後編
バレンタインデー当日。
彼との連絡を取らなくなって、数日。
今日は、平日だし、何事もなく過ぎ去って行くだろうな…。
私の周りは、ハートを飛ばしてたり、友チョコ・義理チョコを配る女の子達で溢れてる。
そんなイベントを遠巻きで傍観していた。
平和そのものですね。
何て、さも自分は関係ありませんよっと、素知らぬ顔をして見ていた。
「安部。お前からは?」
突然クラスの男子が声を掛けてきた。
「は?何で私が、あげなければいけないのよ!」
咎めるような声が出てしまった。
悪気があって言った訳じゃない。これは、只の八つ当たりでしかないことは、わかってるんだ。だけど、心はそうもいかないみたい。
「えっ、あっ、ごめん」
その男子は、驚いてタジろいだ。
「こっちこそゴメン。私、持って来て無いから…」
申し訳ない気持ちで一杯で、そう言葉にした。
「うん、じゃあ…」
彼は、そう言って去って行った。
何やってるんだろう。
自分で自分がイヤになる。
もういいや、今日の授業は終わってるし、帰ろ。
私は、鞄を掴むと教室を出た。
あちらこちらで、告白してるから、目のやり場に困るが、兎に角学校の外に出たかった。
ハァー、リア充だらけ…。
そう思いながら、帰路についた。
家の最寄り駅を出て歩く。
何処を見てもバレンタインの飾り付け。
この飾りも、今日までだよね。早いところは、ホワイトデーの飾りになってるし…。
何て思いながら、商店街を歩いて行った。
家の前に、誰か立ってる。まさか、不審者?
怖いけど、恐る恐る近付いてい行くと、彼だった。
何で、居るの。
今日は、バレンタインデーだよ。
あの彼女と一緒に過ごすんじゃないの?
足が止まり、彼を凝視していた。
彼が、こちらに気付き振り向いた。
視線が絡む。
イヤ…。
会いたくなんか無い。
そう思った瞬間、私は踵を返し、走り出していた。
「美憂!待って!!」
彼は、そう言って追ってきた。
「イヤだ、来ないで!!!」
私は、拒否し、全速力で走ってるのに彼の足は、予想以上に速くて、気付けば、腕を捕まれてた。
「イヤ。放して!」
私は、解放して欲しくて、捕まれてる腕をブンブンと振り回す。
…けど、なかなか外れず逆に力強くなるだけだった。
「なぁ、美憂。俺の話し…「聞きたくない!」」
私は、彼の言葉を遮るように言う。
こんな態度を取れば、お子様だと余計に思うだろう。
それでもいいって思った。
彼が、私の方を向いてないのわかってたから…。
「美憂!!」
彼の声が、何時もより、幾分か低い。
怒ってるのがわかる。
どうしたらいいのかわからない。
「聞きたくない!さっさと、あの人の所に行けばいいでしょ!!」
私は、子供のように叫んだ。
もう、どうだって良いんだ。
付き合ってる間、一度も口にしてくれなかった。
たった一言なのに、彼の口から聞けなかった。
それもあって、自分だけが彼を好きなんじゃないかって、思ってたから…。
潮時なのかもって、思ってたんだ。
私の言葉に彼のてが放れた。
私は、解放されて、再び全力で走り出した。
「ちょ…待てって、美憂」
彼も気付き追いかけてくる。
ハァ…ハァ…。
何で、追ってく来るのよ。
私なんか忘れて、彼女の所に行けばいいじゃんか…。
今まで我慢してきたものが、込み上げてきて頬を濡らす。
何で、今更、私なんかを追ってくるの…。
再度捕まり、向き合う。
イヤだ見て欲しくない。
私は、彼から顔を背ける。
「美憂…」
彼が、切な気な声で名前を呼ぶ。
「私なんか構ってないで、あの女の人の所に行けばいいじゃん!」
子供っぽい言い草。
ほんと、イヤになる。
「何の事?」
こんな時でも、惚けるんだ。私を子供だと思って、甘く見てるんだ。
「私より、彼女の方が総司には、お似合いだよ。お子様な私なんかといて、可愛い彼女の所に行けばいいじゃん。彼女、待ってると思うよ」
私は、涙を無理矢理止めて、笑顔を向けてそう言った。
いまいち上手く笑えてる気はしない。でも、今の私に出来るのって、これぐらいだから…。
「早く、行ってあげて…」
早く行って、涙が溢れる前に…。
好きな人には、泣き顔よりも笑顔の私を覚えてて欲しいから…。
「美憂?何を勘違いしてるんだ?彼女って、誰の事だ?」
真顔で聞いてくる彼。
まだ、しらばっくれるの?
