女子力の正しい使い方
次の日からキクの店に服飾の類も並ぶようになった。
俺に販売枠を貸してくれたものなのだが、これが結構、飛ぶように売れる。
それを見ていてキクはメモを取りながら必死に相場や、売れる理由を勉強する。
女子力を磨くためではなく金銭に関しての興味なのだが、服飾に関して興味を持ってくれたのはいいことだ。
「いかん、舐めてた。服飾売り本当に舐めてた」
「だろ?服商売ってけっこういい商売になんだぞ?」
俺はインベントリに仕入れた洋服を陳列しながら、ふんむと唸る。
「これ、割とアクティブな子に押して。こっちゃおとなしめの子。そいで、この赤い竜から安く買いたたいたワンダーバングルを隠し球として高値でふっかけろ」
「先生、マジですか?その心は」
「ワンダーバングルはレアだけど市場流通少ないだろ?だけど、デザイン的にはアクセント要素が強いし、嫌みにならない。そいでもって霊環の中でも性能高いから単品でも売れるんだよ。だけど、服飾とセットじゃないと売らないってことで、『デザイン』という二次要素を売りつけることもできる」
「一緒くたに売りつけれるのね!のね!」
「そ。だけど、『選ばせる』ことを忘れたらダメだぞ?服ってのは自分の『コンセプト』であって、決して他人の『押しつけ』じゃない。『押しつけ』られる程安い自分ってのは誰だって嫌だろ?一流の服飾商売人なら『選んだ』と思わせることくらいまでのトークをしてやんなきゃな」
「くっそぉ……服飾って利ザヤめっちゃ高いやんコレ。マジで言ってんのかってくらい儲かるわ」
キクさんは主にレア武器の販売や転売厨だったので、服飾もその当時の流行で『売れる』か『売れない』かでしか見ていなかった感が強い。
固定客を掴むなら、軽いファッショントークをしてやることができればファミルラのバカIRIAどもがプレイヤーから離れた時に勝手に買い物にきてくれたりする。
プレイヤーもバカじゃないからファッショントークだけで買ってったりはしないのだが、そこにレアな服飾品や装備品を抱き合わせることで販売して一括で買わせる手法で俺はファミルラで商売してた。
「マスター、お、お金がどんどん増えてますよ、コレ。レアやユニークの武器を売るより利益が出るんですね」
「金策の一つや二つ持ってないと、廃人とは言えんわ。ぶっちゃけ、RMTして現金解決が一番手っ取り早いけど、現金は有限だからな。中での足し増しの稼ぎかたくらい覚えておかな」
「でも服ってこんな値段で売れるんですか?レア武器と同じかそれ以上の値段でふっかけてますよ?」
店番に立たせたチュートリアがどこか、驚いた顔をしている。
「売れる売れる。服飾っていわゆる『個性』を出すものだろ?赤い竜が真っ赤っかな『個性』を持ってるように、他の人間も自分の『個性』ってのがあるんだよ。誰だって『自分だけ』というオリジナリティを持ちたい願望ってのはあるんだ。永遠の需要だから、これっぱかしは高レベルも低レベルも関係無く売れる」
「服ではなくて、『個性』を売ってるんですね……あ、お客様です」
途端に俺は営業モードに移り変わる。
「いらっしゃいませ」
控えめに声をかけて、店内をうろつく客を見る。
一般のネトゲならウィンドウを開いて商品眺めて欲しいのあったら買うってだけだが、IRIA積載型NPC買いの場合は人間さながらの売却が楽しめる。
――いわゆるフナ状態だな。
俺はその客をそう判断した。
キクもそう思ったようでそれ以上の声はかけない。
店内を物色して回る客には2パターン居る。
欲しい物があって、買いに来るパターンと、欲しい物が無いか探して回るパターン。
前者は欲しい物が明確だから営業しなくても商品があれば即座に買っていってくれる。
無ければ売れないし、代用品で効くなら営業かければいい。
後者の場合はお金はあるんだけど、どんなものを買おうか迷ってるパターンだ。
お金はあるが、買いたい物が決まっておらず何を買えばいいのか店を見て回りどんなものが売っているのか確認しながら、欲しい物を決めに来るパターン。
