秘剣・アゲアゲ斬り
呪いの源流――それは、禍々しい漆黒の光を放つ「絶望の魔玉」だった。シルヴィアは単身その核へと近づくが、斬っても斬っても溢れ出す負のエネルギーが彼女の体力を削っていく。
「くっ……! やはり、私の『ネガティブ』だけでは、この底なしの闇を相殺しきれんか……!」
膝が震える。視界が再び灰色に染まりかけた、その時だった。
背後から、大気を震わせる爆音が響いた。それは、この異世界には存在しないはずの、重低音の効いたEDM。
「お待たせー! ヴィーちゃん! ウチ、完全復活!!」
振り返れば、そこにはボロボロになった服をあえて「ダメージジーンズ風」に着こなし、フルメイクをバッチリ直したユアが立っていた。手には魔法で拡張された拡声器。
「絶望とかマジ時代遅れ! 今のトレンドは『希望』一択っしょ! 湿っぽい顔してると、運気逃げるよ!」
ユアが空中に魔法のスマホをかざし、国中へと繋がる「広域ライブ配信」を開始する。
「みんな! 今戦ってるウチらの将軍、マジで尊くない!? 画面の前のキミ、今すぐヴィーちゃんに『いいね』送って! 全員でバイブス注入!!」
その瞬間、世界中の空に「いいね」を象った光の粒子が溢れ出した。
家族を守りたいと願う兵士、平和を祈る民衆、そしてユア。彼らのポジティブな感情が、デジタルな光の奔流となってシルヴィアの剣へと収束していく。
銀色の剣身が、七色のネオンカラーに輝き始めた。
「……これが、皆の……貴公の想いか。重いな、だが……驚くほどに温かい」
シルヴィアは口角を上げ、不敵に笑った。かつて死に場所を探していた女将軍の瞳には、今、明確な「生」の輝きが宿っている。
「受けてみよ! ユアから教わった、最高に『アゲ』な一撃を! 秘剣・アゲアゲ斬りぃぃぃ!!」
シルヴィアが跳躍する。七色の光を纏った一閃が、絶望の魔玉を真っ向から両断した。
刹那、耳を劈くような轟音と共に闇が霧散し、衝撃波が灰色の霧を吹き飛ばした。
「あ……。空が、青い……」
誰かが呟いた。
灰色に沈んでいた砦に、鮮やかな石壁の色が、木々の緑が、そして人々の頬の赤みが戻っていく。呪いの束縛から解き放たれた兵士たちが、互いの無事を確かめ合い、歓声を上げた。
シルヴィアは剣を鞘に収めると、肩で息をしながらユアの方を向いた。
「ユア……。今の技、名前が少々悪かったか。叫ぶのが恥ずかしかった……」
「えー! カッコよかったよ? ヴィーちゃん、マジで『映え』の極み! ウチ、感動して動画保存しちゃった!」
ユアが駆け寄り、シルヴィアの首に抱きつく。シルヴィアは困ったように、けれど隠しきれない慈しみを込めて、その背中に手を添えた。
「……ふん。ならば、良しとしよう。さあ、帰るぞ。勝利の後は……貴公の言う『打ち上げ』とやらが必要なのだろう?」
「わかってるじゃん! 最高のパーティーにしようね!」
晴れ渡った空の下、二人の「最強コンビ」は、勝利のバイブスを分かち合いながら歩き出すのだった。




