐりさぐりで。
よろしくお願いします。
久々に、俺は夢を見た。
「ゆ、夢だ。」
って分かるくらい。というか、暗闇の中に俺が学生服姿で宙を浮いてるこの状況って
「まるでノーデとあった夢とそっくりだな。」
ふと、俺にある考えがよぎる。
「ノーデがいるかもしれない。」
それからひたすら、ノーデの名前を連呼した。しかし、声はむなしく響くだけだ。
「そう、うまくはいかないよな。もっとナユユのとーちゃん、教えてくれればいいのによ。変なコードしか教えてくれなかったし。」
でもそういえば、あの人こうもいってたな。
――「信じるか信じないかは君次第、またいい夢が見れるといいね。」――
「もしかして、夢の中であのコードを言えば……。」
物は試しだ。
俺は大きく息を吸って言った。
「Operation code 再始動。」
すると、どうだろう。
夢の中を支配していた暗闇は一瞬で晴れた。そして青空から白いワンピース姿の少女がゆっくりと舞い降りてくる。
『久しぶりですね、一誠。』
俺の浮いているその場所まで降り立った幼女を見ると、彼女の名が思わず出てくる。
「ノーデ!」
実に一週間ぶりだ。
「もう会えないかと思ったじゃんか。」
するとノーデは手の届くところまで俺に近づき、
『私がいなくて寂しかったのですね。よしよし。』
俺の頭をなでた。気分は悪くないけど、幼女に撫でられる俺、外から見られるとネタにされるな。
「別に寂しくなんか、なくもなかったけど。」
『一誠は正直ですねえ。』
ノーデはなでる、褒める。これはこれで、違和感。
「なんか、お前そういうキャラだっけ?」
『私はもともと心優しい性格ですよ。それに、褒めて伸ばすタイプなのです。』
自分で心優しい、って言っちゃうんだ。それになんか、保護者みたいな。俺とノーデってそういう関係? じゃないよな。
「前みたいでいいから。変な感じするし。」
『一誠がそういうのなら、そうしましょう。』
真顔できっぱり、だな。切り替えはやっ。
さて、少し落ち着いたところで。
「ところで、説明してくれよ、なんで今まで出てこなかったんだ。それと、俺が受けた手術って……。ノーデ、おまえはいったい何なんだ。本当に俺の頭にチップは埋め込まれてるのか?」
『その様子だと、説明を受けなかったようですね。』
「ああ、そうだよ。近田先生、コード以外に何にも教えてくれないし。」
『じゃあ、時間はありますから、ちゃんと答えていきましょう。』
そしてノーデは語り始めた。
『まず一誠の受けた手術は少し特別なのです。』
――あれれ?
「チップを埋め込む手術は今時普通に行われてる、とか言ってなかったけ?」
『一誠、無駄に記憶力はいいのですね。』
褒めなければ、けなすスタイルなのか。まあ、そっちの方がイメージ的にあっているが。
『まだ世に出す段階ではないといった方がいいでしょう。普通の手術が視覚や聴覚といった特定の部位の代わりとしてチップを埋め込むのに対し、今回の手術は植物状態の人間に私のような人工知能のチップを埋め込んで、機能回復を図るというのが主な目的です。』
なるほど、すごい手術を俺は受けたのか。でもそうなると。
「俺の親がそのことを知らないっていうのはちょっとおかしい気がするけど。」
『それは半ば、手術を担当した近田付可志先生、私が普段マスターと呼んでいる人物の独断の判断なのです。手術の際、脳の骨折した箇所を補完するプレートの中にこっそりと私が入れ込まれました。しかし正式な手続きを踏んでいるというわけではないので、あまり公にはしにくいのですよ。この事実を知っているのはマスターだけかもしれません。』
「もしばれたら?」
『少なくとももう一度頭を割って私を取り出す、ことになるかもしれないですね。』
なんだって! 脳みそいじくられるのは嫌だ。
「つまり、ノーデのことは人に話しちゃいけない、ってことか。」
『別に話してもいいですよ。一誠の頭がどうかしてる、とか思われるだけでしょう。』
いや、それも嫌だな。
『さて、今日はチュートリアルでもしましょうか。』
「チュートリアル?」
『私の取り扱い説明、ですよ。』
すると、空中に何やら黒文字の羅列が出てくる。なんか、魔法の呪文みたいだな。
『私は基本的に自立して思考ができたり、一誠の目で見た映像はもれなく私もほぼすべて見ることができます。ただ、一誠自身が命令をしないとできないこともいくつかあります。その時の命令は命令コードを用いて行います。例えば operation code 再始動は私を起動させるためのコードです。』
