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お嬢様の恋路をサポートしていたら、ライバル家のメイドと恋が始まりました  作者: 有明海


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プロローグ

 当主の聖域とも言えるこの書室へ入室を許されている執事は、広い屋敷の中でもごくわずか。そんなの、十五歳の悠斗は嫌でも緊張せざるを得ない。


 だが、告げられた言葉はその緊張感とは相反する驚く一言だった。


「星原悠斗、単刀直入に言う。日ノ内のメイドと協力して、娘達がイチャイチャできる環境を学園内に作ってくれ。そして、関係が外部に漏れないよう画策しろ」


「は、はぁ……?」


 敬愛する主人の口から飛び出した、あまりにも突飛な言葉に、悠斗は間の抜けた返事しかできなかった。


「恐れながら旦那様、ご説明をお願いします」


「いいよー、私が言うよー」


 声の主は幼い頃から仕えてきたお嬢様であり、月若家の一人娘――月若華凛。透き通るような金色の髪をハーフアップに纏め上げ、ネモフィラの花のような碧い瞳で悠斗をじっと捉えている。その唇には微かな笑みが浮かんでいた。


「は、はい……。なんですかお嬢様」


「大和が婿養子でうちに来るのきまったのー。私、高校卒業したら大和と結婚するからー!」


「え……え!?」


「驚きすぎだって。でも、幼馴染と好き同士の幼馴染で結婚なんて漫画みたいだよね。まさか私が大和と結婚できるなんてねぇ」


 衝撃の言葉をうまく脳内へと飲み込むことができず、悠斗は口を開けたまま呆然と立ち尽くした。「大和」というのは華凛の幼馴染である、日ノ内大和のことだろう。華凛の結婚が決まった。


(お嬢様が……あのお嬢様が……結婚。確かに大和様はとてもお似合いだ)


 悠斗は華凛の我儘で半ば強引に専属執事に任命されて以来、この屋敷で多くの時間を彼女と過ごしてきた。それもあり、悠斗にも幼馴染である大和に面識があった。日ノ内という高貴な生まれを鼻にかけることもなく、月若の使用人でしかない悠斗にまで気軽に話しかけてくれる。


 それを知っているからこそ、大和なら華凛のことを絶対に幸せにしてくれるという確信があった。改めて華凛の言葉に実感が湧いてくるが、とんでもないことにも気付く。


「よろしいのですか旦那様!? 月若と日ノ内の関係は……」


「……そうだ交わることのない太陽と月だ」


 世間において、月若と日ノ内の不仲はもはや暗黙の了解。競合するビジネスがあまりに多いため、両家が交わること自体がタブー。実際、先々代の頃は文字通り激しく火花を散らしていたようだが、現在両家の当主の人柄もあり、裏での関係性はすでに良好なものとなっている。


「我がグループや、日頃から懇意にしている取引先、協力企業の人々が、『実は日ノ内と仲直りしていて結婚します』という事実を、今すぐ素直に受け入れられると思うか?」


「それは……難しいですね」


 悠斗がそう言うと月若の当主である雄二は、険しい顔を崩し困ったように眉を下げた。


「だが、せっかく結婚が決まった好き合う二人の男女が、学園内でもずーっといがみ合うフリをする。デートもできない。娘に我慢をさせるのは父親として苦しいものがある。そこでだ、悠斗」


「誰にもバレないようお嬢様の恋愛のサポートをしろと、言うことですか?」


「そう言うことだ。理解が早くて助かる」


 悠斗は乾いた喉を鳴らした。あまりのスケールの大きさに眩暈を覚えながらも、執事ということを忘れ一つのことを口にした。


「……もしも、その間に世間にバレたら?」


 雄二は組んでいた手を解き、椅子の背もたれにゆっくりと体重を預けた。そして、天気予報でも告げるかのような淡々とした口調で、とんでもない言葉を口にする。


「関連企業の連鎖倒産、株価の下落、諸外国への影響。――日本経済は混乱するだろうな」


 あっけらかんとした顔で恐ろしい最悪な未来予想を語る父親の横で、当の本人である華凛は「パパ、大袈裟〜」と笑いながらスマホをいじっている。悠斗は本気で胃が痛くなってきた。


 雄二は再びデスクに身を乗り出し、悠斗をまっすぐに見据えた。


「お前たち現場の使用人が、学園内で秘密を守り通しつつ二人の愛を育ませる。その間私達、当主が大人と世間に話を通す。題して作戦名『ロミオとジュリエット』。どうだ?」


(嫌だ嫌だ! なんで日本経済が俺の行動にかかってんだよ! スケール大きすぎるって!)


 そんな悠斗の内心とは裏腹に選択肢など、最初から存在しなかった。なぜならどこまでいっても悠斗は月若の使用人なのだから。


「……し、承知いたしました。お嬢様と大和様の恋路、ひいては日本経済を、日ノ内と共にお守りいたします」


「期待している。今後の作戦情報は後で伝えるがこれだけはいっておく。日ノ内側のメイドの名前は――富士見瑠衣だ、お前と任務を共にするものだ」


「はっ。来月の入学式までには頭に叩き込みます」


 こうして、一人の執事の肩に、両家の恋愛事情と日本の未来がズシリと乗っかった。

 

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