第157話 コンサート④
読者の皆様へのお願い:作中のゲーム〝イセノ〟の掛け声を募集中です。基本は「いっせいのーで」のような感じですが、正直何でもあり。一応作中の腕輪は3音あれば掛け声判定できますので、最低3音以上あればOKです。思いついたら感想欄にどんどん書いてください。
さて、今回はバトル回、一誠と百舌の視点を行ったり来たりします。それでは、どうぞ。
「ア~♬」
~♪
〝魅惑の不協和音〟の歌声が、このアリーナにこだまする。そして高木さんはその声に合わせ、予告通り次の曲を演奏開始。美しい歌声と、笛の伴奏はこの場にいる者を惹きつける。しかし、惑わされてはいけない。
「【いっせいのーで〝雨〟】」
とりあえず、自分でポイントを貯めに行かなければ。俺は追加で4か所を固めた。
「【♩♫♩♪〝♫〟】
ここで聞き覚えのあるフレーズ。おそらく最初にも聞いた、掛け声のメロディが入っている。ただ正直、この音楽から何の技を宣言したかまでは、まだ全く見当がつかない。だけど、技の挙動を見れば、使った技はたぶん――。
「【〝最高の手術〟】」
俺も高木さんが使ったであろう技を宣言。これでお互い固まった指を5か所ずつ治す。だがそこで、俺は計算ミスに気付く。
「しまった、このターンでかかる指を忘れてた。」
俺が3ターン目の〝雨〟で固めた指は左の4本。ここに3ターン目〝魅惑の不協和音〟で固められた左親指で、計5か所、左手全てが固まっている。いつもなら、〝最高の手術〟で治せば全回復になる本数。しかし、この5ターン目も〝魅惑の不協和音〟によってさらに指が1本、追加で下げ固めになる。そこまでは治せない。
『初歩的なミスですね。』
ノーデが瞬きの合間に、あきれ顔で俺につぶやいている。
いや、そんなことは分かってるよ。でも、見たことのないプレイスタイル、そして見たことのない特性。そんなすぐに対処できないんだよ。
「さっき固めるのを3か所にしていれば、九山君の指は……。」
「いや、無駄なあがきだ。この音楽が続く限り、クヤマは永遠にタカギの〝魅惑の不協和音〟に魅了され、己が指を差し出し続ける運命。」
ナユユと鵜飼先輩がそう実況している。
確かにこの特性を攻略しないと毎回、俺のターンの始まりに指1本は確定で水に覆われ、下げ固めになる。これは露骨な〝トリック〟封じ。俺は高木さんのポイントに干渉することができない。
「【♩♫♩♪〝♩♪〟】
今度は、何を使った?
『一誠、手元を。』
このエフェクトは――。
Turn 6
Issei 5pt Mozu 10→5pt
【〝frost〟Lv.3(S1)】
R●●●○○ R○○○○○
L●●●●● L●●●○○
アタシの奏でた技は〝降霜〟。これで九山君の周りに冷気が立ち込め、右親指には霜が降りる。
「〝降霜〟は手術系を3ターン封じる技。これじゃ……。」
「そう、クヤマは〝魅惑の不協和音〟の呪いに徐々にむしばまれ、それを解呪することすらままならない。」
2人の実況通り、固まる指を治す最有力手段である手術系の技を封じてしまうと、この特性に対処できなくなるやつは多く見てきた。さらにアタシはまだ5pt持っているから〝降霜〟はもう一度放てる。そしてここから追加で5ptを貯めるのも、難しいことじゃない。
さあ、どう来る?
『【いっせいのーで〝6〟】』
なるほど♪
Turn 7
Issei 5pt Mozu 5pt
【〝6〟】
R●●●●● R●●●●○
L●●●●● L○○○○○
固まりきるまでに数あてで抜ける、これが最善だ。そしてノーデなら数あてはお手の物、だから交代した。
「か、片目モード……。」
「なるほど、あれがクヤマの覚醒状態ということか。やはりお前もこちら側の人間。」
鵜飼先輩、何か勘違いしてないか。
『当たりましたね。防ぎますか?』
そんな実況に動じず、ノーデは高木さんに問う。ここで、〝シールド〟してくれれば5ptを消費する。そうすれば今発動している〝降霜〟が終わっても、すぐにまた次の〝降霜〟が飛んでくることはない。
しかしそんな期待は、すぐに裏切られる。
「~〝♩♪〟】」
展開されたのは、円形に渦巻く電撃の壁。
『〝電磁バリア〟、ですか。』
数あて特化型の防御技。この技は、小指が動き、かつレベル6以上の技を使用不可にして使える。ポイントは消費しない。そして高木さんが髪飾りから吊り下げている技板は見たところ15枚前後。あの中にレベル6以上の技が1つだけとは考えにくい。もう何回かは、数あても防がれる。
いくらノーデだって、あの数あての神、有弦みたいに数あてが必中ってわけじゃない。どうすれば……。
『さあて、どうしたものですかね。』
そんな中、瞬きの合間にノーデが俺の脳内空間にやってくる。その言葉には焦りどころか――。
「ノーデ、なんだよ、そんな呑気な言葉。」
『呑気、ということはありません。私も次の手を考えています。』
「でもなんか、オリエンの時はもっと必死だったじゃないか。それにこの勝負に負けたらお前は……。」
『負けませんよ。』
そうつぶやいたノーデの顔は、あきらめた奴のそれじゃない。いつもの、どこか達観している目をしている。
「その、根拠はあるのか?」
『少し確認ですが、さっきの〝電磁バリア〟の直前の音、一誠にはどう聞こえましたか? ドレミで答えてください。』
「えっ、ファ、いやソとラ? あんまり聞かない音だったからわかんないよ。」
『一誠の音感はあてになりませんね。』
「元からあてにするな。俺、絶対音感なんて持ってないんだし。」
