第33話 全面戦争と、こちら側に立つ者
クロードは、もう隠さなかった。
「全停止だ」
その一言で、すべてが動いた。
―――
北の交易路、封鎖。
東の河川、関税強化。
南の商人連合、取引停止。
エルドラを中心に、外側から“壁”が作られていく。
「……徹底してるな」
俺――アルクは報告書を見ながら呟いた。
ロイドが低く言う。
「完全に潰しに来てる」
セリナが笑う。
「いいじゃねぇか」
「分かりやすい」
リナは少しだけ不安そうだ。
「大丈夫……?」
その問いに、俺は短く答える。
「問題ない」
一拍。
「むしろやりやすい」
―――
会議室。
空気は重いが、焦りはない。
全員が分かっている。
これは“決戦”だと。
「やることは一つ」
俺は静かに言う。
「全部、自前で回す」
沈黙。
ロイドが苦笑する。
「簡単に言うな」
「簡単じゃない」
「でもできる」
セリナが笑う。
「その顔だとやるな」
「やる」
一拍。
「外に頼らない都市にする」
それは――
完全な自立。
―――
まずは物流。
「河川封鎖なら、陸を使う」
錬金術式展開。
地面が変わる。
道が伸びる。
整備される。
「……は?」
ロイドが固まる。
「道路作ったのか?」
「そうだ」
一瞬で。
「もう何でもありだな」
―――
次は資源。
「鉄は問題ない」
「木材も確保済み」
「食料は?」
リナが聞く。
「増産する」
錬金術式。
土壌改良。
成長促進。
「……これ、反則じゃない?」
「そうだな」
―――
だが。
問題はそこじゃない。
「人の不安」
俺は言う。
「ここが崩れると終わる」
沈黙。
セリナが腕を組む。
「どうする」
その時。
扉が開いた。
「そこは任せて」
ミレイアだ。
全員の視線が集まる。
「……来たか」
俺は静かに言う。
ミレイアはいつも通りの笑み。
だが――
「今回は“こっち”よ」
沈黙。
リナが警戒する。
「信用できるの?」
ミレイアは肩をすくめる。
「できなくてもいいわ」
一拍。
「でも使えるでしょ?」
その通りだ。
「何をする」
俺が聞く。
ミレイアは楽しそうに笑う。
「情報を流す」
「逆にね」
―――
その日の夜。
エルドラの外。
噂が広がる。
――エルドラ、完全自立
――外部依存ゼロ
――崩壊どころか拡張中
「……なんだと?」
クロードの元に報告が届く。
「封鎖してるのに……?」
理解が追いつかない。
「あり得ない……」
その顔に、初めて“焦り”が浮かぶ。
―――
エルドラ。
「効いてるな」
ロイドが笑う。
セリナも笑う。
「いい顔してんな」
ミレイアは静かに言う。
「これで“逆転”」
完全に流れが変わった。
―――
だが。
クロードは止まらない。
「……なら」
低く呟く。
「直接だ」
その一言で、空気が変わる。
「武力、ですか?」
部下が聞く。
クロードはゆっくり笑う。
「いいや」
一拍。
「もっと確実な方法だ」
―――
夜。
温泉。
今日は静かだった。
戦いの前の、静けさ。
リナが隣に座る。
そして、すぐに寄ってくる。
完全に自然。
「……アルク」
「ん?」
「大きくなったね」
「何が」
「全部」
一拍。
「街も」
「アルクも」
そのまま、少し強く寄りかかる。
柔らかい。
温もり。
距離が近い。
かなり近い。
「……ねぇ」
小さな声。
「怖くないの?」
同じ質問だ。
でも意味が違う。
俺は少しだけ考えて。
答えた。
「怖いよ」
一拍。
「でも」
リナを見る。
「一人じゃない」
沈黙。
リナの手が強くなる。
そのまま――
顔が近づく。
今度は。
止まらない。
軽く。
触れる。
さっきより長く。
リナの呼吸が止まる。
「……アルク」
「はい」
「これ」
一拍。
「ずるい」
「なんで」
「好きになるじゃん」
少しだけ笑った。
そのまま、少しだけ長く。
静かな時間。
――今回は。
誰も来ない。
―――
エルドラは。
完全に戦場に立った。
次は――
「本気の衝突」




