がっとーざへぅ
依頼クエストをやってみて、理解した。
これは大量の爆炎水晶が必要だ。
「俺、許せなかったんだよ。俺に秘密にして他の男と連絡を取り合うなんて。それって一つの裏切り行為でしょ?だから、もうお前とは付き合えないって言ったんだ。そしたらいきなり怒り出して?死んでやるっていって死んだんだ」
これはとある男女のもめ事に絡む依頼である。
「毒薬のポーションを飲んで今?助けて貰ったのはいいんだけど、これから先も揉めると思うんだよね?その場合、どうしたらいい?」
俺は適切なアドバイスをしてやることにした。
「相手の女の子の両親に会ってお付き合いできませんと言えばいいじゃねえか」
「おおごとにしたくないんだよ。だって俺、妻と子供も居るしさ?彼女とは家庭じゃなくて恋愛がしたかったんだ。だけど、正直、隠れて他の男と連絡を取り合うなんて裏切り行為許せなくてさー。わかるでしょ?この気持ち」
ちなみにクエスト自体は終了している。
毒を飲んだ彼女に解毒のポーションを持ってきてくれ。
解毒ポーションを渡した時点でクエストクリアなのだが、IRIA積載NPCに延々と悩みを聞かされている。
実際に現実であった事件をネット上で拾い集めて構成される依頼系クエストはこういったとんでもない内容の物が多い。
他人事だと思えば爆笑できるが無事に仲裁する立場となるとストレスがホッハしてマジでハゲそうになる。
「そこの彼女に一時でいいから、自分の彼女演じて貰うように頼んで貰っていいですか?そうすれば彼女も諦めがつくと思うんで」
こいつぁ依頼のコンボボーナスを狙える。
だが、しかし。
隣で聞いていたチュートリアさんの営業スマイルがビッキビキに歪んだと思ったら弾けた。
「ちなみに、どのくらいのことまでやるん?」
「え?流石に妻子持ちだからそこまで深くは無いですよ。セフレぐらいをやってくれれば」
「ホォォリィィィ……バスタァァァ!」
「ぷじょろぉぉぉぉ!」
とうとう我慢しきれずブチ切れて男をぶっ飛ばしてくれました。
俺は倒れた男の首筋に剣を当てると一応念の為、チュートリアを見る。
「やれっ!やっちゃえ!がっとーざへぅ!」
ごーとぅーざへる、と言いたいのだろうがフシュルフシュル獰猛な息巻いてるチュートリアさんは最早訳わかんなくなってる。
俺はさらりと『ダウンスラスト』で首根っこをかっ切ると晴れてめでたくカルマが1溜まりましたとさ。
ブチ殺された男を見た女がはらはらと涙を流し切なげに訴える。
「私、これからどうすればいいんですかぁ?前の夫とは国から保護貰うために離婚して、、いい収入の彼を見つけたから一緒になろうと思っていたのに!あなたたちのせいで台無しですよ!最後まで責任持って養ってもらいますから。その責任って依頼を受けたあなたがたにあると思うんですよね?死にたかった私を治療するってことは生きていかなくちゃいけないんですよね?じゃあ、私が生きていくのに養って下さい」
「ランページすらすとぉ」
女の方にも容赦なく『ランページスラスト』を叩き込み血祭りに上げる。
「己の悪行、地獄で悔いるがE」
阿鼻叫喚の殺戮現場となりはてたNPC二人の秘密の愛の巣で俺とチュートリアはどこまでも疲れた表情で互いに溜息をついた。
――結果として、信望が1上がると同時にカルマが2増えた。
依頼をこなすたびにカルマが増えていく。
「なんなんですかーチュートリアちゃん。妻子持ち絶賛不倫中で不倫相手の密会が許せない妖怪ちんちん丸とちんちん丸に寄生する生活保護受給の男寄生蟻地獄妖怪くされマンカスをセットで血祭りにあげる討伐クエですかこれ。信望よりカルマ上昇率の方が高ぇよ。これで人望が集まるこの世界がオワコンだよ」
「世の中には救うべき人もたくさん居ます。ですが、血祭りにあげるべき人間も沢山いるのでしょう」
どこか、遠い目をしながらチュートリアちゃんが軽い現実逃避をしてらっしゃる。
「これがお前が言ってる救うべき世界の住人だと把握しろよ?次の依頼クエをさっさとそのドリルセンサーで感知してくれ」
「はい、ですが、どうせ次もロクな依頼じゃないですよきっと」
チュートリアのドリルの一本がぴぴぴ!と次の依頼の方向を指し示す。
――俺のメインクエストは『依頼系』と呼ばれるものである。
街の住民の頼み事を聞きあれが欲しい、これが欲しい、ああしてくれ、こうしてくれというのを聞いて回り解決してまわるクエストの形態だ。