――この客は、その後者。
「いわゆる、フナって奴ですね。いきなり声をかけずに、まず、見るんですよね?」
チュートリアにはこのあたりの説明を十分にして、接客応対についての基礎的なことは教え込んだ。
――この手の客は営業に対する警戒心が強い。
金は持ってるから、営業をかければいらない物を売られると思い警戒してしまう。
一度警戒されてしまえばそこからは時間を無駄に空費してしまう。
だからこそ、視線を追って見ているものを選別するのだ。
若い女性タイプのNPCでチュートリアのようなロングヘアの少女だ。
腰に差してる剣と盾は主職業が冒険者であると理解させてくれるには十分だ。
街着――主に街で着る服が初期服から毛が生えた程度の安物だが、色々苦心してコーデした痕跡が見える。
「服、色々と見てくれてますね」
「――チャンスだな」
俺は安いが、落ち着いたデザインのジャケットの襟を直すと客に近づく。
「服をお探しでしょうか?」
一瞬、驚いたような表情を見せるNPCににこやかに微笑む。
「え、あ、はい……」
「色々、取りそろえていますよ?私も普段は冒険者ですが、こうして街に居る時くらいは鎧を脱ぎたいものですから」
セールストークを織り交ぜつつ、警戒を解く。
少女はどこか困ったようにおろおろする。
「こちらのお店、実用的なものが多いと評判で、結構良い値段がするって聞いてたんですが……」
良い服飾の値段が高いのは周知の事実。
なるべくなら予算は実用的なものに使いたい。
だけども、服装にも気を遣いたいという現実的な思考を持ってやがる。
――IRIA型はこうしたところが本当に人間臭く、売り専でやるキクみたいなプレイヤーが楽しめるのも頷ける。
「そうですね、命を賭ける場にお金は惜しめませんから。良い物であればそれなりの値段はします。それが信用という奴です」
――店のコンセプトはあくまで崩さない。
『売る』だけなら安くすれば売れる。『儲ける』こととは違うのだ。
「服も高いものばかりだと思ってたのですが、手頃な値段のものが多いのですね」
「オーダーメイドの服飾ばかりなので安くはありませんが、高くもありません。ですが、一流の冒険者であれば街着のセンスも一流でありたい。そういった方に喜ばれるコンセプトの物をご用意したつもりです」
「そうなんですか」
どこか緩んだ表情を見て、俺は確信する。
――かかった。
ここからセールストークをはじめる。
「こちらはツービージュのドレスですが色は割と明るめを用意しております。普段実用的な物を着ていると街に戻った時くらいは開放的で居たいと思いますので。こちらのドレスであればセットでこちらのバングルとブーツをセットで着られることをお勧めします」
「……このブーツにドレスですか?」
「街着を着ていても冒険者。であれば足下だけはしっかりとした、それでいて服飾を崩さないデザインのブーツを履くことで割と明るめのデザインであっても堅実な印象を与えることができます。そうされれば依頼主の方の前でも侮られることもないと、私の相方も苦笑しておりました」
そんなシーン一度もねえが嘘八百並べられないで商売ができるか。
だが、NPCの少女は先達の意見として素直に受け取ってくれたようだ。
「このバングルは……あ」
「はい……こちらはワンダーバングルとなっています」
少女の目が変わる。
赤い竜から買いたたいたユニークボスのレアだ。
「とても、珍しい物ですよね?」
「魔法を使う。あるいは、魔法を使われる予定のある方であれば重宝するものでしょう。服飾の観点から言っても実力を伺わせるアクセントとしては嫌みになりませんし、明るい服飾の中でも相手に実力を印象づけるのには最適です」
少女が考え込むのが手に取るようにわかる。
今、この少女は自分の財布の中身とバングルの値段、そして、服飾にかけられる値段を計算している。
実用的なバングルを買うのに値段は惜しまない。
だが、服飾にかけられる値段はそのバングルから差し引いた値段で構成すべきである。
そうして所持金という制限が許す中で自分の『個性』を作っていく。