『しかし、そういう情報1つでも彼女が笛で押さえる指と照らしあわせば、おのずと答えは出ます。そして今、高木さんの奏でる音楽の法則性について、目星は付きました。』
「わかったのか⁉」
『はい。そしてわかってしまえば、次に音楽が奏でられた瞬間、その意味を理解し対応をとることができるでしょう。』
さすが、ノーデというべきか。さすがAIの解析能力。
しかし――。
「それでここから勝てるのか?」
『一誠、彼女はすべて音でやり取りしているといいましたね。裏を返せば、その音楽の法則性を理解すれば、技は愚か、彼女がその時に出す手の形さえ、寸分も違わずにわかってしまうのです。それはつまり……。』
「そうか。」
俺たちの数あてが、必中になる。
『そう。まあその法則性をここで話しても、一誠がすぐに理解し解読できるというのは厳しいでしょう。』
「そ、そんなことは……。」
『さっきの私の質問、答えはファのシャープにラのフラットです。今回はこの音程を聞き分けられないと攻略できませんよ。』
くぅ、それを言われたらぐうの音も出ない。
『ですので必然的に、数あて担当は私、ということになりますね。』
おっと、ノーデのこの言い方。そしてこのニヤリ顔。
「さてはお前、〝イセノ〟やりたいだけだな。」
『オリエンの時は少し我慢してましたからね。現実でもたまにはやっておかないと勘が鈍るというものです。』
いや、有弦との試合も少し、お前に体預けたよな。いや待てよ。オリエン終了後のバスの中の『これから俺がやる勝負全部に関わせてくれ。』っていうのもそういう打算あっての話か。
「なんか、してやられたような気がする。」
『何の話ですか?』
「なんでもない。」
勝負での俺とノーデの配分は、少し考えないとだな。でも今は、勝つことが優先だ。
「まあ今回は! お前に任せた方がよさそうだ。ああでも、このターンの技くらいは俺に宣言させろよ。」
『そうですね。ではお願いしますよ。』
そして現実世界へ。
「また1本、九山君の指が。」
手元を見れば〝魅惑の不協和音〟の被害にあっている指は3本。徐々に増えていっている。となればもう、あの技に望みをかけるのが得策だろう。
「だが精神統一は十分のようだ。来るぞ、クヤマ渾身の一撃が。」
ああそうだよ、鵜飼先輩。この試合、たぶん俺の最後の宣言。
「【〝追い風〟】」
Turn 9
Issei 5→0pt Mozu 5pt
【〝tailwind〟Lv.3】
R●●○○○ R●●●○○
L●●●●● L●○○○○
ヒュー、チャリッ。
笛と歌声の音色にそんな雑音が混じる。九山君が宣言した技の影響で風が吹き、互いのたれ下げた技板が揺らされたから。
〝追い風〟、指定した技の効果のうち、ターン数を2倍にする技。今の状況、この技の効果を素直に適用するとすれば、指定する技はおそらく〝タイムスリップ〟。ターン数を2ターンから4ターンにして、少しでも長く持続させようとしているってところかな。
そしてその〝タイムスリップ〟を発動するタイミング、これを今後の戦局で見定めようという算段でしょう。少しでもこの〝魅惑の不協和音〟の攻略の糸口、そしてこの投影されているアタシの手から指の上げ方を予想したいものね。
でもそう悠長にアタシが待つとでも?
君は既に〝魅惑の不協和音〟の効果を3か所も受けている。それなら十分、この技は刺さる。
「【♩♫♩♪〝♩♪〟】
Turn 10
Issei 0pt Mozu 5→0pt
【〝taping〟Lv.3(S1)】
R●▲▲▲▲ R○○○○○
L●▲▲▲▲ L○○○○○
『これは⁉』
俺の両親指以外がすべて、1つに束ねられている!
「〝テーピング〟、3ターンの間だけ、相手の指を自分の動く指の本数分結束できる技だよ。」
高木さんはまた1曲拭き終え、口を開く。
『結束……。指定する指をくっつけ、どこか1つの指に統一したということですね。』
「ご名答。君の指は3本、下げ固めだった。そして私が今動く指は8本。つまり君の固まっている指1本と動く指7本を、例えば今みたいに右人差し指に統一すれば、君の指はすべて下げ固め、というわけさ。」
「つまりクヤマ、〝魅惑の不協和音〟の呪いは、全体に波及したということだ!」
鵜飼先輩の中二語録は、まさにその通り。俺は今、すべての指が水に覆われて自由が利かない状態だ。おそらくこれが、高木さんの奥の手。1か所でも〝魅惑の不協和音〟にかかり、それを治さない選択を取れば、たちまちすべての指が引きずりこまれる。
「さて、次が最後の曲になりそうだね。自白する準備はできているかい?」
『いいえ、準備するのはあなたの方です。』
しかし、負けるわけにはいかない。そうだよな、ノーデ。
『勝利のファンファーレは、私たちに吹くのですから。』
次回、3/21までに更新予定です。よろしくお願いします。
♦♦以下、補足♦♦
結束状態、初登場は30話。あのときの作者はどう表現していいかわからず、文章で説明するだけとなっていました。しかし、あのころからイセノ表記も進化。今回の10ターン目、ついにいつも書いていた〇を△にすることでそれを表現するという手法をとっています。今回で言えば△で表現されている指はすべて右人差し指です。そして結束も固めると同じように、2倍、3倍と……。おっと、今回はここまで。その説明はいずれまた。ちなみに26年3月14日現在、30話、31話は未修正ですがいずれ修正いたします。よろしくお願いします。




