第26話 年明け
話の続きは2週間ぶりですね、頑張ります。
本編は新章開幕です。
2030年12月31日。世間は一年の終わりで浮かれているが、俺たちはこの日も冬期講習、塾で缶詰になっていた。
「ここ、ここは重要だから暗記しとくんだぞ。お、時間か。次の授業は年明け1月4日から、宿題は黒板に書いた通りな。以上。」
塾の先生がそう言ってチョークを置くと、みんなぞろぞろと帰り支度を始め立ち上がる。俺も立ち上がって伸びをして、横にいるトーモとナユユに話しかける。
「やっと帰れるね。」
「疲れたけど、やっと何もない休み。」
「今日、本当は休みだったのにな。」
本来は昨日で今年の授業は終了だったのだが、大雪が降って休みになり、今日行くことになった。この地方では雪はそんなに降らないはずなんだけどな。
『受験生に冬休みなどありませんよ。』
ノーデは辛辣な一言。
「それで、この前の懇談のときの話、ノーデさんのことはどうなったんです?」
ナユユが耳元でささやいた。ナユユもお母さんのことを知った以上、ノーデのことも気になるよな。
「一応、神杉神社の方に行ってみて助言はもらった。解決策もあるっぽいんだけど具体的には教えてもらえなかったな。」
「そうですか。」
「なんの話してるんだ?」
トーモが話しかける。
「別に大した事じゃないよ。」
俺はそう紛らわした。ごめんな、トーモ。でも、あんまり事実を公にしない方がいいんだ。
「ところで、結局イッセーはどこ受けるん?」
そうトーモが聞いてきた。出願は年内、確か27日締め切りだったな。ちょうど神杉神社に寄った日だ。もうかなり早めに出したから忘れてたけど。
「今の俺の学力だと近芽台で精一杯かな。」
「やっぱり事故の時のブランクは大きいもんな。ナユユは?」
「近芽台もだけど、親の方針で広王大も一応。」
「えっ、じゃあ広王大が第一志望?」
「いや、近芽台で。私はその、みんなと一緒にいたいし。ママが行ったところだから行きたいっていうのもあって、あくまで受験するってだけ。」
「そうかあ。いや、近芽台は設備が最新鋭のものそろえてて魅力的だしな。俺も第一志望がそこなのは変わってないんだけど、これがな。」
トーモは親指と人差し指で丸を作る。お金か。
「やっぱり学費が安いところの方が親も言ってほしいみたいで、親がひそかに広王大の出願もしてたみたいなんだ。まあ、難易度も倍率も高いし、一応チャレンジはしてみるけどって感じだな。あと、近芽台も行くなら特待生になれって言ってきてる。」
親の都合に振り回されるっていうのはどこの家庭でも同じなんだな。そうなると俺は親の母校ってことで近芽台だけ出願したけど、案外それで恵まれてる方なのかもしれない。
「まあ来年、残り2か月乗り切れば終わりだ。とりあえず頑張ろう。」
「「うん。」」
そういって俺たちは塾の外で別れ、それぞれの帰路につく。俺は年越しそばを食べ、こたつに入りながら、家族と年末特番を見て過ごした。
「3、2、1」
画面の向こう側、カウントダウンが0に近づくにつれて、去年いろいろあったなって思い出される。
「0、ハッピーニューイヤー。」
2031年1月1日。
「一誠、あけましておめでとう。今年は勝負の年だな。」
「まあ、去年いろいろあって財布はちょっと厳しいけど。私たちは応援するから。」
「うん、まずは受験。そしてカナデとの約束。そして、ノーデの件。俺、頑張るから。」
父さんと母さんは暖かい言葉に俺はそう返した。
そして一瞬目をつむる。ノーデにも一言言わないと。
『あけましておめでとうございます。』
不意打ちだった。
いや言葉にではなくて、服装にだ。ノーデはいつものワンピースではなく、振袖姿。服装変えてくるのは実はこれが初なんだ。
「あけましておめでとう、その服装は?」
『正月仕様です。』
いやそうなんだろうと思ってるけど、似合わないな。それにこいつ小さいから七五三って言われた方がしっくりくる。
『一誠の考えてることは大体わかりますよ。似合わないと思ってるんでしょう。』
ムッとした表情でノーデは言った。
「いや、そんなことは……。今年もよろしくな。」
『ごまかさないでください。そうですね、早速夢の中で勝負して私が勝ったらさっき何を考えたのかあらいざらい吐いてもらいましょうか。』
勝負か……。
こいつ、〝イセノ〟で士義さんに負けてからというのもの、数当て頼りの戦術から徐々に技の使い方にも磨きがかかってきていて。俺も食らいついてはいるんだけど、俺が太刀打ちできるレベルじゃなくなってきている。
「じゃあ、俺が勝ったらそうだな、三日間その姿でいろよ。」
俺も一応、張り合ってはいるが。
「って言っても正直お前に勝てるかどうか。ノーデの成長ものすごいんだよな。いつか、由多さんみたいに強くなっていくかもな。」
『まあ、元がもとですから。』
そこは素直に自慢するんだ。
『でも、カナデさんという見えない目標よりも私という見える目標の方がやる気も沸くでしょう。』
まあ、その通りでもある。こいつもこいつなりに考えてくれてるのだ。
『で、勝負します?』
「初夢からか。」
『初夢とは1月1日から2日にかけてみる夢のことですよ。』
「そうか、じゃあ、今日は今年の戦績にはノーカウントだな。やるか。」
俺はそうして寝どこについた。
そして
「またここに来た。」
神杉神社。想像はしていたが、人が多い。それもそのはず、初詣だからな。
相変わらず本殿は改修工事中。今は鐘のある小さな祠とメインと化した離れの建物、仮設営されたテントだけだ。
俺たち九山家も、家族三人、プラス俺の脳内の一人で初詣である。
今日の目的は。
『受験の合格祈願ですね。』
「一誠、これ賽銭ね。」
母さんから手渡された五円玉を俺は賽銭箱に投げ入れた。そして鈴をガラガラ鳴らし、二礼二拍手一礼。今年俺が願うのは、志望校合格ともう一つ。
どうにかして、ノーデと長くいられますように。
お参りも済ませたし、あとは……。
本殿は改修工事中だから、外に縄で囲まれた特設のお祓いスペースでするようで、今も太鼓と笛の音を響かせながら、祈祷している。
「あれ、士義さんだな。」
まあ、神主だから当たり前っちゃ当たり前だが。お祓いの時に使う、白い紙がいくつも束ねてある、こうわっさわっさしたものを振っている。
『あれは大幣というんですよ。』
「へえ。」
ノーデって本当何でも知ってるよな。
「せっかく来たんだ。お祓いでもしてもらうか?」
父さんが提案した。
「いや、いいよ。お祓いは高いし。特に去年、手術費用とかでかかったし、今年は入学とかでまたお金がかかるでしょ。」
「偉いわね、一誠。そういう気づかいができるようになるなんて。でも、何もやらないで帰るのも。おみくじだけでもやっていきましょう。ほら、あそこにある。」
母さんの視線の先にはおみくじを売ってるテントがある。でも何やらその隣で行列を成すものもある。
テントの脇にある看板にこう書いてあった。
「おみくじ数当て?」
次回は5/13予定です。
3章で話は一区切りつけたいなと考えてます。
引き続きよろしくお願いいたします。




