表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

お金がない!

 最果ての砦、その中心に位置する戦略会議室。かつては数々の勝利を誓い合ったその場所には今、カビ臭い空気と死を待つような静寂だけが支配していた。


「……詰んだ。やはり、どう考えても詰みだ」


 若き女将軍シルヴィアは、机に両肘をつき、乱れた髪の間から深く頭を抱え込んだ。


「昨晩の奇襲こそ退けたが、我が軍の金庫は底をついた。兵士への給与も、武器の修繕費も、明日のパンさえ買えぬ。……いっそ潔くこの城を売却し、私は野に下るべきか。そうすれば、少なくとも兵たちの命だけは繋げるかもしれぬ……」


「閣下、早まらないでください!」


 傍らに立つ副官ゼクスが悲痛な声を上げる。だが、その声にも力はない。


「しかし……確かにこの辺境の砦まで、今すぐ大金を運んでくる商人はおりません。我々の誇りだけでは、腹は膨れないのです……」


 その時だった。

 重厚な扉が「ガラッ」と、およそこの場にそぐわない軽い音を立てて開いた。


「おはよー! ってか、何この空気? 朝からお葬式モード? テンション低すぎてお肌に悪いよ、ヴィーちゃん!」


 現れたのはユアだ。どこから調達したのか、兵舎の埃を被っていた古いカーテンを勝手にリメイクし、肩を大胆に露出した「オフショル・トップス」として着こなしている。


「ユア……貴公か。……見ての通りだ。この城には、もう一銭の金もない。名誉ある餓死を待つのみなのだ」


「え、金? 金なら稼げば良くね? てか、ここ見てなよ、ロケーション最高じゃん! 森は見渡せるし、お城感マジパネェし。これ、『映えスポット』として売れるっしょ!」


「ハエ……? 害虫を売れというのか? 貴公、ついに空腹で頭が……」



 数時間後。ユアの「ノリ」という名の猛烈な指揮のもと、殺風景だった砦の入り口は、前代未聞の変貌を遂げようとしていた。


「はい、そこ! ゼクス君、動かない! その槍、メニュー立てにするから貸して! あと、兵士の皆さんは上着脱いで! 腹筋バキバキに見せつけてこー!」


「は、はい!? 槍を看板に!? しかも裸!? 貴女、我ら帝国騎士を何だと思っている! 見世物になれと言うのか!?」


 困惑し、顔を真っ赤にするゼクスに、ユアは腰に手を当てて言い放つ。


「違うって、これは『コンセプト・カフェ』! 騎士様が直々に接客してスマイルとか、城下町の女子たち、絶対、秒で課金しにくるから!」


 ユアの勢いは止まらない。軍の配給食である「パサパサで石のようなパン」を細かく刻んで焼き直し、ベリーソースを添えてフレンチトースト風にアレンジ。さらに、飲めたものではない「酸っぱい安ワイン」に、湧き水と庭のハーブを放り込む。


「名付けて、『聖騎士の休息~秘密のカクテル~』。これ一杯で五百円?んー、千円くらいいけるっしょ!」


 シルヴィアは、自分の騎士たちが半裸で看板を持ち、磨き上げられた鎧がテーブル代わりにされている光景を、ただ呆然と見つめていた。


「……ゼクス。私は、夢を見ているのか? それとも、これが異世界の戦術なのか?」


「分かりません、閣下。……ですが、兵たちが『これなら腹が膨れるかも』と、少しだけ瞳に輝きを取り戻しているのが、私は何よりも恐ろしいのです……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