五十一話「反抗」
刀を持った少年と槍を持った少年は衝突した。
互いに分かっていた。このままでは任務にいずれは支障を来たすだろう。お互いがお互いに本能的に相手を受け入れられない。似た境遇を持っているからこそ嫌悪する。
そして、能力者であること。力を有していること。その全てが重なった結果、今の激突が起きてしまっている。この場に居るのは二人だけ。止める者はいない。
「お前と居れば居るほどイライラするのは何でか……分かるよな?」
「……あなたのその声がうざいんだよ。 一々、癪に障る。 その態度も! 言動も……!」
二人が分かり切っていることは二つ。二人とも完璧なまでに嫌悪感が最大値に達している。力量もそれぞれに高く、簡単に決着が付くことがないこと。
――――――この後の未来も二つだ。何かの介入により戦いは中断、可能性は低いが。もう一つはこのまま戦い続け、それが殺し合いに発展してどちらかが殺害されるか相打ちだ。どちらにせよ悲惨な結末にしかならないが。
だが、それでも二人は殺し合いを続行した。
槍で突くと見せかけ雅哉はそのまま回り一回りし終え、横からの槍の攻撃を弘太に当てようとする。
咄嗟に反応した弘太は足を滑らせるように地面へと転がり込み、雅哉の片足を挟み込み刀で突き刺す。
が、雅哉は避けるどころかそれを受け止める。
「……!?」
「ハハッ……もっと来いよ! まだまだこれからだろ……!?」
その瞳は赤く愉悦と殺意しか映らなかった。面倒なことにこいつは狂化能力を今使ってきた。こちらを本気で殺るつもりだ……。
「………」
殺すにせよしないにせよ、賀霧 雅哉をここで止めなければ俺が殺される。ならやる事は一つだ。
雅哉は刀で貫かれたままこっちへ倒れ込んだ。赤のエネルギーと殺意がふんだんに込められた槍を向けながら。
もう遠慮は要らない。アモリを使い、自身を先に送り雅哉を遅れて連れ込んだ後に体勢を整えた弘太は宙を刀で斬り、鏡のように割れた空間は徐々に広がり戦闘空間であるマリヤが展開した。
「グッ……!……そうだよ! これで良いじゃねえか!? やれば出来るじゃねえかガキが!」
てめえにだけは言われたくはないしあんたもガキだ。
雅哉は苦しみながらもその満面の邪悪な笑みは絶えず全身が殺意で出来ていると言っても過言ではなかった。
弘太は刀にエネルギーを溜める。青から紫へと段階を上げて。
全体が紫調のこの空間の色が弘太の瞳に映る。まるで己の今を見ているかのようだ。混ざり合って酷く濁った今を。
その今を自分である事を弘太は理解していた。だからこんな事になっているのだろう。退くことは出来ない。ここで決着を付ける。
雅哉も槍に次元エネルギーを込めた。その色は赤色から血のような朱殷色に染まっていた。
「……死にたいか? 死にたいよな? 俺も死ぬしお前も死ぬ。 ここでなぁ……!!!」
狂いながら槍を構え、理不尽な軌道を残しこちらに接近。もう躊躇のない弘太は光の速度で刀を振るい、槍と接触した。
だが鍔迫り合いが発生することはなかった。そこには刃が砕け散った刀と槍の姿があり、雅哉はその衝撃で全体的なダメージを負い、弘太も同じく光速という人外の行為を行ったために身体が悲鳴を上げていた。特に刀を握っていた右手に対して酷かった。
両者は刀と槍をその場で手放した。
「グッ、うっ……お前……」
「……ハッ。 決着を付けたいだろ? なら、この程度は……!!!」
そう言いながら弘太はハンドガンとナイフを持ち、弾丸を放ちながら斬りに掛かる。
盾で防ぎながら雅哉も弘太へと近付き、尖った盾を武器の代わりとして突き刺した。
先ほどの負傷で十分な動きが出来なくなり、左肩に貫通。その後、腹部に何度かパンチを喰らう。
それを利用して刺さった盾を装備した腕を掴み膝蹴りで同じく腹部を攻撃。ナイフは彼の脇腹に刺され、苦しめる。
完全に殺す気になった雅哉は弘太を押し倒し、右の拳で顔面を殴打。左の盾を抜き、止めを刺そうとする。
が、左腕がハンドガンからの発砲に貫通。使い物にならなくなった。