FNO等のような正当派MMORPGではよくある形式のこのクエストはただひたすらにお使いしてまわるだけなのだが、それじゃあ面白くないと運営の女神イリアがテコ入れして改悪したのがファミルラだ。
――とにかく、アホな依頼が多い。
現実のニュースや出来事をIRIAが世界観にマッチするように微妙な部分を変えてそっくりそのままゲームの中に持ち込んだが故に多くのプレイヤー達の爆笑を誘ったが、こうして現実サイズで体験すると最早ストレスがホッハしてNPCをランランルーしてつい殺っちゃうんだ♪ですよ。
「次はこっちですね」
どこか落胆したチュートリアがのろのろとドリルの指し示す方向へ歩く。
俺はどこかげっそりとしたまま向かおうとして、ふと思い出して殺戮現場に戻る。
ぬっころした男の懐からしっかりと金だとか衣服だとかを抜き取り、女の方からもちゃっかりといただく。
キクと荒稼ぎしている今にとっちゃはした金もいいところだが現実世界じゃできない人をぶっ殺して金を奪うという行為が許されるのがゲームの酷いところ。
だが、そういう遊びができるということはそういう遊びをしなさいってことであって俺は死体を蹴飛ばすと小走りでチュートリアを追う。
「しかし、こんなことしてまだ捕まらないってのも凄ぇな」
「治安を守る騎士団も今は魔物の対応に手一杯で街の中の多少の犯罪くらいじゃ本格的に動けないというのが実情らしいですが……あんまりやりすぎるとそのうち本当に捕まってしまいますよ?」
「つか、さっきはお前が真っ先にぶっ殺してたじゃねえか」
「う……え、えと、私は反省を促すために重傷を負わせただけです」
「がっとーざへぅ、がっとーざへぅ、がっとーざへぅ!」
「……ごめんなさい、本当にごめんなさい」
俺ではなく何かに謝るチュートリアを俺は全くの人ごとのように慰める。
「まあ、気にすんなよ?誰だって最後には死ぬんだ。アレだ、俺達がその手伝いをしてあげただけで、そもそも生きるに値しないカス野郎達だよアレ。NPCのくせにリア充でカスいことしてっから死に散らかしちゃったんだよ。可愛そうに」
「……本当に死に散らかすべきはマスターだと思うんですが、今回は私も責められないのがとても悔しいです」
「ハッ!何をおっしゃるかねチュートリアちゃん。人間一皮剥けばみんながっとぅーざへぅ!なんですよ。たまたま俺に轢き殺されてがっとーざへぅ!してるだけなんですー」
俺は悪びれる風もなく口笛を吹いてやると落胆するチュートリアを連れて次のクエスト予定地へと向かう。
チュートリアの力というか能力になるのかはわからないが俺にクエストをくれる人はみんなうすらぼんやりと輝いて見える不思議。
色んなゲームでクエスト対象キャラの頭上にアイコンがあるのと同じ仕様なんだろうけどぼんやりと輝くと夜中でも人間蛍光灯みたいで気持ち悪い。
「あ、あの人っぽいですね」
広場のど真ん中で行き交う人達をぐるぐると見渡している妙齢のご婦人だ。
どこか神経質そうな表情といいうらぶれた格好といい俺のクエストセンサーには最早ロクな反応が帰ってきません。
――こりゃ絶対、がっとーざへぅしちゃうな。
俺がげんなりしているなか、なんとか流れをいい方に取り戻したいチュートリアは営業スマイルでNPCに話しかける。
「あの、何かお困りでしょうか?」
「え?ああ、冒険者の方ですか?良かった、この時間は冒険者ギルドも依頼を受け付けていなくって。私の娘が居なくなってしまったんです。どうか、捜していただけないでしょうか?どんな恐ろしい目にあっているのかと想像すると、私は……私は……」
人捜しクエストと来たモンだ。
「マスター!今度こそは人助けですよ!モンスターの居る場所に行ってしまった娘さんを捜しだし、危険から救う。そんな感じですよきっと!」
「いえ、居る場所はだいたいわかっているのですが、私が行くと娘が反発してどこかへ居なくなるので……誰かに迎えに行って貰おうと思ってこちらでお話を聞いて下さる方を待っていたのです」
「はい!是非に!……なんで砥石で剣を研いでいるんですか?マスター?」
元気よく答えるチュートリアちゃんだが、俺は最早エルドソードを最高の状態にしておく。
「なんでかって?ひと思いにぶっ殺してやるからだよ」
