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偽物王子は今日も溜息をつく  作者: あみこ
第1章 マーレイン王国
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人の才に根源はあれど理由なし

「りょ、両者ともに刀剣破壊のため、試合終了です! えー、攻撃した側も刀剣破壊のため、引き分けにさせていただきます!」


引き攣った声で審判役の人が声を上げて、試合は終了になった。その途端、止まっていた時が再び動き出したかのように、ガヤガヤと皆声を上げ始める。


私もレザーアーマーを脱ぎ、スミスさんにお返しする前に洗った方がいいのかなぁ、その前に第一騎士団団長に一発入れに行くべきかなぁ、と思案していると、頭の上に大きな影がさした。ロベルト副団長が側に立ったのだ。


「いやぁ、アンタ本当にすごいなぁ! あの剣を破壊したのはワザとだろう!? あんな貧弱な模擬刀同士で、そんな芸当、どうやってやるんだ!? そもそも…」

「王太子殿下! ロベルト!」


感動したように目をキラキラさせたロベルト副団長は興奮したように言い募っている。身振りも大きいし、目もつぶらで大きな熊さんの人形みたいだ。そう思うと少し可愛いかも。ぼーっと大きな熊さんを見上げていると、ネッド団長が怖い顔をさらに怖くして、近づいてきた。え? 模擬刀壊したから怒られるんだろうか。怖い。


「ロベルト、ご苦労だったな。模擬刀など扱いづらいだろうに、良い動きだった。本任務でも良い働きを期待している。疲れているところ悪いが、準備が出来次第出発だ。団員達をまとめて、整列させておいてくれ。……王太子殿下。その剣、見せていただきたいのだが」

「あ、はい」


ロベルト副団長にテキパキと指示を出すと、ネッド団長は折れたふた振りの剣をじっくりと検分し、特にロベルト副団長の剣を熱心にあらためた。


「殿下の武術師範を務めておいでなのは誰です?」

「ベルナルド卿。元近衛騎士隊隊長だ」

「……あの方か。……ずっと卿だけに師事しておいでか?」

「そうだが、何か?」


バチスト・ベルナルド。今までもちょいちょい話に出ている私の武術師範だ。元近衛騎士隊隊長で、騎士団で知らぬ者のない鬼教官である。その鬼っぷりは王太子である私相手でも変わらず、訓練中、どんなに私がしごかれ苛められても私の護衛騎士たちは皆顔を青くしたり胃が痛そうにしていても止めてくれなかった。私が女だとわかっても、で?と言ったきり眉一つ動かさなかった鬼畜である。


そんな鬼教官であっても、寄る年波には勝てないのだろうか。私が14歳の時、初めて手合わせで彼に勝ち星を挙げた後、もう教える事はないと言って武術師範を辞したのだった。それが今更どうしたのだというのだろうか。


「……ロベルトの剣を見るに、殿下はあの打ち合いで模擬刀の弱い部分に斬撃を食らわせたのでしょう。違わず同じ部位に何度も。そして、大振りな攻撃で一息に剣を折り壊したのでは」

「試合の批評は僕の居ない所でやって欲しいんだが」


さっきの試合のことを確かめられる。しかし、剣の技について根掘り葉掘りするのはマナー違反なので、直接的に嫌味を言ったのに、ネッド団長は気にした素振りもなく、なおもブツブツと考え込んでいた。


「殿下が剣術を始められたのは8歳の時だ。いくら天賦の才があったからと言って、あの身のこなしと類稀な動体視力、そして精密過ぎる剣の冴えをたった数年で身につけたというのは信じがたいことだ。いくらベルナルド卿の御指南があったとしてもありえない。そして、あの身のこなしと剣技は卿のものとはいささか外れる……」

「いったい何が言いたいんだ?」


私はだんだんイライラしてきてしまった。正々堂々と剣の腕を見せたというのに、ネッド団長はなんだか褒めてるのかなんなのか分からないことを考えているし、結局私の実力を認めてくれたのかも分からない。せめて着替えやトイレにつく護衛はどうなったのかだけ確認したくて、問い掛けようとしたところで、ネッド団長はようやく思案から醒めたようにゆっくりと口を開いた。


「……殿下。気がついておいでか分からないが、いくら仕込みがあり、脆い模擬刀相手といえど、ふた振りの剣を折り壊すというのは尋常でない力だ。………少なくとも、その細腕と薄い身体で発揮できるような力ではない」


ネッド団長が私の目を覗き込むように静かに見つめる。その強い目線は、私を見極めようとしているようにも、恐怖しているようにも見えた。次に落とされた囁きは、小さ過ぎて私とネッド団長にしか聞こえなかっただろう。


「貴方はいったい何なのですか?」



++++



あれから第三騎士団とともに王都を旅立ち、数日が過ぎた。ネッド団長は私の実力を認めてくれたらしく、護衛は必要最小限となり、女だとバレずに誤魔化すのもうまくいっている。私が王太子だからか、水浴びや着替えを一人離れて行っても文句を言われることはなく、その姿を見るのは不敬だろう、と周りの騎士たちが気を使ってくれてるおかげだ。ありがたい。


移動は相当な強行軍となっており、馬のための休憩をはさむ以外、陽が出ている間は駆け通しである。こんなに長時間馬に乗っていたことはないため、翌日には全身痛くなり、馬から降りた後はヘロヘロになってしまっている。情けない姿だが、周りの騎士も私ほどでなくとも疲労しているようなので、気にしないことにした。


