064.「」
(なんだ、これは……!? 何事だ……!? いったい何がどうなっている!?)
六本の腕で戦鎚を矢継ぎ早に振り乱しながら、グランダムはいま激しい焦燥に駆られていた。
互いに望み、再び相まみえた宿敵――銀剣のジルクリフとの一騎討ち。
つい先刻まで誇りと力のすべてを賭し、全霊をもってぶつかり合っていた。
(存分に力を発揮し、鎬を削り合っていたというのに……!)
「いま、思い知らせてあげるんだからッ……!」
そこへ突如として、予期せぬ第三者が割って入ったのである。
グランダムはその少女を知っていた。
アルメリア・リーフレット。
(ガレイアで一番と評判を集め、瞬く間に名を広めたポーション屋の店主……!)
だったはず、と。
そう認識している。
人間など矮小な存在だ。
象が足元の蟻を顧みないのと同じように、グランダムもまた取るに足らぬ相手の名などいちいち覚えない。
『我が名乗り、記憶に刻むは、ただ対等と見定めた敵のみよ』
かつてムシウルやセレビネラのまえで、そう吹かしてみせたこともあった。
故に、本来であればあり得ないのだ。
人間――ましてや戦士ですらなく、たかがポーションの売り娘に過ぎないアルメリアの名を、グランダムがフルネームで記憶するだなんてことは。
しかしアルメリアがその稀有な例外となったのは――。
美味かったからである。
(な、なんだこれは……っ!?)
甘美にして至高。
言葉では到底言い尽くせぬほどに、アルメリアのポーションは他を隔絶していた。
(しかも味わいのみならず、吸収できる魔力量も桁違いではないか……!?)
それこそ――。
(かつて一度だけ食したことのあるマンドラゴラ……。そのとき覚えた恍惚感を彷彿とさせるものがある……!)
にわかには信じられなかった。
さながら熟成されたワインの味わい深さに、思わずラベルやボトルを見入ってしまうように。グランダムの視線は、いつの間にか空となってしまったポーション瓶へと注がれる。
『よもやかような生娘が、これを……?』
舌鼓を打つ。
『そこの御仁、問おう。あのポーション屋の娘は……?』
『あぁ、アルメリアちゃんのことかい』
近くにいた冒険者に声をかけ、うんぬんかんぬん。
『ふむ、アルメリア・リーフレットか……』
覚えた。