「ああいうやつね。」
よく見れば、空中に映っている文字の羅列はcodeなんとかとか書いてある。どうやら、命令コードの一覧みたいだな。
「もしかして、今映ってるcodeって全部覚えなきゃいけない?」
『いいえ、基本は私が言ったコードを復唱してくれれば問題ないですよ。しかし、一部覚えてもらわないといけないコードもあります。特に重要なのはoperation code 夢の選択です。これは寝る前に唱えてください。そうすれば、唱えてから24時間の間、夢の中に私が出てこれます。逆に唱えないと、よほどのことがない限り出てこれません。これは口に出さなくても心の中でそういえば効力を発揮します。』
「了解。」
『そして、寝るという定義ですが、ここでは両目をつぶるということです。瞬きでもそれにカウントされます。』
「??? はい?」
『瞬き一瞬でも私に会えるということですよ。』
えっ。なんか、この一週間会えなかったのが嘘みたいだ。
『だから、私が恋しくなったらいつでも会いに来てください! 全力でサポートします。』
いや、それはそれでありがたみが薄れるというか。
でも、待てよ。何でもサポートってことは。
「それって、テストのときとか、分からない問題があったときにそのコード言えば、お前が出てきて答えを教えてくれる、みたいなことは……。」
『それはありません。自分でちゃんと解いてください。』
ノーデ、ニコニコ笑って即答。受験生特有の夢は、はかなかったな。
『さて一つお願いがあります。目標を決めてください。』
「目標?」
『そう、人生の目標、いや将来の夢といった方が近いですかね。それが私のカウンセリングの指針になります。例えばサッカー選手になりたいだったら、蹴るためのアドバイスをしたりしますよ。一誠の場合だと、入試に受かるために勉強を教えるとか。』
「いやさすがに夢で勉強までしたくない。」
『では、そう趣味の領域でも……。そう〝イセノ〟とか。』
「〝イセノ〟か。」
今日の鋭人とのやり取りが思い出された。そして、俺は口走っていた。
「俺は強くならなきゃいけないんだ。」
『何か、あったのですか?』
「鋭人と今度勝負することになって、勝たないと、カナデと勝負もできないんだ。」
『ほ、ほう。詳しく聞かせてください。』
ノーデはまだ理解できなかったみたいなので、俺は、事のいきさつを説明した。
『なるほど、鋭人さんが来た辺りは確認していたのですが、まさかそんな話をしていたとは。でも、これで次の目標は決まりましたね。鋭人さん、いやカナデさんと互角に渡り合えるほど強くなりたいということですね。』
「互角、じゃない、勝つまでだよ。」
『負けず嫌いですね、いや諦めが悪い、といった方がいいですかね。』
ノーデは笑みをこぼす。
『それで最終目標は、鋭人さんに勝つことですか?』
いや。
「最終的には、カナデに、あの技で勝つくらいまでに強くなりたい。」
そう、俺の目標は事故に会う前から変わっていない。
『そうと決まれば、特訓ですよ。毎晩、夢の中で私と対戦しましょう。そのために一つやっておきたいことがあるのです。』
「何?」
『Operation code 白昼夢と言ってみてください。』
例の命令コードか。何をさせるのかよくわからないが。
「オペレーションコード、デイドリーム!」
しーん。
何も起きない。
『じゃあ、このまま対戦……』
「待て待て、今のは何を許可するコードなんだ?」
『そうですね、百聞は一見如かず。〝イセノ〟の技を何か宣言してみてください。』
「じゃあ、【いっせいので〝雨〟】」
俺は両手を目一杯広げた。ノーデは両手をグーの形にしたまま、どこも上げていない。
すると、ノーデの周囲に雲が発生し、水滴が落ちる。ノーデの下げてる指に向かって。
『臨場感を出すための演出です。今までは文字や記号の羅列といったものしか私の権限では投影できなかったのですが、これでリアルな映像、それだけでなく音や空気の揺れ、匂いなどの部分も再現が可能になります。もちろん、夢の中だけですよ。』
「へえすごいな。いくら夢でも、こんなことできるなんて。」
『そりゃ最新式の人工知能ですからね。』
出た。ノーデのお決まりのセリフ。
「で、技を受けた感触とかどうなの? リアルなの?」
『ええ、〝雨〟なら水の当たった感触がしますし、より強力な技になると痛いと感じることもあるでしょう。』