身体を大きく動かして危機を脱した弘太は一旦、距離を取り透明化の能力を使いステルス状態となった。
「ふっ。 下らんな」
雅哉はブーメランを取り出しエネルギーを溜めたそれは宙を飛び、エネルギー操作され雅哉の周りからどんどん円を描くように離れて行きながら爆弾を投下した。
雅哉へと接近していた弘太は避けたが、爆風の少しの変化を見抜かれ盾の銃口からの凶弾が発射され。右足のふくらはぎを撃ち抜かれた。
「チッ……」
膝をついてしまった。これでは……。
「終わりだああああああ!!!!!」
残っていたナイフを持ち、賭けに出ようとする。雅哉も同じく盾で全てを終わらせようとした。
「何だこれ……!?」
「「!?」」
その声を聞き、振り向いた。そこには……。
「……津田 命。 何故、ここに?」
ボイスレコーダーを持ったその少年は答えた。
「だって、変な線?みたいなのが飛んでたよ? 赤だったり青だったり……」
「……それはどういう事だ?」
「どういう事って言われ――――――「答えてくれ、津田 命」
二人に問い質される。無理もなかった。それはありえない事態だからだ。彼の言った線とは次元エネルギーの事だろう。ありえない事に彼が次元エネルギーを“目撃”したという事実だ。
「……他にも何か変な物は見たか?」
「えっと……ピエロとか?」
クラウディラー……とんでもない存在に出くわしたかもしれない。
「………」
「………」
弘太と雅哉はしばし殺意を互いに送り合うが、興が削がれたと言えばいいのだろうか。とにかく、中断されてしまった。
「……ハァ。 貴様とは会いたくないな」
「俺のセリフだ。 次は消す」
その言葉に津田はビビるが何をするわけでもなく、その後に雅哉は砕けた槍を持って消えた。
「……色々あるかもしれないが君は恐らく日常生活に戻れないかもしれない」
「え?……マジ?」
「ああ、マジだ……とりあえず、俺から離れるな。 話は後だ」
そうだ。その前に僕は任務をしていた。気が引けたが支部に連絡した。
「こちら、ナンバーⅣ。 応答を」
「あー、白神だよ。 結果はどうだったかな」
「改造手術を受けたと思われます。 一般人も被害に遭っています。 ですが、特殊な細工などは施されていないようなので助けられるかと」
「……ふふっ」
「……な、なんですか?」
「君も変わったね。 前まではそんなに気にかけてなかったでしょ?」
――――――思い返せばそうかもしれない。僕は変わったのか。その瞬間は決定的だ。零華と会ってからだ。彼女を任務の中で何度か助けた。彼女に直接、顔を合わせた事はなかったが少しの特徴しか手掛かりがない中で、僕を見つけた。
最初は僕自身は彼女の事を仕事の中で起こった騒動での一般人の一人としか認識していなかった。けれど、同じ学校、同じクラス、その条件が重なって僕たちは出会いを果たした。触れあっていくうちに僕は不思議と心が熱くなって感情が昂らずにはいられなかった。
今思えばこれが恋の始まりだったかもしれない。空っぽの少年に彼女の瞳はとても綺麗に見え、その美しく見えた姿に魅了されたかもしれない。
そこからだ。誰かを“助けたい”と再び思えたのは……。
「……次元エネルギーや創無を目撃したと言っている少年が居ました」
「うーん、また問題児が増えそうだね。 その子は?」
「私の傍に」
「なら連れて来てよ。 そっちには事後処理班を送ってるし。 手厚く保護しておくよ」
連絡を切り一息つく。身体中が痛い。特に左肩。奴にやられた傷だ。果たして奴と今後、上手くやって行けるのか……?
「……どうするんだ。 これから?」
「付いて来い」
――――――メルダー、ヘルシャー、ケンプファーを倒すには僕一人では無理かもしれない。不本意だが賀霧 雅哉の力を利用する。一応のチームだ。それなりの対応はする。
これから奴とは色んな面で衝突を起こすだろう……向き合ってけじめをつけるのも悪くないか。戦闘以外で。
まだ曖昧なところではあるが、自分の方向性を見つけた少年は事後処理班が到着した後に。自身以上に不思議な少年を連れて支部へと帰って行った。




