第56話 重要なタスク
最近サブタイトルを付けるときに意識しているのはダブルミーニング。
今回のやつも2つ以上の解釈ができるはず。
それでは本編です。
「どういうこと?」
カナデの疑問は、この場にいるみんなが知りたがっていることだろう。落合君は間をおいて静かに語り始める。
「妹の真奈が事故にあって、意識が戻らないままねたきりなんだ。医者はこの一週間で目覚めないと厳しいと言っていた。」
想像以上に深刻な内容に、皆言葉を失う。
「そして、今入院している病院よりももっと設備の整った病院で手術が必要とも。ただ、今の落合家にはその費用を用意するお金がない、それにお金が用意できたとしても執刀してくれる医者を確保できるかも問題だった。」
「だから、十指選の座を……。」
俺は無理やり言葉をひねり出した。たぶんこの内容をすっと理解できるのは、ノーデに対して同じことをしようとしている俺だけだ。
「そうだ。何か動かせる力が俺は欲しかった。」
「もしかして、千草さんの自己紹介の時の唐突な告白も。」
「塩町グループのつてがあれば手術費用が払えるかもしれないと思っていったことだ。悪かったな。」
合点がいった。本気の告白にしては、断られてもすぐに引き下がっていたし、たぶんその時に十指選の座を狙う方針に切り替えたのかもしれない。
「……そうか。なんとなく違和感はあったが、腑に落ちた。」
千草さんが我に返ったように言った。
「わ、私のパパが医者で。話せば何かお役に立てるかもしれません。」
ナユユの提案。確かに近田先生ならアドバイスや、もしかすると執刀もしてくれるかもしれない。
「拙者もできる限り協力しよう。まずは母に話してどうなるかだな。」
千草さんも自分のできる範囲のことをしようとしている。正直、俺も力になりたいがこれといってできることが……。
「悪かったすね。勝負前に、バカにして。」
本庄君は素直に落合君に謝罪した。
「ああ、別に気にしてないぜ。」
「そうっすか。でも、ごめんなさいっす。俺っちは見直したっす。弼っち、妹思いのいいお兄ちゃんじゃないっすか。」
いつの間にか、本庄君は落合君のことを下の名前呼びしている。
「いや、そんなに仲がいいってわけじゃなかった。ただ、俺のせいで妹は事故に……。」
「えっ、どういうこと?」
今度は俺が思わず落合君に聞いていた。
ここからは私、ノーデが弼さんの話した内容をもとに回想したいと思います。ああ、妹の真奈さんの名前と混乱するので以降下の名前呼びになります。
2031年3月1日。近芽台中学の合格発表日。
「結果なんてネットでみればいいだろ。わざわざ来なくても。」
「お兄ちゃん、またそれ。本当、わかってない。こういうのは自分の足で行って、自分の目で見ることに意味があるんじゃない。」
落合兄妹は近芽台中学を訪れていました。この2人、話せば大概、大なり小なり喧嘩になり、この日も、ネットで見ようとした弼さんを真奈さんが制止し、強引に近芽台中学の掲示板まで引っ張ってきたそうです。
合格発表の掲示板には学生の人だかり。真奈さんは緊張した面持ちで上から順に番号をチェックし、やがて笑みをこぼします。
「あった、真奈の番号。お兄ちゃんは。」
「なかった、帰るぜ俺は。」
弼さんはぶっきらぼうに言って帰路につきます。その間彼には真奈さんの言葉は何一つ頭の中に入ってきませんでした。なぜなら、後悔で頭がいっぱいだったから。
もともと頭の悪い自分に受験など向いていなかったんじゃないか。出来のいい妹に挑発されて負けたくないと思って受験しただけ。そもそも思いが強くもなかった。そういうことを考えていて。
「お兄ちゃん!」
妹の鬼気迫る声で気づきました。自分が信号無視をしていることに。そしてすぐ目の前に車が迫っていたことに。
そしてそう気づいた瞬間に、自分は妹に突き飛ばされていたことに。
「真奈!」
そう振り返った瞬間、真奈さんは宙を舞っていました。そして地面に落下し、ピクリとも動かなくなります。弼さんは思わず駆け寄ります。
「真奈、なんで。」
頭や口から血を流し、それでも言葉を振り絞りながら彼女は発しました。
「お兄ちゃんは……真奈にとって、大切な……お兄ちゃんだから。」
それが弼さんのきいた最後の言葉でした。
「なんて、切ない話なの。」
いつの間にかハンカチを取り出し、号泣しているカナデ。女性陣や本条君も目がウルっとしている。
『一誠は泣かないのですね。』
「泣かないっていうより、似てるなと思って。」
そう、似ている。ショックを受けて周りが見えなくなって事故にあうってところは特に。違いは事故にあったのが、後悔した本人じゃないってくらい。
「あとで俺に補欠合格の通知が来たが、正直最初はここに来ることも迷ってた。でも、行くいかないを決める日は迫ってきた。その返事をしなきゃいけない日、事前登校日の2日前だったか。オカンから、真奈が俺を受験しようと挑発したのも、結局は俺と同じ学校に行きたくてやったことだったって聞かされた。それを聞いて俺の足はいつの間にかこの学校に向かっていた。」
居ても立っても居られない気持ちはすごくわかる。俺も同じ立場なら同じ行動をするだろう。
「だけど、いっても何も変わらない。妹が楽しむはずだった学校生活を俺が楽しんでも意味はない、そう思って正門で引き返そうとした。そのとき変な仮面の奴とすれ違った。」
「仮面のやつ?」
「神辺とかいったか。」
