第9話 勝負の場
本日もよろしくです。
2030年10月9日。この日は俺の誕生日。
一週間は早かった。左手は治り、杖なしで自力で立てるようにもなった。ただ、歩くにはまだぎこちない部分がある。
俺の左手には技板とひもがある。公式ルールだと確か、これを腕に巻いて戦うはずだ。
「ここか……」
病院の屋上庭園。たしか、俺の病室20個分の広さはあるとか、母さん言ってたな。かなり大きい。
「こんな大きなところでする必要もないのに。」
とはいえ、病室で大きな声出せないし、仕方なかったのか。それとも、何かサプライズとかあるのかな。幸い、今日は雲はあるけど晴れてるからよかった。
ドアを開ける前に俺は一瞬瞬きをした。すると
『いよいよですね、一誠。特訓の成果を発揮するのです。』
とノーデの声が聞こえてくる。
ほんと、現実では瞬きという1秒にも満たない時間でも、俺の脳内空間じゃ5秒くらいあるみたいで、そのたびにノーデが一言コメントしてくる。スマホとかまだ持ってないけど、ネットでチャットするとか、こんな感じなのかな。正直、時々うざい。
「特訓、何百回と試合したのにお前に勝てずじまい。100回数当ても当てられる今のベストはたったの3回。成果あったのかな。」
『相手が強いですからね。大丈夫ですよ、自信をもって。』
ノーデ、遠回しに自画自賛か。だけど、こいつと戦って少しだけ強くなった気もしてる。
「やってやる!」
さて、現実での俺は横開きの扉を開けた。て、えっ。
「一誠誕生日記念、イセノ対決、世紀のベストマッチ」
と書かれた特設ステージが中央に用意され、そこを取り囲むように楕円上に観客がいる。
「一誠、こっちよこっち。」
母さんが手招きをして、俺はそこまでいくけれど。
「何これ、母さん。こんなに人がいるなんて。」
「いいじゃない、こういうちょっとしたイベントも刺激になるでしょ。とくに一誠よりも下の子たちなんかはね。あ、ちゃんとケーキも準備したわ。」
確かに見渡せば、病院で入院してる子供も何人か見かける。というか、今日の主役の俺を差し置いて、もうケーキ食べてる。
「まあ、事の発端は試合をどこでやるか、ってことからだが。」
ステージの上から聞き覚えのある声。
「鋭人!」
「死にかけのままでなくて何よりだ。」
「う、うん、おかげさまで。それでその、どうしてここになったの。」
「お前のいる病室だと共同部屋だから大声は迷惑になるっていうし、かといって病院内にいい感じの空き部屋はないらしいから、結果的にここしかなかったわけだ。いろいろもめたから病院内でもちょっとした噂にはなってたんだが、お前には秘密っていうのは今日まで何とか守れたぜ。」
どうやら鋭人も準備を手伝ってくれてたみたいだな。
「まあ、オレとしては公衆の面前でお前を叩き潰せるなら大歓迎だ。イッセーの敗北の証言者がそろってくれてな。」
相変わらず一言余計だけど。
それとよく見知った顔も。
「トーモとナユユもいるんだな。」
「私が呼んだのよ。友達呼んだ方が俄然、やる気も出るだろうし。」
母さん、逆だよ。緊張するよ。
「お邪魔、でしたか?」
「いや、邪魔ではないよ。ただちょっと、恥ずかしいっていうか。」
トーモが言ったら「邪魔だったよ。」とか勢いで言いそうだったけど、ナユユにそういわれると、言い返しにくいんだよな。
「この戦いに勝利した暁には、カナデってやつと戦えるんだろ。世界3位の人だっけ? すごいじゃん、あんな奴もイッセーなら余裕だぜ。」
「私は、その古い友達のカナデさんと話すためにはあのお兄さんが邪魔をするから、九山君が〝イセノ〟の勝負を申し込んだと聞きました。何でもその時の様子が男気溢れる感じだったとか。」
なんだろう、トーモとナユユのちょっとずれた視点というか。たぶん母さんがこの勝負に至るまでの一連の事を話したんだろう。母さんの偏見が入ってるよな。
それにしても、あの人はいないんだな。
「誰か探してるのか?」
トーモが不思議そうに聞いてきた。
「いや、ナユユのお父さんはいないんだなって。」
「パパは、忙しいから。それに、あまりこういうのは好きじゃないと思う。九山君のお母さんがこの企画をしたいって言ったときも反対してたみたいだから。」
ナユユが暗そうに答えた。ナユユってこの前もお父さんのことを気にしてたし、家庭でいろいろ苦労してるのかな。それとは別に、俺のお母さんの強引さには関心する。
「お話はそこまでだ、やるぞ。」
鋭人が手をたたいて、言った。
「一誠、体調が悪くなったらいつでも声をかけるのよ。立つのも苦しかったらほら、椅子も用意してるから。」
母さんはパイプ椅子に手をかけて言っている。
「でも、鋭人は立ってやるんだろ。なら俺も立つよ。」
見下されるのは嫌だしな。
『変な意地張らなくてもいいのに。』
ノーデが瞬きの瞬間にそうコメント。お前は俺の事、ほんとなんでもお見通しだな。
「さあて、ルール確認だ。公式ルールに基づいて、使える技のレベルの合計は100以内、そこには持ちターンも1ターンにつき1でカウントされる。今回は事前にお前の母さんに使える技、持ちターン両方を申告してる。もし、これを破って申告していない技を使ったらその時点で問答無用、負けだ。まあ、技の宣言時には技板が光るからわかるだろうが。」
鋭人が場を取り仕切る。こんなちゃんとした公式ルールでやるのは初めてだ。今まではせいぜい友達とやるくらいだったから、技はその技の発動条件を満たせば使ってたし、ターンも無限だった。
「そんなことはしないよ。」
でも、これがカナデの戦っているルールだから。あいつと戦うには慣れるしかない。
じゃんけん、先攻は鋭人。
お互いに透明色の技板をつけた腕輪を右手に装着。最も鋭人はちゃんとした腕輪なのに対して、俺のやつはひもでみずぼらしい感じがあるが。
「じゃあ、いくぜ。」
俺は深呼吸し、一瞬目を閉じた。するとノーデがこう言ってる。
『準備はいいですか? 一誠。』
俺は夢でも、現実でも少しだけうなずきながら、そして目を開けながら、言った。
「ああ。」
勝負が始まる。
次回は3/8です、VS鋭人戦はじまります。
あと、「ほうれんそう」は大事なので予告しときますと
鋭人戦終了で1週間休みます。よろしくお願いします。




