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プロローグ7 吸血鬼

(3月16日追記)

『魔力』、『理力』、『闘気』、『聖気』、『妖気』の源を『魔素』に変更します。

以後の話でも順次書き換えます。

 そこから食屍鬼が全滅するまで、5分もかかっていないだろう。

 最後の4体はトドメを刺さずに生かしておく余裕さえあった。

 勿論メンバーにはかすり傷一つない。


「前言撤回だ。こいつらは魔石を抉る。」

「助かるわ。吸血鬼と当たる前にちょっとでもレベル上げたいもの。」


 人間の能力の4大系統『魔力』、『理力』、『闘気』、『聖気』、そして魔物の能力である『妖気』。理論上、それらは全て『魔素』と呼ばれるものが発現の形を変えたものである。


 そして、魔物は魔石と魔素から出来ている。

 魔石を破壊すれば魔物は即死する。魔物を殺せば魔石は砕ける。


 では、魔物を殺さずに魔石をえぐり出せばどうなるか。――魔物の肉体は魔石を残して消え、全て魔素に変わるのである。

 そして、その魔素は魔石を抉り出した者に吸収されるのだ。


 これが『経験値』と呼ばれるものであり、吸収した魔素の総量から計算された値が『レベル』である。当然魔素の総量――レベルが上がれば、能力も上がる。


 そして、魔素の吸収率や、レベル上限には個人差がある。

 カイは既にレベル上限に達しており、魔石を抉ってもこれ以上の成長は見込めない。

 他の四人が魔石を抉る作業を眺めるしかできなかった。


 だから気づいた。


 折り重なった食屍鬼の死体から不自然に影が伸びるのを。


「リサ!!! 離れろ! 吸血鬼だ!!!」


「?」


 リサのレベルはカイよりもずっと高い。

 だが、皆に守られてきた後衛職であり、経験も浅く、油断していた。


 まして影を操り、影に同化する能力を持つ吸血鬼など、想定していなかった。


 化鳥のように飛び上がり広がった影から現れた女の犬歯が喉に吸い込まれてなお、リサは反応できない。


 暗闇の中でさえ輝くその女の白い肌と、闇の一部のような長い黒髪と憂いを帯びた瞳、そこだけが血のように赤い唇、悪魔のように整った妖艶な美貌。

 対照的に高潔なリサの呆然としながらも上気した貌と、流れるような金髪、清廉な青と白の神官衣と鎧。


 名画を前にしたように皆が目を奪われる中、最初に動いたのはカイだった。


「リサっ! 聖気で振り払え!!!」


 叫ぶと同時に飛び出し、聖弾(ホーリーバレット)を放つ。

 女はあっさりと躱すが、その時にはもうカイが懐に飛び込んでいた。


聖撃(ホーリースマイト)!!!」


 チーム名の元にもなった聖気の基本技だ。

 女はそれも危なげなく細剣(レイピア)を抜いて防ぐと、体重など無いかの様に宙に浮いた。


 そのままリサを連れて、中空を滑るように逃げ出す。


 その間、リサは虚ろな目をしたまま、聖気を発動する事はなかった。


「くそ!」


 カイは歯噛みする。

 リサはもう手遅れだ。まだたった16歳。冒険者デビューして2年の、才能に溢れた少女だった。


 このパーティのメンバーは皆なまじ才能があるだけに、彼らなら大丈夫だろうと油断していた。

 パーティの空気が緩んでいるのに気付いていたのに、引き締めなかった。

 いや、それ以前にもっと厳しく指導していれば、カイの警告に反応できたはずだ。


 だが悔やんでももう遅い。

 せめて残りの三人を生きて帰すのがカイの役割だ。



「り、リサ……?」


 ようやくフィンブレンが反応したのは、女の姿が200メートルも離れた頃だ。


「リサっ!!!」


 凄まじい闘気を吹き出し、跡を追おうとする。


「ま、待てや、フィンブレン!! リサはもうっ!!」

「あれは誘いだ! リサを人質にする気だ! ならまだ奴はリサに手を出せない! まだ間に合う!!」

「誘いだってならどんだけ危険か分かるだろ!? 全滅する気か!?」


 カイが止めに入った瞬間、フィンブレンが全力でカイを殴りつけた。

 咄嗟に闘気で防ぐが、耐えきれず壁に叩きつけられ、一瞬意識が飛ぶ。


「黙れ! だいたい警戒はお前の仕事だろうが、役立たず!!!」


 言い放つと、フィンブレンは駆け出す。

 それに応じたように、地下道に霧が立ち込め始めた。


 霧は吸血鬼の特殊能力の一つだ。

 この中に長時間いれば、聖気を使えない者は少しずつ精気を吸われて魅了の影響を受ける。

 また、吸血鬼の気配を消したり移動をサポートする効果もある。


「や、やばいで! どうする、カイスはん!?」

 グランデルも咄嗟に判断に迷う。


「追うぞ! リサに続いてフィンブレンまでやられたら撤退もできない! 嬲り殺しだ!」

「りょ、了解やっ!」


 フィンブレンの姿が角を曲がった直後、『どんっ』という鈍い音がした。

 青ざめるグランデルとゾフィを置いて、カイが駆け出す。


 曲がり角の先には、血に塗れたフィンブレンがいた。

 その背には、数本の槍の穂先が生えていた。

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