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偽物王子は今日も溜息をつく  作者: あみこ
第1章 マーレイン王国
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そして私はやさぐれた

私は8歳まで、王都郊外の小さな屋敷で母と二人きり暮らしていた。母は身体が弱く、寝付いている事の方が多かったが、お手伝いさんがいるおかげで私は何不自由なく育った。


…今思えば、父親がいなくて母も働いていないのになんで何不自由なく暮らせるの、とか、両親の親族に会ったことないな、とか、そもそも父親はどうした、とか突っ込みどころはたくさんあるけど。物心ついた時からこの環境に育った為、疑問に思うことは無かった。半隔離されてたせいか、同じ年頃の子供との交流も無かったしね。


とにかく、割と裕福な家庭で育った私は、母に愛され、外で遊ぶよりも家の中で本を読んだりお人形遊びを好む、内気で大人しい女の子だった。自分で言うのもなんだが。


それがね、いきなり母と引き離され、お城に召し上げられて、今日から男の子になりなさい、だもんね。まぁ、やさぐれるよね。


そこからの日々は酷かった。私が女の子だと知ってるのは王と一部の重臣と、世話を焼いてくれる侍従だけなのだけど、それ以外は私を庶子の王子だと思っている。そのため、王子としての厳しい英才教育に加え、男装を解けない窮屈さもあった。


時々許される母との面会を糧に、それはもう私は頑張った。優雅で男らしい宮廷作法(矛盾してない?)とか、我が国の地理と歴史学(どす黒い裏含む)とか、帝王学と経済学(8歳児にはハードルが高い)とか、音楽の教養(かっこいい王子様にヴァイオリンは必須らしい)とか、剣と乗馬の訓練(これらが一番向いてた)とか、エトセトラエトセトラ。


庶子に対する王妃達の冷たい眼差しと、庶民出に対する貴族達の嘲りを感じながら、多感な少女は多少やさぐれつつも頑張った。


その甲斐あって、12歳になる頃には、武勇に優れたフランセス殿下、さすが建国王の生まれ変わり、顔の良い脳筋、なんて褒め?そやされたが、実は王女だなんて気づかれることは無かった。


私も自分が女の子であることを半分忘れて、このまま私が王様になるのかなー、私が王様になったらお世継ぎはどうするのかなー、女装した男の子と結婚したりするのかなー、それはちょっとキツイなー、なんて自分を棚上げして夢想していた。


私が12歳の時、王妃様が弟王子をお産みになるまでは。


長年子供に恵まれなかった王妃様が弟王子をお産みになり、国中が祝福に溢れかえるその裏で、私は父親である王陛下に呼び出された。つまりはアレですよね、用済み宣言ですよね。さすがは陛下、仕事が早い。でもまた女の子に戻って、母との2人暮らしに戻れるのなら、それはそれでいいかも。


「よく来たな、フランセス。いや、フランチェスカよ」

「…この度は王子の御誕生、誠におめでとうございます」

「うむ、大義である。…まぁ、お前の弟でもあるがな」


今ではもう母以外呼ぶことのない、女の子としての名前を呼ばれて、内心よく覚えてたなと感心しながら、通り一遍なお祝いの言葉を述べた。他人行儀なのは仕方ない。もうすぐ本当に他人になるかもしれないからねっ。


冷めた目で次の言葉を待っていると、陛下はあーだの、うーだの、しばらく言いにくそうにした後、やっと私に目を合わせた。


「この度呼んだのは他でもない。お前と弟の処遇についてだ」

「はい」

「まだ生まれたばかりだが、世継ぎにはお前の弟を、と余は考えておる」

「…はい」


まぁ、そうでしょうね。弟は嫡流。私は庶子。というか、そもそも私、女の子ですしねっ。


「しかし王子は生まれたばかり。右も左もわからぬ赤子に、世継ぎの座は、些か荷が重い」


あれ?なんだか話の雲行きが怪しくなってきたぞ。


「そこで余は、お前を王太子に定めようと思っている」


…つまり、どういうことだってばよ?


「弟が長じるまでは良き兄として導き、世継ぎが定まった後は、良き臣としてこれを輔けよ。…よいか、これは王としての命令である」


私は頭が真っ白になった。つまり、つまり、私は一生男子として、弟を支えて生きろ、ということだ。


呆然自失として固まる私を見ないように、そそくさと退散する陛下を横目に見ながら、私はノロノロと考えた。


突然のクリストフ王子の死。王弟が謀殺したという噂。唐突な赤髪の王子の預言。男装を強要される庶子。…そして、赤髪と言い張ればそう見えなくもない、王と王妃の明るい茶髪。


王子が生まれたら、上手く挿げ替えられるように。そうでなかった時の、スペアが私だ。


そして私は、完全にやさぐれた。

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