――INTがゆるふわだった。女子力も無かった。
俺達は河岸を変えて再び、オサレ談義に入る。
休憩したい頃合いだったし暇っちゃ暇だったからそれもいいかと思ったからだ。
「つか、何で俺が今っさらおにゃのこである貴様らにこんなことを教えねばならんのだ」
赤い竜は一人でもそもそとインベントリの整理をはじめ、余った女どもが群がり一度、俺のありがたいオサレ講義を聞いてみたいとぬかしやがった。
「だって、あんたいっつも上から目線で人の服けなすじゃない?どれだけすんばらしい価値観のもと言ってるのか聞いてやりたいと思ったまでよ」
キクはどうにかアドバンテージを取ろうと必死だがそんな見え見えの挑発、完膚無きまでに叩きつぶしてやんぜ。
「だから貴様は女子力が死にステータスなのだ。そもそも『綺麗に見られたい』というのは普通の女の子なら誰でも持ってる願望だ。チミにはそれが無いのかね?」
「う……」
言葉に詰まったが最後、トドメを刺してやる。
「ホレ、チュートリアのようなゲームキャラクターでさえ放っておけばこうして女を磨こうとするのに、中身入りのお前はそれを親の腹の中に置いてきた段階でちんちんを忘れた男と一緒なのだよ。つまり果てしなく無価値」
「わ、私はチューちゃんのようにゆるふわな頭をしてないだけよ!きちんと現実とかお金を追いかけるスキルを磨いてるのよ!女の幸せは家庭に無いのよ!預金通帳にしっかりと数字で刻まれるのよ!」
「わ、わたしゆるふわですかっ!」
チュートリアが狼狽えるが巻き込まれただけだ。可愛そうに。
だが、それこそ俺が求めていた反論、こっからが飯ウマタイムだぜ。
「はい残念。負け犬女の典型的な言い訳だな。遠吠えワンー♪幸せは溜め込むものではなく、感じるものなのだ。上手に貯めたお金を使って、女の幸せを感じられない時点でお前に幸せは無い。預金を取られないかと心配して小じわも増えるし顔も悪くなる。あと性格も。そうしてどんどんどんどん負け犬ロードを驀進することになる。お前はしまむらから出直そうな?な?応援してるぜ?しまむらキク。わんー♪わんー♪きゃいんきゃいん♪」
「本名呼ぶなコラ!」
しまむらが悪い訳ではないのだが、あれを上手く活用できねばお先真っ暗だ。
ああ楽しい。
「ロ、ロクロータだって、自分の服飾に全然興味持ってないじゃない!」
「男は稼いでなんぼ。服飾は余ったお金で。金と力、あと権力。これこそが男に求められるパワー。イケメン男子で赤貧野郎と幸せになれるのはそれっこそゆるふわな頭のチュートリアみたいな奴だけだ」
「やっぱりわたしゆるふわですかっ!」
「……うん、いい具合にドメスティックなバイオレンス受けてるモンね」
「わ、わたし、ゆ、ゆるふわじゃないですよ!戦女神のイリアとして……」
「ドリルまで付けてゆるふわじゃないと言い切れるなら、言い切ってみやがれ。ホレ言ってみろ?言ってみろ?へい、かまーん!こっちは反論準備おっけーだぜ?完膚なきまでに叩きつぶしてやんよー」
「えと、その、た、たぶん、です……はい……」
誘い撃ちの挑発をしたのだが精神的には負け犬のこいつも俺には刃向かって来ない。
「ろーたー、てんがは?てんがは?ゆるふわ?ゆるふわ?」
「お前はゆるかわだな。良かったな、負け犬とゆるふわよりかは強い」
「うやたー!」
テンガは色んな意味で土俵に立っていない。
どこか離れて聞いていたシルフィリスが赤い瞳をこちらに向けて尋ねる。
「……コーデリアのイリア、私の場合はどうなるのだ?」
「不憫だな。それ以外にどう言えと?お前のマスターあっちでお前に構うことなく刃物とか刃物とか刃物見てニヤニヤしてるぞ?金髪ロリでツインテールとか奴の意中ど真ん中なのにお前のマスター刃物に首ったけじゃないか。そんで一週間も草原で放置プレイされて刃物にいちゃいちゃ浮気された奴に不憫以外の何を言えばいいんだ俺?」
あまりにも不憫なんで俺でも流石にそれ以上は言えなかった。
だってそうだろう。
憮然としながらも目の端に涙溜めて今にも泣きそうなんだぜ?
