三
「最近の戦争では、もはや人間の兵隊が矢面に立ってドンパチしないのは知ってるでしょ?」
「は、はあ」
「今の戦闘では飛行機も無人だし、陸では殆ど戦闘用ロボット同士が戦うようになってる。
アフリカとかの部族間の抗争なんかじゃ、相変わらず人間同士で殺しあってるけど、先進国では人間の兵士は最後の最後まで殆ど出番がない」
それで戦争の引き金が軽くなってしまい、小さな紛争が世界で日常茶飯事になってしまっているのは、和彦でもテレビやネットで見て知っている。
「現在の一般的なロボット兵は、四足歩行もしくはキャタピラ走行の、一般的にロボットと言われて想像するような形ではなく、自動操縦の小型戦車のような形をしている。だが国連のある研究機関で、戦闘用ロボットをかわいくしたら紛争が減るという仮定が生まれた」
「はあ?」
「もともとは昔、ある動物学者が、人間のかわりに動物を戦わせたら、人間はヒューマニティを発揮して、戦いが起こらないように努力するのではないか、つまり戦争が抑制されるのではないかと考えた。それを戦闘用ロボットに置き換えるわけだ」
「ほうほう」
和彦のそれは面接官に対する受け答えの態度ではない。だんだん話にのめりこんできて、かなりぞんざいになっている。
「戦闘用ロボットを、可愛い女の子の姿にするわけだ。アニメのキャラクターが立体になっているような。いたいけな女の子たちが戦うのは残酷で見てられないだろう。やめさせたいと思うだろう。そこに戦争に対する抑止力が発生すると考えたわけだ。この戦闘用女の子型ロボットの日本版を通称でドールという」
伊藤は裏に声をかけて茶を要求した。若い女性職員が二人分の茶を出し、下がっていった。
「それで、あまり知られていないのだが、あるとき、先進国のうち数カ国が実際にロボットを製作し、国連の仕切りのもと、互いに戦わせてみたんだよ」
「マジですか。どこが参加したんですか」
「当然、ロボットといえば日本だよな。それとロボット産業にかけては我々の最大のライバルである韓国、そしてアメリカ、イタリア、ドイツ、フランス、ロシアだった。だけどね、これは壮絶な大失敗に終わった」
「へぇ、なんでですか」
「まず美的感覚が全然違うんだよ。みんな、アニメの可愛いキャラクターが平面から抜け出てきたようなものを作ったはずなのに、センスが違うから、お互いの国のロボットが全く可愛くない。まあアニメについては韓国は日本の影響下にあったから、韓国のはマシだった。ドイツもねえ・・あいつらも好きなんだろうけど、日本の『カワイイ』を再現するのには技術が足らない。フランスも同じような感じだった」
「はは・・」
「アメリカは酷かったね。私が中学生の頃、女の子とデートできる有名な日本のゲームのアメリカ版みたいなものが作られたんだけど、そのゲーム中の女の子の造形が、化け物と言っても過言ではないような物だったんだよ。で、アメリカのロボットはそいつらが立体になって出てきたような出来だった。俺はもう三十数年前の悪夢が蘇ったね」
話に興がのっている伊藤の一人称が私から俺になっている。
「イタリアは芸術的すぎてわけがわからなかった。おまえら、アニメキャラ作れっていったのに、なんでモディリアーニの絵みたいなのを作ってきたんだと各国から突っ込まれてたな」
「はははは」
「それで、いざ模擬戦が行われたわけだが、日本のドールのボロ負けだった」
「え!? まさか」