それって、現十指選ナンバー1の。
「神辺零世……。」
カナデがつぶやく。
「あいつはすれ違いざまに一言だけ言った。」
「君の求めるものはこの学校にある。」
「俺が振り返ると奴は消えていた。でも俺は確かに聞いた。そして後で調べて、あの面が十指選のトップがつけている面だと知った。」
「でも、はあ、その話、はあ、信憑性かなり薄いのよね。」
万倉先輩が教室のドアから現れる。やっぱり近くで勝負をみていたようだが。
「なんでそんな息を切らしているんですか?」
俺はストレートに疑問を口に出す。
「なんでって、そりゃ……。」
そういうと千草さんの方を向き、教室の外を指さして言った。
「塩町千草さん、あなたのボディーガードが『オジョウサマノストーカー。』とかいって止めてきたのよ。私はあなたじゃなくて、カナデさんと落合君の勝負をこっそりのぞいてただけなのに。」
「それはすまぬ。しかし、それがスリーの仕事なのだ。」
申し訳なさそうな表情で千草さんは答えた。
「堂々と出てくればよかったじゃない。」
「その、場の雰囲気があるでしょ。場の雰囲気が。」
先輩、どうやら空気を読んで待機していたらしい。確かに登場タイミングも図ったようだったし。
「妹さんの話は初耳だったけど、さっきの神辺さんの話は今日の生徒集会の後、ちょっと聞いたのよね。でも、落合君が見たのはあくまで面をかぶった人。神辺さん本人かはわからない。それにあの人、なんか底しれない感じはあるけど、この学校にそもそもそんな名前の人はいないし、仮に来ていたとしても突然消えるなんてことありえないでしょ。」
「そうなんだ、私まだ一度もあったことないけど。」
俺も年末に一度、十指選の会合で見かけただけだからわからないけど。
「それはあなたが指輪を3月末に取りに来たからでしょうが。いい、十指選全員が集まる会合は基本、春夏秋冬の4回しかないの。この前の春は3月頭にやったけど、そのときあなたはいなかった。」
カナデをまくしたてる万倉先輩。
「いやあ、その時は引っ越し準備で忙しくて予定が合わなくて。ごめんなさい。」
「まあ、そんなわけで俺はこの学校に来る前に十指選のことを調べ、十指選の座に就けばうまくいくんじゃないかと思って勝負を挑んだわけだ。」
落合君は自分の話をまとめた。万倉先輩が入ってきて、彼も空気を読んだのだろうな。
「さて、落合君の事情は事情だけど、私もそうやすやすとこの十指選の座を譲る気はないのよね。あなたはどう、カナデさん?」
「残念だけど、私もそんな気はない。弼君には悪いけれど。」
「おい、いつから下の名前で。」
「あなたの妹の真奈ちゃんと混同するでしょ。」
カナデはこういってるけど彼女は勝負した後、認めた相手には下の名前で呼ぶようにしていたな。カナデなりの敬意だろう。
「そう、薄情なのね。」
「これは私が自分の手で勝ち取った、大切な証。それを譲りたくはないし、それをかけた勝負も手を抜くつもりもない。それに今の話を聞いた感じ、本当に十指選になったら解決するのかはっきりしないしね。」
確かに。お金の面はなんとかなっても、手術の手配までそう簡単にいくとは限らない。
「なるほど。まあ、あなたの特性、しかと見させてもらっただけでも収穫だけど、勝負の手配も無駄にならずに済んだようで何より。」
万倉先輩は息を吸い、この教室中に響き渡る声で言った。
「カナデさん、あなたとの勝負は3日後、4月10日の放課後、場所はこの学校の中央に位置するサブグラウンド。全校生徒が見渡す中での一度きりの勝負。勝てば十指選残留、負ければその時点で即離脱よ。」
「望むところ。」
お互いの視線、そしてお互いの闘志がぶつかりあっている。
『これは必見ですね。』
ノーデ、そうだな。
「じゃあ、私は用が済んだからこれで。」
万倉先輩は足早に去っていく。
「三好さんの疑問には答えたぜ。俺との勝負は。」
「ごめん、それは明日。そろそろ帰らないと鋭兄が心配するから、ね。」
落合君の発言に、かわいらしく片手でごめんポーズをとりながらカナデは答える。そういえば、こっちに戻ってきてから鋭人と同じ家に住んでるんだっけ。
「絶対、明日うけるんだろうな。」
落合君はそんな事情はお構いなくカナデをにらみつける。それにカナデもちょっと押され気味になりながら答える。
「う、うん。それに私も妹さんの件は考えてみる。何かいい解決策思いつくかもしれないしね。」
「拙者たちも協力する。案ずるな。こういうのは一人で悩まず相談した方がいいものだ。」
千草さんは落合君の肩に手を置きこういった。ナユユもコクコクうなづき意思表示している。その様子を見て、落合君の表情も少し緩んだ。
「……ひとまず、感謝するぜ。」
こうして放課後の教室の出来事はひとまず丸く収まり解散となった。
しかし。
「何か忘れているような……。」
「そういえば、勝負に見入っちゃったすけど、部活巡り、どうするっすかね。」
それだ、本庄君の指摘で思い出した。
「部活ね……。」
窓に目を移せば、日が暮れかけている。本庄君も察したようだ。
「そうっすね。じゃあ、今日は帰宅部ってことで。」
前書きに関連して、作者はできる限りシンプルなタイトルに意味を詰め込みたい派です。まあ、詰め込めないときも多いのですが――。
次回は12/23で設定集,そのあと一週休みで本編自体は来年からの予定です。よろしくお願いします。