「お前ら全然ダメダメちゃんだな。中身はどうしょうもないからせめて外面だけでも取り繕う方法覚えとけよksg」
「ほ、ほぅ……い、言うぢゃないの、じ、じゃあ、ロクロータ、どうしたらその外面とやらを取り繕えるのかしら?」
「負け犬オブルーザーのキクさんや?預金通帳にシコシコ幸せ貯めてるあなたならご商売で相手から欲しい物を得る時にどう振る舞うかご理解しているのでは?いいんですよ、俺は。別に君が茶ばんだ便所紙張りつけて歩き回っても。ただ、一緒に居て少し恥ずかしいからご教示してあげようというのにその言い方はいけないんじゃないの?」
「ろ、ろくろーたせんせー、どうぞごきょうじゅねがいま、す」
ビッキビキに青筋立ててるキクって本当に煽り耐性ねえのな。
「うむ、よろしい。それなら?どうしてもというなら?茶ばみカマドウマの服飾を少しでもよくするために、簡単ながらも講義してあげやうじゃないか」
完全にこいつらの心を折り終わって素直に聞ける状態を作ってから俺は講釈をしてやる。
「まずは、どんなものでもそうなんだが『コンセプト』をしっかりと決めておく」
俺は試しにチュートリアに聞いてみる。
「チュー、お前その髪型決めた時どうやって決めた?」
「え?えと、美容室の人に都会の女の子らしい髪型でって頼んで」
「はいアウトー、主体性ゼロ。心意気の時点で敗北している。今回はたまたま上手くかみ合ったかもしれないが、いつか今の自分に飽きが来たとき貴様は敗北する。ゆるふわな頭だけでは生きていけないのがオサレ道なのだ。お前はその頭で岩盤でも砕くツモリか。お前のあたまがゆるふわ天元突破だ」
「やっぱりわたしゆるふわですかっ!」
「じゃなきゃその髪型は選ばない。服を中心にアセンブルを組む……コーデを組むならその髪型は強すぎる。他の服を選ぶのが難しくなるんだ。髪型というのはコンセプトに合わせるのがベスト。ロングヘアーやドリルは確かに髪型としてはインパクトが強いがその分、コーデに選択肢が少なくなる。どうしてかっていうと、それは『ライン』を作っちまうからだ」
「『ライン』?」
キクが初めて聞く単語に眉を潜める。
「『ライン』ってのは輪郭のこと。ざっぱくにイメージしてもらいたいのは完成した像を黒塗りしてそれでできあがる輪郭だ。キクのようなセミロングやテンガのような外ハネセミだとあんまりラインは崩れないんだが、チュートリアのドリルやシルフィリスのツインテールは割と『ライン』を『重く』してしまうからな。このラインの重さ、軽さってのが結構重要なんだ」
「輪郭の重さというのは一体、どういうものなのだ?重ければ良いのか?軽ければ良いのか?」
自分の名前が出たことからシルフィリスが興味を持ったようだ。
「見せたい場所に合わせて重さに差を出して『ギャップ』を作ることが大事なんだ。チュートリアの場合、髪型を見せたいからボディと腕のラインを軽くして、腰のスカートでまた重くしてやっている。人間の目ってのは軽い場所から重い場所へ流れる性質を持ってるから、全部が重いとせっかく見せたい場所を作ってもそっちに行かなくなるんだ」
俺は緊張して椅子に座ったまんまのチュートリアを指さしながら教えてやる。
「チュートリアを例にするなら『ゆるふわ』系の清純が『コンセプト』。ドリルを見せたくて髪型を重くするなら、ボディは『ゆるふわ』ラインだけどドリルより軽くする。そしてふりっふりの『ゆるふわ』スカートで重めにラインを作ったなら、最後に足下でラインを軽くすべき、だからゴテっとしたラインのブーツを履くのはNG、そこはラインを軽くするのに短靴というチョイスになる」
「「おぉ~」」
女子力が無い連中に男の俺がなんでこんなファッションについて語らなければならないのだろう。
「ただ、重い軽いってのは『ライン』が重要なんだが、忘れちゃいけない要素として服の装飾だとか色も関係してくる。俺がこいつのドレス部の色が濃いといったのはオレンジ色が濃いから『重く』なってしまっている。この重さだと人の視線はおのずとドレスに向かって、淡いグレーの軽いドリルの方へ流れづらくしてしまう。逆に、茶色に近いオレンジまで引き上げると色の『ギャップ』として髪も服も見せることができたりもする」
