バイブス最高潮!
夕日に染まる帝都のバルコニー。戦火の煤は洗い流され、街には凱旋を祝う喧騒と、どこか浮かれた花の香りが漂っていた。
「……ユア、貴公のおかげだ。私のような、ただ剣を振ることしかできぬ不器用な女が一人で戦っていたら……今頃は誰にも看取られず、無様に灰になっていただろう」
帝国最強と謳われながら、その実、自己評価が底辺を突き抜けている将軍シルヴィアは、朱色に染まる水平線を見つめて陰鬱に呟いた。その横で、キンキンに冷えた炭酸飲料を喉に流し込んでいたユアが、プハァと景気よく息を吐く。
「何言ってんの! ヴィーちゃんがウチを信じてくれたからっしょ。マジ、ウちらのコンビネーション、神がかってたし! ウちら、もう完全に『マブ』だね!」
「マブ……、そうだな。私のような陰気な女に、貴公のような光り輝く友ができるとは……これは、明日には天変地異でも起きる前触れか……?」
深いため息をつくシルヴィアに対し、ユアは笑って拳を突き出した。シルヴィアはおどおどしながらも、それに応えて拳を合わせる。ゴツゴツとした武人の拳と、派手なネイルが施された華奢な拳。異世界から来た陽キャのポジティブさが、将軍の重い心を少しだけ溶かした瞬間であった。
そこへ、ガチガチに緊張した面持ちの副官、ゼクスが現れた。抱えきれないほどの真っ赤なバラの花束を抱え、まるで処刑台に向かう囚人のような足取りである。
「あ、あの……シルヴィア将軍! 今回の戦いでの勇姿……改めて、その……お、お慕い……いや、尊敬! 猛烈に尊敬、しております……ッ!」
相変わらずのヘタレっぷりに、ユアがニヤリと口角を上げた。彼女はシルヴィアの背中をドン! と突き飛ばした。
「ゼクス君、まーだそんな『尊敬』とかテンプレなこと言ってんの? ヴィーちゃんもさ、さっきからゼクス君のことチラチラ見てるのバレバレなんだからね!」
「な、ななな……っ!? ユア、何を……不敬だぞ! 将軍である私を弄ぶとは……もうダメだ、私は今日をもって引退し、修道院に引きこもる……!!」
顔を真っ赤に茹で上げ、今にも泣き出しそうな顔で身を縮めるシルヴィア。しかし、ユアはひるむどころか、その細い肩をがっしりと抱き寄せた。
「はいはい、ネガティブ禁止ー! ぶっちゃけ二人とも両想いなんだし、もう結婚しちゃいなよ。ねえ、帝国公認っしょ? 国の英雄同士がくっつくとか、マジエモいし!」
「けっ、結婚!? 私のような平民出身の副官が、閣下と……!?」
「身分とかマジ古くない? 今時AIでももっとアップデートされてるよ。愛があれば余裕っしょ! はい、誓いのキス! 3、2、1……ゴー!!」
パニックに陥り「私なんて……私なんて……」とブツブツ呟きながら赤面するシルヴィアと、今にも卒倒しそうなゼクス。二人を散々煽り散らかしたユアは、「あとは若い衆でやりなよ」と言わんばかりにテラスを後にした。
そんな彼女を待っていたのは、戦いの中で彼女がちゃっかり逆ナンした、帝国の若き敏腕技師・レオであった。
彼はシルヴィアのような武骨さもなく、ゼクスのようなヘタレでもない。ユアの突飛な話を「へー、それ面白いね」と全肯定で聞き流し、彼女が感情的になっても「まあまあ、とりあえず美味しいもん食べに行こうか」と、猫をあやすように落ち着かせる。圧倒的な「心の余裕」と「包容力」の塊のような男だ。
「あ、レオ! 待たせすぎ?」
「いや、今来たところ。ゼクスさんたち、上手くいきそう?」
「ウチのアシストにかかれば余裕っしょ。それより、さっき言ってた新作スイーツのお店、マジで行くからね!」
「わかってるよ。予約も済ませてある」
現代のギャルが最も惹かれるのは、強引なリードでも卑屈な従順さでもない。自分の世界を尊重し、どんな時でも動じずに広い心で全てを包み込んでくれる「精神的マッチョな癒やし系」なのだ。
ユアはレオの腕にぎゅっと抱きつくと、まだテラスでオドオドしている騎士二人を振り返り、Vサインを残して夜の街へと消えていった。




