周りの扱いはだいたい日頃の行いのせい
ジョスト・トーナメントに参加? それってつまり、出場者として、ということだよね…?
「あの、閣下。僕の聞き間違いでなければ、出場者としてジョスト・トーナメントに出て欲しい、と仰ったのでしょうか…?」
「うむ、そうなのです。閣下には、青少年の部で、剣術のトーナメントに出て欲しい。そしてできれば優勝して欲しいと思っております」
ハインズ選帝侯は何でもない事のように言うけど、言ってることは無茶苦茶だ。ジョスト・トーナメントは互いの命と名誉をかけた真剣勝負の場。毎年何人かは死んだり再起不能になってるのだ。出場者はみんなそれを承知した、命知らずの荒くれ者しかいない。そんな舞台に立てというのか。
私、王子ぞ? 一国の王太子ぞ?
私が完全に引いちゃってるのを見て、ハインズ選帝侯は乗り出していた身を引き、ふぅ、とわざとらしいため息を吐いた。
「…私の終生の友に、マルクス選帝侯という男がいるのだが、コイツは狡っからい男でな」
なんか話が始まっちゃったよ。
「ある時、ルーナの皇子達がトーナメントのことを楽しそうにお話されていた時、マルクスは言ったのだ。せっかくトーナメントに列席されるのだから、どうでしょう、優勝者に皇子達からも祝福を授けてやっては、と。それを聞いて、皇子達も乗り気になってしまわれてな。優勝者に望みがあるなら、叶えられるものは叶えてあげよう、と慈悲深くも仰られたのだ」
ハインズ選帝侯はやれやれ、とでも言うように、首を振った。いちいち仕草が芝居がかっている。
「もちろん、マルクスめは、下心があってそんなことを申し出たのだ。あやつの奥方はローランドの出で、今の公爵の姉君だ。そしてその公爵とは、かの有名な『ローランドの一番槍』と呼ばれておる男だ。今年のトーナメントには、その公爵の愛息子が出場すると聞いておる。もちろん、マルクスめの推薦を受けて、だ」
ようやく話が繋がった。要するに、そのマルクス選帝侯とやらはトーナメントを使って、甥っ子を皇子達に印象づけたいのだろう。あわよくば、側近にしたいとも考えてるはずだ。そしてハインズ選帝侯はそれが面白くない、と。それで、身分だけはやたら高い私を出場させて、横槍を入れたい、ということだろう。
「もちろん、殿下をご推薦させて頂けるのならば、こちらもできる限りの便宜を図りましょうぞ。今まで以上に交易にも力を入れさせて頂きますし、殿下はアシュトン皇子殿下やジョシュア皇子殿下と歳が近いですから。きっと良いご友人になれるでしょうなぁ。そうだ。殿下さえよろしければ、我が国にしばし逗留されるのはいかがですかな。ルーナはマーレインより北にありますから、夏は過ごしやすいですぞ」
一人で勝手に話を進めて、ハインズ選帝侯は私に満面の笑みを浮かべた。笑顔は真っ黒で、好々爺の面影など無い。助けて、パパ! 娘が売られそうよ!!
私が必死に陛下を見つめると、ようやく重い口を開いた。
「しかし、トーナメントはもう、参加者を締め切ったのでしょう。それに息子は未熟者でして、帝国の皇子達のお相手など務まるものか…」
「なに、トーナメントの締め切りなど、私と陛下のご推薦があればどうとでもなります。帝都の城でも私が殿下の後見となりますから、どうかご安心くださいませ」
「おお、それは頼もしい。それならば問題ないでしょうな」
「そうでしょうとも、そうでしょうとも。いやはや、陛下のご賢明な判断、感謝いたします。それでは殿下の活躍と、両国のさらなる発展と友好を願って。乾杯!」
「乾杯!……フランよ。王国の名を背負うのだ。その名に恥じぬような働きを見せるのだぞ!」
はははははは、と真っ黒く大人達が笑う中、誰も私の身を心配してくれないことに、ホロリと涙を零した。なんだろう、日頃の行いが悪いのかな。
++++
「フランセス王子をジョスト・トーナメントに参加、ですか?」
ハインズ選帝侯が上機嫌にルーナ帝国へ帰っていった翌日。廷臣が揃う朝議の場で、陛下は私の議題を出した。王太子といえど成人しないと朝議の場には出ないのだが、今回は自分の事についてだからか、特別に臨席が許された。
「しかし、王子は実戦経験などありません。いきなりトーナメントなどという真剣勝負は無謀では?」
開幕、辛口コメントをくださったのは、我が国の宰相閣下だ。王妃様のお父上でもあるため、常に私への対応はしょっぱいが、そんなことは関係ない。私の身を案じてくれるような言葉を言ってくれたのはこの人が初めてだ。感謝の気持ちを込めて、熱烈な視線を送っておいた。
「手加減ができず、相手を殺してしまうのがオチです。相手次第では、最悪国際問題ですぞ」
あれ、なんか心配の方向性が違う。
「そうですとも。他国の王族の目の前で、我が国の王太子が人殺しなど外聞が悪過ぎます。却下ですな」
他の廷臣たちもうんうんと肯いている。助けを求めて元近衛隊長を探したが、彼は誰よりも深刻そうな顔で黙りこくっていた。師範…!
「余も確かにそれが一番の懸念ではあるが、もう約束してしまったのだ。フランにだけ模擬刀を持たせるとか、こっそり刃を潰しておくとか、対策を取ればなんとかなるだろう」
「それはさすがにバレます、陛下。 それにそんなことをしてしまったら、侮られたと相手を怒らせてしまいます」
「うーむ、どうしたものか…」
誰も彼もが考えこむ中、意見の出ない朝議の場を見渡して、宰相閣下が諦めたように口を開いた。
「こうなっては仕方ありません。トーナメント開始までの残り1ヶ月で、殿下に手加減を学んでいただきましょう。それで間に合わなければ、その時は、その時です」
「そうですな」
「それしかありますまい…」
廷臣たちの、お前のせいだ、という恨めしげな視線をひしひしと感じながら、結論が出た。
「第3騎士団を直ちに呼び戻しましょう。殿下には、この1ヶ月、山賊とトロール狩りをしていただきます」