というより、慣れない筋肉痛など気にしていられないほど、私には気にかかることがある。


「私が()()?、ではなくて、()()()()?、ねぇ……」


何者かと問われたら、マーレイン王国の現国王の庶子で、暫定王太子やってます、としか答えようがないのだが、ネッド団長が聞きたいのはそういうことではないだろう。私の剣の腕前が尋常でない理由……。しかし、剣に限らずとも、人より賢い者、器用な者、容姿の優れた者など、人より秀でている者たちはたくさんいるはずだ。その秀でている理由を聞く、というのはナンセンスじゃなかろうか。


まぁ、それでも、私も自分の剣才が、自分で言うのもなんだが、人並外れて優れすぎている、というのは薄々感じていた。今回ネッド団長に疑問を直接突き付けられたわけだが、その疑問も、そしておそらくその答えも、自分の中には前から既にあった。


「赤毛の王子の『預言』か……」


赤髪の王子は建国王マークの生まれ変わりである、という怪しさ満点な預言だ。王が熱心に寄進している武勇の神を祀る神殿からもたらされたため、てっきり、私という庶子の王子を王太子に迎える反発を減らし、自分の嫡子に挿げ替えるときにスムーズにいくように都合よく授けてもらった、と思っていたのだが、案外本当だったりするのだろうか。


そもそも建国王マークの話は、どこの国にもよくある建国神話のひとつなのだが、この話の中ではマークという王様は、武勇の神とその神に仕える巫女との間に生まれた半神半人と言われている。このマーク王は今のマーレイン王国よりも広い版図の王国をその武勇でもって一代で平らげ、剣神とあだ名されるほど強く、周りの国に喧嘩を売りまくる戦闘狂だったらしい。だが、平和と豊穣の女神ハルモニーを王妃様にもらってからは落ち着いたと伝わっている。その女神様との間に2人兄弟の王子が生まれ、兄は父親に似て強い戦好きに、弟は母親に似て平和を好む温厚な王子になったそうだ。2人の王子が長じた後に後継者争いが生じ、兄が最初優勢だったが、戦に飽いた国民や臣下たちの支持を失い、弟王子が勝利した。そのため、今のマーレイン王国は武勇の神よりも、平和と豊穣の女神への信仰のほうが盛んである。だからこそ、王の寵を失わないように神殿側が都合のいい預言を授けたと思っていたのだけれど。


それにしても、預言が本当だとしたら、何で私なんだろうか。私は王子ではなく王女だから対象外のはずなのに。それに、この預言が神官長の言う通り、信仰厚い王のために神が下された恩寵なのだとしたら、私が対象なのはますますおかしい。だって私という王女では国を継ぐことなどできないのだから。これは確かめてみる必要があるだろう。討伐が終わったら武勇の神を祀る神殿に行くことに決めた。



++++



「全団員、停止せよ! ここで野営を行う!」


私は物思いにふけりながら行軍に従っていた。王都を出発してから10日ほど経ったある日、いつもの野営よりもずっと早い正午過ぎに、ネッド団長が宣言した。しかも野営地はいつものような見晴らしのいい場所ではなく、小さな林の中だった。


「あと四半日ほど馬を進めれば目的地となる。先遣させた偵察によると、賊は今小さな山のふもとの村を占領し、ねぐらとしているようだ。諸君らはここで半日体を休め、夜に出立してもらう。夜明けとともに賊のねぐらを急襲せよ! 賊はなるべく捕縛したいが、抵抗するものに情けはかけるな!」


私が知らないうちに偵察とかしていたのか。物思いに耽りすぎて気が付かなかった。ちょっと気が抜けすぎている、危ない。


自分で自分に気合を入れなおしていると、団員たちに指示をし終えたネッド団長が近づいてきた。どうやら話があるみたいだ。こうしてしっかり話すのは、出発直前以来だ。


「殿下。明朝よりいよいよ山賊退治となる。命の取り合いとなり、俺たちもなるべく貴方を守るが、乱戦となるとそうも言ってられないだろう。覚悟はよろしいか」

「拝命したときにすでに覚悟は決めてたけど、今気合を入れ直してたところだ」

「ならばよろしいが、貴方は人の命を奪ったことがない。貴方の剣の腕前は疑うべくもないが、人を斬ったことのない剣だ。いざという時は役に立たないだろう。明日はくれぐれも俺の傍を離れぬよう、御身大事に、功にはやらぬよう、お願い申し上げる」

「うん、こちらこそ明日はよろしく頼む」


言われなくとも臆病者で自分が大事な私はネッド団長の傍を離れるつもりはないのだが、ネッド団長の顔は私を信用できないとでも言うように、疑念と心配と憂いに満ちていた。先ほどの厳しくハキハキと団員たちに指示していた時とは別人だ。この重たい空気を払拭したくて、わざと明るい口調で問いかけた。


「そういえば、今の問いかけに僕が覚悟できてないって答えたらどうするつもりなんだ?」

「もちろん、その場合連れて行くつもりはありません。縛ってでもこの野営地に置いていくつもりだ」


そうしてほしいのか、とでも言うように、ネッド団長の鋭い瞳が私を射抜く。私はすぐさま首を振ってから、野営の準備を手伝わないと、と大きく呟いてその場を去った。逃げたわけではないです。お手伝いは大切ですから。


そうしてその日の夜更け過ぎ、報告のあった山賊のねぐらへと、慎重に馬を進めた。さぁ、山賊とトロール退治の始まりだ。

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