キクさんキクさん、ガン見しないで下さい。めっちゃ悲しくなるから。
「それに、微妙な重さ調整も色だけでできたりする。このチュートリアの状態で靴だけ短靴にしても太ももがあらわになって白っぽい肌でスカートの白と色としては同じ軽さになってしまう。それは先ほど言ったように、軽い物同士では引き立たない。そこで黒色のスパッツとセットの短靴を選ぶのですよ。そうすると白の軽さと黒のコントラストでスカートの白が引き立つ。おわかりかね?」
「「お見それしあした」」
「……おめーら、俺ちんちん付いてんねやで?もそっとこの辺り気を遣えよ」
まあ、逆にちんちん付いてるから変態的なまでに女キャラの造形に詳しくなったというのもあるのだが。
「マスター、あの質問をよろしいでしょうか?」
「なんだねゆるふわドリルちゃん」
「『崩し』って何でしょうか?マスターが先ほどおっしゃってた『自分なら頭に崩しを乗っける』と仰ってましたがその『崩し』というのが何か教えていただけませんでしょうか?」
珍しくやる気なチュートリア。
少し褒めたからいい気になりおってからに。
「『崩し』っていうのは一番最初に決める『コンセプト』とは全く違う『異質』なものを乗せることだ。たとえば今のお前さん頭にリボン巻いてるけどそれは『ゆるふわ』のコンセプトを基本に忠実に実践しているだけに過ぎない。それはどういうことか理解できるかね君のゆるふわドリルヘッドの中身で」
「わかりません!」
「ヒント、テーブルの上にリンゴが二つ」
「やっぱりわかりません!」
「即答すんなよ。脳みそまで本当にゆっるゆるだな。おバカでよろしい。さて、ここで問題です。自分だけを鏡で見ているなら、『ゆるふわ』を作ればそれでOK。ここまでの理論でパーペキなコンセプトの物が作れる。ここまではOK?」
皆がコクコクと頷くなか、俺はオサレ道の根幹を説く。
「だが、しかし!おんもに出れば同じ『コンセプト』で作ろうとした人が他にも居るのですよ!その人の隣に並んでしまえば『ゆるふわ』二人同士で互いに個性を失ってしまうのだ!」
皆が一様に眉根に皺を寄せる。
「……それが、どうかしましたのでしょうか?」
だめだ、こいつらあかん。本当に女子力が皆無に等しい。
「食べ物にたとえるとだな、カルパス肉の隣にカルパス肉がある状態だ。どっちのカルパス肉食べてもいいわけだ。極論してしまえば『ゆるふわ』のキクと『ゆるふわ』チュートリアが並んでいればどちらの『ゆるふわ』選んでも大差無い。つまり、選ばれなかった方が見て貰えない訳なんですよ!」
「……なるほど、重いライン同や軽いライン同士を組み合わせた状況が隣人同士で起こるということか」
「お前頭いいなーその通り!」
シルフィリスが正解を導き出す。意外とこの子頭いいな。
マスターはバカだけど。
「そう、だからそれらのバッディングを防ぎつつ、初見さんの目を引くような全く違うコンセプトの物を一つだけ混ぜる『崩し』を入れる。そうすることで他者との隔離をはかり、自分の個性を出す。チュートリアの頭にリボンじゃなくてヘルムのバイザーやゴーグルが乗ってたらどう思う?『ゆるふわ』の中に『硬派』や『冒険』なイメージが入るだけで『コンセプト』でギャップを作れる。これが『崩し』の神髄だ」
「「本当にお見それしました」」
最早ここまでついてこれる奴は誰一人も居ない。
ただただ平服して教えを請うだけの女子力皆無連中に女子力が本当に死にステータスな俺は華を鳴らす。
「パーツ単位でのコーデができるゲームの場合、そのパーツ一つ一つが与える印象をどう組み合わせてコーデするかも重要なセンスが問われる。そこで努力を怠れば、即座に女性キャラクターの個性として『死』あるのみ。俺の居た世界じゃ毎日のように萌えキャラクターが粗製濫造されて消費されて屍を積み上げていく。そこで服飾だけでも生き延びようとするならばこれらの技術を駆使して個性を作らねばならないということを覚えろ」