「は、話だけでも聞きましょうよ!」
「私の娘も年頃なので恋愛の一つもしたくなるのは理解できるのです。ですが、それがよりにもよって賭け事に興じる不逞の輩ではなくてもいいと思うのです。幼い時に夫に出て行かれ娘には苦労をかけましたが、何も娘まで私のような苦労をしなくても……」
「うう、なんだか苦労という点では身につまされる話ですね……」
共感しているチュートリアちゃんだが、俺には理解できるぞ。
何度こんなクソみたいなクエストをやらされたと思ってやがんだ。
「明日の正午までに連れて来て欲しいのです。おそらく西の繁華街にいるセダーという男のところに出入りしていると思います。少ないですが、謝礼は致します。どうか娘のためにもお願いいたします!」
「任せて下さい!その不逞の輩から娘さんを救い出してみせます!我がマスターが!」
どんと胸を叩いて安請け合いするチュートリアだが当のマスターである俺には全然やる気がありませんことでして。
――殺る気なら満々なんだがな。
チュートリアはドリルセンサーを頼りに勇んで西の繁華街に歩いていく。
「なぁチュートリアちゃんや?」
「なんでしょうか!マスター!」
「お前、軽く現実逃避してるだろ?そういうのって良くないと思うんだ」
「そんなことはありません!娘を思う母の気持ち。世界に比べれば小さなことかもしれませんが、そういった小さな悩みを真剣に悩む人たちが居て世界は輝いているんです!だから、これらの人を知って私たちは世界を滅ぼそうとする魔王を倒さないといけないんです!」
「ご高説ありがてえがそれが何で明日の正午までのリミットか理解しているかね?」
「わかりません!」
「俺の居た世界にはな?生活保護っていう制度があんのよ。理由があって働けない人たちが居て、そんな人達でも生きていけるように国で援助してくれるって制度なんだ」
「プロフテリアにもありますよ!世界の始まった神々の愛した地、だからこそプロフテリア王国は神の愛を体現するために弱者を救済する制度を持っているのです!」
流石プロフテリア、愛の国。初期エリアは伊達じゃない。流石チュートリア、アホの子。ゆるふわドリルは伊達じゃない。みんなそろってがっとーざへぅだぜ。
「さて、理由があって働けないってんなら理由を作れば働かなくてもいいって発想になるんだが、チュートリアちゃんは理解しているかね?」
「そんな人、居ませんよ!」
どこか声が裏返るチュートリアちゃんに俺は恨み言のように言ってやる。
「さっき腐れマンカスをがっとーざへぅ!してきた訳だがあの腐れマンカスもその国からの援助をしてもらってた訳だよね?さて、問題です。女の人が子供一人を抱えて生きていくのはとても辛いことなんですよ。それって理由になりませんのんでしょうかー?だから、その申請のために明日の正午までって話じゃないんでしょうかー?」
「マスター、そのようなハナっから人を疑ってかかるような考え方ではいけませんよ?マスターは戦女神コーデリアのレジアン……つまり、人々の希望を負って立つ勇者なのですから。清く人として正しい精神の持ち主でなくてはなりません」
「そうだぬ。清く人として正しい精神の持ち主として嘘をつくのはよくないよな?戦女神コーデリアのイリアとして女神様として自分の思っていることに嘘をついて現実見ないのは清く正しい精神とは言えないよな?がっとーざへぅ!がっとーざへぅ!」
「う……」
俺の反論に何も言い返せないチュートリアにさらにたたみかける。
「夫に出て行かれたって話だが、あれって多分、あの女に問題があるんだろ?今し方がっとーざへぅ!した腐れマンカスとほぼ同じ状況じゃねえか。てことぁだ、当然娘に出て行かれる理由もあんだろ?その女の娘だぜ?当然ロクでもねえ娘に決まってがっとーざへぅ!」
俺が先行きについてぐだぐだと言っている間にどうやら目的地についたようだ。
繁華街の一角にある古びた集合住宅で石材でできた二階建てのいわゆるマンションみたいな家だ。
その二階の一室でチュートリアのドリルセンサーがふわふわと反応している。
「なぁ?チュートリア一つ、賭けをしねえか?」
「賭け事はよくないと思います」
「最初から負けると思ってんだな?勝利を司る戦女神のイリアともあろうものが。さっきの清く正しい精神という奴で吐いた子を心配する親の気持ちを信じるってのは嘘だったと認める訳だな?」