私は、腹を決めた。
「先週の木曜日午後七時頃。商店街を可愛い女性を連れて歩いてる総司を見ました。とても楽しそうにして、腕を組んでたから、声もかけれなかった。その女性が、今の総司の彼女なんでしょ。私なんかどうでもいいじゃない。可愛い彼女の所に行きなよ、私の事なんて、ほっておいて!!」
私は、一気に言い切った。
自分の感情をさらけ出すように…。
可愛いげが無いとは思うけど、言わないとわからないなら、言うしかないじゃん。
私の言葉に彼は考え込む。
手は、放してもらえない。
「えっ…あぁー。うんとあの日…あの日はあいつの誕生日でプレゼントせがまれて…見てた…の」
彼の動揺が見てとれる。
あいつって、彼女でしょ。
「あれ、俺紹介してなかったっけ?一つ下の妹とだよ。てっきり、紹介してたもんだと思い込んでた」
苦笑交じりでそう言う、彼。
いも…うと?
はっ、そんなの信じられるわけ無いじゃない。
だって、あんなにも密着してたんだよ。無理に決まってる。
「美憂。…美憂は、信じてくれないのか?」
切な気な目で、私をジッと見てくる。
「信じられるわけ無い。あんなに寄り添ってたら、信じろって言う方が難しい」
親密な関係じゃなきゃ、あそこまで引っ付かないでしょ?それ出来るのって、彼女以外の何者でもないじゃない。
「美憂…。どうしたら、信じてくれるんだ?俺には、美憂だけだよ。今日、美憂の所に来たのも、美憂の様子が可笑しいと思ったから、直接会って、話しをしようと思ってたんだよ」
さっきと違って、不安げな表情。
なんで、なんでそんな顔をするの?
私が、悪い事したみたいじゃない。
「メールしても送信エラー。電話しても着信拒否、ラインもそう。こんな事一度も無かったから、焦った。俺が、何かしたんだろうかって…。ずっと考えてて気付けば、仕事にも身が入らずにミスばっかり。情けないよあ。美憂の行動一つで、自分が一喜一憂して…」
彼は、悲しげな顔でどうしたらいいのかわからないって顔をして、私を見る。
「美憂…。不安にさせて、ごめんな。もっと美憂との時間を作るから…。許して」
今にも泣き出しそうな顔で、彼は言う。そんな顔で見られたら認めざる終えないよ。
「私こそ、ごめんなさい。ちゃんと聞けばよかった」
私は、俯きながら言葉を紡いだ。
「美憂……」
彼は、私の名前を呼ぶと腕の中に閉じ込める。
「…好きだよ」
耳元で、聞こえるか聞こえないかの声で彼が囁く。
えっ…。
驚いて、顔をあげると彼が、至極真面目な顔で言った言葉。
それは、私が、ずっと欲しかった言葉で、まさか言われるなんて思ってもみなくて、あたふたしてしまう自分が居て…、なんだか落ち着かない。
「美憂、顔真っ赤」
彼がクスリと笑う。
もうやだ。私は彼の胸に自分の顔を押し付けた。
「ごめんな。ずっと言えなかったんだよ。恥ずかしいのと言い過ぎて安っぽくなるのがイヤで、ここぞって時だけに使おうって決めてたんだ。自己満足かもしれないが、美憂にとっては、不安でしかなかったよな」
彼は、私の頭を撫でながら言った。
私は、首を横に振った。
今、言ってくれた事で、私は安心してる。
「それよりも美憂。俺のチョコは?」
突然聞かれて。
「ごめんなさい、チョコ無いの」
私は、正直に言った。
「総司、去年は沢山もらってきたから、私からは無くても良いかな…なんて思って…」
一様、言い訳もつけてみた?
「去年の美憂を見て、今年は誰からも貰ってないんだ。美憂がくれないんなら、今年は無しになるんだけどね」
えっ…。
その言葉に驚きを隠しきれなかった私に。
「何てね。本当は、もらったよ。弟君経由で俺の手元にな」
悪戯っぽい笑みを見せる彼。
何で?
あの子ってば、食べなかったんだ。
「弟君、こんな事いってたぞ“俺じゃあ、これ食べれませんから”だって…。これ、見るからに俺用だろ」
えっ、あっ…。
驚きを隠せない。
「ありがとうな」
彼は、とろけそうな笑顔で言う。
うっ……。その笑顔、反則だよ。
「このまま夕飯食べに行くか?」
彼の優しい声に素直に頷いた。