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プロローグ4 地下下水道探索開始

 彼らは誰一人として依頼の達成を疑っていない。それには根拠がある。


 フィンブレンは『聖騎士』、リサとカイは神官。

 つまり、『ホーリースマイト』は実質的に5人中3人が聖気使いである。

 そして、食屍鬼も吸血鬼も、極端に聖気に弱いのだ。


 さらに、カイ以外の四人は既にB級に匹敵する実力を持っている。


 これが、本来B級分類だった依頼をまだC級冒険者の彼らが受注できた理由であり、にも関わらず全く臆していない理由だった。


「食屍鬼でも確実に昇格するさ。B級依頼(クエスト)な事に変わりは無いからな。」


「油断は感心せんでー。やけどまー、よーするに昇格祝勝会(パーティ)の準備はしといた方がええっちゅーこっちゃね。」

「油断ではなく事実だ。言ってはなんだが、B級が皆召集されたタイミングだったのは幸運だったな。東で騒ぎを起こしてくれた魔王に感謝だ。」

「そこに気付くとは、流石勇者様ですわ。(ギラリ)」


 彼らはもう既に依頼を完了した気でわいわいと和み始める。

 頼もしいと思う反面、ふとカイはケントの言葉を思い出した。


――ガキの無茶を止めるのも大人の仕事だぞ。


 違う。無茶ではない。ただのチャンスだ。30年待ち続けたB級昇格がもう目の前なのだ。例えそれが自分の実力ではなく、仲間――それも、才能に恵まれ、世の中を嘗めた子供の力であったとしても、だ。


◆◆◆

 食屍鬼に食い殺された冒険者――ダイデスン=クルッツェ=ツェストランの死体が発見されたのは、デルッタの東の街壁にほど近いスラムの下水口付近だった。


 眼前には高さ3メートル×幅3メートルほどの石造りの迷宮じみた地下道が口を開いている。

 地下道の左半分が下水で、右半分が側道だ。

 下水の下流は街壁にはめられた鉄格子の向こうで川に流れ込んでいる。

 デルッタの街は小高い丘にあり、街の地下は平地より高い位置なのだ。


 この地下道は毎年大清掃と補修が行われているため、信用できる地図がある。

 迷宮じみてはいるが、迷宮と呼ぶにはぬるいだろう。


 昨日の打ち合わせから一夜明け、ホーリースマイトの面々は完全武装で集合していた。


 ゾフィは魔術師の正装である黒のローブと木の杖。

 残念ながら胸元も開いていないし、スリットも入っていないし肢体(からだ)の線も出ていない。極めてオーソドックスなローブである。

 が、色気の無いローブでも胸の大きさが隠しきれない様は、非常に良いものであった。


 カイは動きやすさ重視の木綿の服にショートソードだ。

 カイの職業の一つである『剣聖』は、闘気を一ヶ所に集中して一瞬だけ高い強化を行うのを得意とするが、全身を満遍なく強化し続けるのは苦手だ。

 そのため、重い鎧が装備できない。

 必然的に回避前提となるため、カイはいっそ剣以外に装備と言えるものを纏っていない。


 フィンブレンは華美な装飾の入った部分鎧(ハーフプレート)片手剣(ロングソード)中盾(カイトシールド)

 リサは青を基調とした僧侶服に簡素な白の部分鎧(ハーフプレート)と無骨なフレイル。


 そしてグランデルは黒に金の装飾が入った甲冑(フルプレート)片手半剣(バスタードソード)、背中に大盾(ラージシールド)を背負っている。

 胸と盾には赤でジャイド王国の紋章が描かれていた。

 王国騎士の正規の甲冑(スーツ)だ。

 本来はそこに大振りの斧槍(ハルバード)も加わるのが正式装備だが、流石に今回の依頼には邪魔なので持ってきていない。


 全員が外套――ケープかマントを羽織り、背嚢(リュックサック)を背負っている。

 外套は寝袋がわりだ。野宿を想定した装備である。


 カイはゾフィに目配せすると、目を閉じて意識を集中する。


 野性(ローグ)系の能力『理力』は大きく超感覚(エスプ)念動力(サイコ)に分けられる。

 野性系職は、超感覚によって罠の感知や追跡を行うのがパーティでの主な役割である。


 さらに念動力を併用して罠の解除や、逆に罠を仕掛けることも重要な役割だが、とりあえず今カイが発動したのは超感覚の一つ『過去視』だ。


 本来はカイのレベルでは使い物にならないが、カイの野性(ローグ)専門職(キット)深淵(エニグマ)』は、同時に使う理力を一つに絞ることで、レベル以上の能力を発揮できる職業だ。

 超感覚だけ<過去視だけ<限られた範囲・瞬間だけ、と絞れば絞るほど効果は高くなる。


 カイの意識には、ヨロヨロと下水口から這い出るダイデスンの死の直前の姿が見える。


「見えた。やっぱり下水道から出てきてる。」

「流石やな。よーするに、戦闘のあった場所まで辿れるん?」

「任せろ。」


 カイはビデオの巻き戻しの様に『過去視』の映像を遡り、慎重に、ダイデスンが出てきた方へ歩き始めた。


 カイが低レベルパーティで重宝される理由がこれだ。

 探索だけが目的であれば、理力は然程高レベルなものは求められない。むしろ、他に何ができるかの方が重要だ。

 カイは強敵相手の戦いでは役に立たないが、最低限の探索、サポート、雑魚掃除や荷物持ちなどはこなせる便利屋だった。


 ゾフィは、カイが動き出したのを確認すると、呪文を唱える。30秒ほどの詠唱ののち、彼女の周囲に眼球のようなものが4つ現れた。

 『魔法の目(ウィザードアイ)』の魔法である。

 この眼球はゾフィと視界を共有している。昨日買った魔道書で覚えたての探査魔法だ。


 普段であれば周囲の警戒はカイが担当するが、『深淵』は複数の能力を同時に使うのが苦手だ。

 そのため、今回はゾフィが警戒を担当する。

 その前に、『暗視(インフラビジョン)』の魔法は既に全員にかけてある。


 眼球の二つがふよふよとカイに先行し、残り二つはパーティの後方を警戒する。


 パーティはゆっくりと下水道を進んでいった。

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