――つまり、買う気が起きたってことだ。
カウンターで様子を見ているキクの瞳がこれ以上なく輝いている。
「他にこのドレスに合いそうなブーツってありますか?」
――ktkr。
NPCが自分の『個性』を選びはじめた。
最早こうなればあとはこちらの商品を明かしてセールスをするだけだ。
「このくらいの値段だと、私も助かりますね」
そう微笑むがそれは逆に俺に自分の出せる金額を明かしてくれるも同じ。
「そうなると、少々値とデザインは落ちますがこちらのブーツもお勧めですね。横にステッチされたストラップが重めのデザインですがドレスのステッチを引き立てるので邪魔にはなりません。こちらだと値は少々張ってしまうのですが、リボンがあしらわれていてドレスのコンセプトにもあっており、この系統のコンセプトだと使い回しも効くデザインです。何より市場に出回ってる量がまだ少ないのでお買い得です」
少女の所持金の限界ラインを見極めると、あとはテクニックを駆使して攻めるだけ攻める。
――ローボールハイボール、付加価値に希少価値。予算3割増しの法則。
こういった商売の駆け引きが実戦さながらに楽しめるのがIRIA型NPCの醍醐味とも言える。
「ありがとうございます!良い買い物ができました!」
――結局、少女はツービージュドレス、ワンダーバングル、ダブルリボンブーツにプチフリルスカーフまで買って満面の笑みで店を後にした。
プチフリルスカーフは頭部装備のアバターとしてお値段もそこそこの値段がするのだが気前よく買ってくれたのは嬉しい誤算。
「うめぇえ……本当にうっめぇえ!ガチでカモれる!」
女子力ゼロどころかマイナスのキクさんが増えた金を見ながら下品に笑う。
俺もニヤニヤが止まらない。
「……ざっと、3mか?」
「3.4mよ?今日だけで10いくわ。服飾系スキルテンガが持っててよかったー♪素材費だけが元手で時間による品質低下無くこれだけの利ザヤが得られるなんて服飾って優良物件もいいところね?」
「お前も俺のやり方覚えておけよ?あと、服飾。後で俺がアセンブルしてやる。とりあえずは店番立つのがお前みたいな女子力ゼロじゃ説得力もゼロだ」
「マジ助かるわー。つか、あんたこんな手法もってたのはじめて知った」
「教えるかよ。俺の重要金策の一つだ。手の内明かすバカが居るか?武器と違ってアプデで強武器でたらゴミになる武器販売と違って、服飾系はアプデ来て新しい服来てもゆるやかにしか値段下降はしないし、限定課金服だったら寝かせれば寝かしただけ逆に値段が跳ね上がる優良物件なんだよ。今回はお前に本当に荒稼ぎしてもらわなくちゃならないから手の内明かしただけだ。リターンは貰うぜ?」
キクはにやりと笑う。
「任しておいて?赤い竜とギルド作るんでしょ?城くらいは簡単に建ててやんよー」
そう言ってくれると本当に助かる。
「私もメインクエが街を作れだから、そろそろ本腰入れないとね?」
「ああ。ギルドという拠点を持つにはそろそろいい頃合いだしな」
俺は本格的な攻略を始める下準備を着々と進めなければならないと感じていた。
「フラグクエストの中にはギルドクエストもあったからね」
「『大空中戦』があるってことは、そういうことだろう?領地戦や領空戦もあるはずだ。そうなればしっかりとしたギルドホームを造っておきたい」
「でも、メンバーはどうすんの?冒険者ギルドとかで適当によさげなNPC見繕って増やしておく?数は力よ?タマを集めておくなら、私、商売しながら色々と探しておくんだけど……」
「いや、立ち上がりは少数精鋭でやる」
ギルドの運営にもいくつかの方法がある。
「あの、マスター?ギルドを作られるという話ですが、どうったものになるんでしょうか?『リライト』をお願いしたいのですが」
チュートリアが積極的に情報を求めてくる。
「……ギルドってのは知ってるな?特定の集団を作って活動することだ」
「はい。冒険者ギルドや商売ギルドと違って冒険者が特定の目的を持って集まった集団のことですよね?」