「そ、そんな厳しい世界があるのですか……」
「つか、俺の産まれた国は本当に酷いからな?大量生産されるおにゃのこ達の中身を選別なんていちいちしてる暇が無いんだ。だからぱっと見の見た目で選別されてそれから中身をようやく検閲していただけるわけで、その選考に漏れればそのまま誰の記憶にも残ることなく『萌えキャラ』墓場で『萌えないゴミ』扱いされてその生涯を終えていく。せめても中身を見てもらえるように外見から切磋琢磨して生き延びようと必死だ。その土俵にすら立っていない貴様らはちんちんの無い男と一緒。つまり、果てしなく無価値」
「マスターは修羅の国からやってきたんですね……」
どこか怯えたようにチュートリアが後ずさるがちんちんの無い俺に驚かれてもな。
とりあえずキクに死体撃ちしておこう。
「しかし、同じ修羅の国から来たキク様にはあまりそのような覚悟は感じられないのだが?」
「そうですね、なんだかいつも大雑把に服を選んでる気がします」
チュートリアが無邪気に追撃しやがったよ。ほんっとにゆるっふわな頭してやがる。
「悪かったわよ!私が悪かった!私には女子力なんて死にステータスだってわかったからいじめんなよ!わかったわよ!これから高い服でも買ってくるわよ!それでいいんでしょ!それで!」
やけくそ気味に泣くキクに俺はオサレ道の神髄を説く。
「バカだなーキク。高いから、とか、課金服に新しいの出たから、で買って着てるだけじゃ流行に流されて新しい服を自慢したいだけの下品なオサレだ。安くてもいいデザインの物はいっぱいある。高い服を着てもいい、だが、それを活かす他の部分は初期服だったりすることもあるのを忘れるな。俺は決してお前を苛めるためにしまむらからやり直して来いといってるわけではない。しまむらにこそファッションの基礎、そしてすべてが詰まってるからしまむらで修行してこいと言っているのだ。ただ、高い服を見せびらかすように着るのは頭とセンスではなくて金だけ使う下品な女だと悟れ」
「正当なだけに反論できなひ!すっごい私が惨めだっ!」
いいように纏めたが半ばいじめてたけどね。てへぺろー。
でも某FF13ではヒロインの服装がしまむらで再現できるくらいの汎用性の高さを持ってるからな。
しまむらをバカにして高い買い物に走るブランド厨は課金服を着続けるだけの奴らとそうそう大差ない。
「難しいわー。女子力を高めるのもゆるくないわぁ……」
俺はついでだからキクに指摘してやる。
「……凄い細かいことだけど、女子力を高めるというのはおにゃのこらしくない。おにゃのこなら女子力は磨くものだと思う」
女子力が高ければ果てしなくどうでもいいのだが、キクさんにはこのあたりから指摘してあげた方がいいかもしれん。
「どっちでもいいじゃん。でも、聞いたげる。その心は?」
「高めるは『高い』だとか『低い』だとか、比べる競争原理のとれるイメージの言葉。『磨く』は綺麗になるために他人と競争しないで、努力するイメージの言葉。そういう意識が無いと、おにゃのことしてガツガツしたイメージを取られて女子力がそれこそくすんでしまってるだろ?こういった意識の細かいところから努力しとかないとそれこそ女子力が高くならないという俺個人的な見解だが、間違っちゃいないと思う」
ちょっと謙虚な俺の女子力にひれ伏し、拍手し賞賛する連中は本当に女の子だろうか。
ゆるっふわドリルが感動していた。
「本当にマスターは凄いですね。モンスター達との戦いだけではなく、女子力も高いなんて……尊敬します」
「戦女神イリアのコーデリア……女の戦いにも精通し、果てなく高い女子力を持つか……」
「ろーたー、すごいおんなのこらしー」
無条件にガチで褒められたとて、嬉しくないこともある。
というよりこいつらのバカっぷりがそろそろ本気で心配になってきた。
「褒めるな。つか、誰かそろそろ気がつけよ?ちんちん付いてる俺にゃ女子力なんかキクさん以上に果てしなく無価値な死にステータスだってことに」