「うぇ……そ、そんなことはありません。ですが、最悪の事態というのを考えると、それはあまりにも不謹慎だからですはい」
「そーだよなー。不逞の輩とやらにズコーンバコーンとやられてたらそりゃ不謹慎だよなー。でもいんじゃね?別にズコーンバコーンとやられてるのは俺じゃねえし」
「そういった発言が不謹慎を通り越してマスターが死に散らかすべきだと言ってるんです!そろそろ自覚して下さい!」
どこか悲痛ですらある訴えに俺は大きく溜息をつく。
「俺の世界にパチンコって遊びがあるんだ。こう、ちっちゃい鉄のタマを弾いてだな。台の真ん中に入れてルーレットを回して当たりがでたらじゃらじゃらと鉄のタマが増えるって遊びなんだ」
「それ、楽しいんですか?そしてその響きがどこか卑猥です」
「そう想像するお前が卑猥だよ。頭からねじくれた何本ものぱっぱらぱチンコぶら下げてるように見えるぜ?それは置いておいて、パチンコ楽しいらしいよ?鉄のタマってのがお金と交換できるモンだから、賭け事禁止とか謳っていながら遊びだからOKって理屈らしくてな?大勢の人が遊んでるんだ」
「悪辣です。善良な人達を悪の道への第一歩を踏ませるような嘘です」
「それには同意してやンよ。でま、そのとおりパチンコにのめり込む奴らが居るんだよなこれまた。結論賭け事だから、勝つときもありゃ負ける時もある。つか、負ける時の方が多くなきゃパチンコを経営している店員が喰ってけねえわけで、負ける訳なんだ。そいで負けると金がなくなるわけだ」
「それは、邪悪なパチン……にも問題があるとは思いますがその誘いに乗り続け、お金が無くなるまで興じるのも愚かなように思えます」
「金がなくなっても金借りてパチンコするくらいだから、楽しいんだろうよ。でも本当にそこまで行くと救いよう無いカスだよな?」
「ですね」
「そういったパチンカスみたいなのがこの世界にも居るんだろ?きっと。つかファミルラの時にもあったしな」
どこか遠回りな俺の言葉にチュートリアが怪訝な表情を作る。
「……マスター、私をもしかしてそのパチンカ……賭け事中毒者にしようとする企みじゃないですよね?だから賭けなんかを持ち出したりしてませんよね?」
「大丈夫。お前はどちらかってーとパチンカスに食い物にされるゆるふわちゃんだから。ヒエラルキーとしては底辺だから安心しろよ」
「私、パチンカス以下ですかっ!」
「俺が賭けるのは絶対これ、そのパチンカスに寂しくて股開いてるお前と同じゆるふわバカ女がぎゃんぎゃん騒ぐパターンだぞってことだ」
俺がそう断言してやるとチュートリアはぶんぶんと首を振る。
「そんなこと無いと思います!親元に帰りたくても色んな事情で帰れないんだと思います!」
「それ俺が言った状況より最悪だぞ?不逞の輩ってのが大量に集まってリンカーン大回転状態じゃねえか?そっちの方が俺は笑えるけど、お前としちゃそれって最悪のパターンちゃうん?むしろ、そうなってしまえ的な願望?悪いやっちゃなー、がっとーざへぅ!」
「わ、わたしそんなことまで考えてないですよっ!」
顔を真っ赤にして反論してくるチュートリアだが、俺はあながちそっちも間違っちゃいないとも思う。
だが、普通、消防だとか厨房も混ざったりするのがネトゲだからいくらなんでもそこまではやらんだろう?
やってたら色んな意味で運営何考えてるかkwsk状態だ。
「とにもかくにも、そんな状況だったら会話しても無駄だから男をがっとーざへぅ!して女を無理矢理親元に連れてくぞ?」
「話を聞いてあげるべきだと思います。親と子のわだかまりを解消してあげるのも尊い使命です」
「わだかまりがあると認めたな?認めたな?がっとーざへぅ」
「そうじゃなくて!どうしてもっと正しい解決方法を模索しないんですかっ!」
「だって、解決しようがねえだろ?依頼者もカスなら、娘もカス、娘の相手はパチンカスときたもんだ。皆殺し以外のスッキリした解決方法教えてくれよチュートリア先生」
「まだ会ってもいないのにそんな風に決めつけないで下さいっ!」
俺はそこまで反論するチュートリアを認めてふんむと頷く。
「よし、じゃあそこまで言うなら賭けろよ?そうだった場合、お前犬な?とりあえず語尾にワンつけろ」
「マスターが間違えてた場合は?」
「お前のいいなりになって清く正しい精神性の勇者やってやんよ」