まてよ、そうなると〝ブラックホール〟は……やばいな。
「痛くしないとかできるでしょ。」
『それだと、リアリティが下がってしまいます。それに痛いとわかっていれば、攻撃を受けたいなんて思わないでしょ。』
「それは、確かに。」
『強くなるのだったらある程度の覚悟が必要ですよ。そう、人は追い詰められて真の力を発揮するものなのです。さあ、じゃんけんして早速対戦ですよ。』
「う、うん……。」
俺は言い返せないまま、勝負が始まった。これがまさか、スパルタ特訓だったとは、つゆ知らず。
そして翌朝、俺は寝たというのに疲れていた。
「悪夢だ。」
何十試合、しただろう。ノーデはかなり強かった。
特に数あて能力に関しては、『当ててしまいますよ~』といった後必ず当ててしまうから、歯が立たず。逆にノーデは俺が使う技をすぐ学習して適切に使ってきた。
『私は技を覚えられ、一誠は数当ての力が上がる。まさにウィンウィンの関係ですね。』
いや、ウィンしてるのお前だけだぞ。
勝てなかった。後半は、試合にかかる時間も短くなって、ひどいときなんか2ターンで瞬殺だ。あと、適度にボケ入れてくるから、俺のツッコミ疲れもあった。
『楽しく対戦しましょう。モチベーションは大事ですよ。』
いや、お前のモチベが上がってるだけな気がするが。
しかし、飽きさせないという観点から言えば、ノーデは天才だったな。試合に飽きたと言ったら、ノーデは鋭人のことについて聞いてきた。
「保育園のころとかは俺とカナデが遊んでるのを見ると、すぐに仲間に入れてとか言ってたな。あの時から、ちょっと目つきと口が悪かったけど、年上だったからな。」
『〝イセノ〟のプレイスタイルとかはどうですか?』
「〝ツインパワー〟を狙ってくる感じかな。」
『ほう、〝ツインパワー〟。』
ノーデは顎に手を置いて、興味ありげだった。そういわれたら、教えてなかったな。
「そう、自分の出した指と相手の出した指の形が同じ時に発動するやつ。発動させた側に手術ポイントがたまって、強力な技が打ちやすくなるから有利になるんだ。1回の対戦で起こるか起こらないか、かといって、発動させようとしてもそう簡単には発動しないもんだけどな……。」
俺は自分でこういってて、今までのノーデとの試合で一度も発動しなかったことに逆に驚いていた。何十試合もしたのに。
「まさか、ノーデ、今まで〝ツインパワー〟になる状況、わざと避けてたなんてこと。」
『やっと気づきましたか。』
「でも、〝ツインパワー〟なんて教えてないはず、お前やっぱり、最初嘘ついてたんだな。〝イセノ〟のルール知ってたんじゃ。」
『一誠は早とちりが多いですよ。何事も傾向と対策です。受験でもそうでしょう。』
ノーデはめちゃめちゃ得意げそうに語る。
『私は一誠の過去の記憶の映像なら見ることはできます。つまり、一誠の事故前の鋭人との対戦もところどころ見ることができるのです。その時の一誠は鋭人と同じ指の形になったときにとてもいやそうな顔をしていました。だから避けた方がいいと判断したのです。』
納得、そしてなんか、安心した。自慢してるときのこいつは子供っぽくて、外見にあってる。
『じゃあ、一誠も狙って打てるような特訓もしましょう。そうすれば、逆に回避の仕方も身につくでしょう。そうですね、100回数当てとかどうです。』
「100回!」
『こういう修業的な展開には、それ相応にインパクトのあるものをという方が燃えないですか。そういう困難を乗り越えて、新しい自分になるのですよ。』
あれ、どっかで聞いたことのあるセリフ。
『これから一誠が数当てのみを100回宣言して、私は適当に指を上げます。当てられる回数を増やせれば良し。〝ツインパワー〟を発動させることができればなお良しです。』
こうして、特訓メニューが増えていった。
そして俺が休憩したいって言ったら
『だったら、バンジージャンプでもします?』
と、謎理論。なぜそうなる?
『普段、一誠ができないことをこの白昼夢下では体験することができます。あと負けた罰ゲームを兼ねて、ほら準備はいいですか。』
息をする間もなく急に風景が変わって、山間の峡谷になって。俺はヘルメットやら長いロープの付いたプロテクターやらを装着していて。
「えっ、えっ。」
『3、2、1、バンジー!』
ぎゃああああああああああああああああああ。
ああ、思い出したらキリがない。
「あいつには敵わないなあ。」
残り一週間、不安でしかない。
次回は3/7
更新時間は今までのから察してね。