プロローグ
「…また朝が来てしまった…」
目が覚めると、まず目に入るのは天蓋付きベッドの圧迫感のある天蓋だ。窓からは爽やかな朝日と小鳥のさえずりが容赦なく私に降り注ぐが、そんなもの無視して二度寝を決めたい。なんならいっそ、永眠してもいい。
しかし、そんな私の寝起きをよくわかっている侍従達は、問答無用で布団を引っぺがし、目覚めの紅茶をサーブした。
「本日の予定も詰まっております。いい加減、目をお覚ましください」
「…ああ、わかってるよ」
私の喉からは、変声期前の少年のような声が飛び出す。一般的な女性の声に比べれば若干低いが、これで15歳は無理があるんじゃなかろうか。
目覚めの紅茶を飲み終え、侍従が持って来た洗面器とお湯で顔を洗ったら、次は身仕度だ。いつも通り、着替えの段になると他の者達は下がり、私1人だけになる。市井で暮らしていた時の習慣で人に傅かれるのは慣れてない、って事に建前上はなっているが、ねぇ。まぁ、公然の秘密だけど、着替えだけでもこうして配慮されるのはありがたい。
「………はぁ」
総シルクの夜着を脱ぎ、いつも通りに胸には晒しを、腰回りには括れを隠すためのタオルを巻く。その上から用意された今日の王子様の衣装を身に付ければ完成だ。
15歳にしては痩せっぽちな少年がこちらを見返している。紅茶色の髪はよく手入れされているし、振る舞いも衣装も王子様にふさわしいものだ。…死んだ魚のような目を除けば。
「…お支度はお済みですか。では、参りましょう。フラン殿下」
…ああ、今日もまた1日が始まる。
++++
そもそもの始まりは私が8歳の時だった。我が国のお世継ぎである、クリストフ王子が亡くなってしまったのだ。我が国マーレイン王国は封建君主制で、直系の男子のみに王位継承権があるのだけれど、この当時、王の御子で王子なのはクリストフ殿下だけだったのだ。
王にはお妃様だけでなくお妾さんもいっぱいいて、王女様もそれなりにいたのだが、何故か王子様にはなかなか恵まれず。王弟殿下もいるから、直系の王位継承者はいないわけではないんだけど…。今でも、クリストフ王子の死は、王弟殿下の謀殺説とか、口さがない者達の間では囁かれてるくらいである。兄弟仲など、推して知るべし、である。
そんなどす黒い宮廷事情など、庶民として生きていくはずだった私の人生には関係無いはずだったんだけども、私の運命を変えたのは、傍迷惑な一つの預言の所為だった。
いわく、赤髪の王子は建国王マークの生まれ変わりである、という。
そんな怪しげな預言を、王が熱心に寄進している武勇の神を奉っている神殿の神官長さんが宣告しちゃったもんだから、さぁ大変。
王宮が把握している王の子で、庶子含めて条件に当てはまるのが私だけだった、というわけだ。
でもちょっと待ってください。私、女の子なんですけど…。