「冒険者は基本、ソロでも活動できるんだがこのギルドに所属しているだけで色々と特典がある」
「はい。ギルドの活動実績に応じて王国から色々な許可を頂けます。ギルドの本拠地を得たり、果ては領主となって街を作ってみたり。キクさんの使命が今『街を作る』ことになってらっしゃるんですよね?」
「そうだ。他にも領地を奪うための領地戦や空挺部隊を使った領空戦、それ以外にもギルド単位でこなさなければならないギルドクエストの受注。やれることが増える。だが、それは逆に複数単位で攻略しなければならない難易度にハネ上がるってことだ」
「そのために、キクさんは数を集めるという方法を?」
「そう、数を集めるというのは最もてっとり早くギルドを大きくする方法だからな」
「それは、なんとなく私にも理解できます。どんな作業でも一人で行うより複数人で行えばその分、早く終われます。そういった理由だと思うのですが」
チュートリアが言っていることは最もだ。
ギルド、というシステムはパーティより多い人数が所属する。
それであればその人数を増やすだけ増やした方が有利であるという理論。
「その理論は間違っちゃいない。最も正解に近い正解だ」
俺はそう言ってジャケットを脱いで鎧に着替える。
「だけど、廃人が集まるとその人数が逆に足を引っ張ることになることもある」
「効率のお話になるんでしょうか?」
「そう、廃人に育成をさせようとするアホが沸く」
俺はそう言ってチュートリアの頭を小突く。
「……人間ってのは自己中心的な生き物でな?自分の利益のために平気で相手を利用する。そいつが悪い訳じゃない。だけど、集団というもので自分の利益だけを追求されるとその集団は成り立たなくなるんだ」
「どういう現象が起きるのでしょうか」
「ミツバチの理論って知ってるか?一つの集団があれば、最も働く3割とそれなりに働く3割、そして働かない3割ってのが産まれる。数を膨らませれば比例してその数も増えていく。廃人ってのはそのエリート3割のうちのトップの連中のことを指す。それなりちゃんだとか、ゴミクッズだとかが一緒になると必ず言うんだよ『育成手伝って』って」
「それは……手伝ってあげればよいのではないでしょうか?そうすれば、レベルも高くなりギルドに大きく貢献してくれると思うのですが」
「理想はな。だけど、大概の場合、そんなことにはならない。なぜなら最早奴らの心意気がそれなりちゃんでゴミクッズだからだ」
ギルド運営の正しい姿を俺は説いてやる。
「せいぜい、引き上げてそれなりちゃんがハイプレイヤーになるのが関の山。廃人になれる資質のある奴ってのは性根から違うんだよ。言ってしまえば、放っておいても勝手に廃人になってるのがハイプレイヤーの上を行く廃プレイヤーなんだ。そんな奴らを抱えてギルドメンバーを勧誘なんかして増やすだけ増やしてみろ。与えられるものを与えられることに慣れたら最後、こいつらの要求、要望を聞いてまわってるだけで手一杯になる。それっくらいなら、赤い竜にしろ、俺にしろ、キクにしろ好き勝手やってるだけだから好き勝手やる連中が好きに集まればいいんだ。それにな?人を増やすだけ増やすと、でっかな問題が出るんだ」
「問題、ですか?」
「低脳さん同士が集まって訳のわからん問題を起こしまくる。廃人さっぴいて見ても意味不明なんだぞ?マネージメントする上で無目的に人を増やすのは好ましくないんだ」
俺はそこまで言うと言葉を切る。
チュートリアは眉をひそめて俺の言う言葉を咀嚼するが理解が追いついていないようだ。
「……ですが、基本的なこととして集団戦闘になれば当然、人数を揃えた方が勝ちますよね?」
「その上でも、勝つ為の方法はいくらでもある。中身入り――レジアンが3人にそれらのNPCが3人。都合6人でスタート切るなら少なくはねえよ。『勝ちたい』人だった俺が言うんだから、間違いはねえ」
俺はそう言って基本方針を伝えると、チュートリアを引き連れて街に出る。
「それよっか、クエスト進めようぜ?いい加減、こっちも進めてみないことにゃわからんからな」




