表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キメラ心中  作者: 凜古風
5/5

05人失格

 ファンタジー小説のヒーローや、聖母なら、彼等一人を受け入れたのかもしれない。

 でも、この世界に、そんな奇跡や幸せは存在しなかった。

 行く当てもなく、左半身の父が遺したスーパーカブは走り続けていた。

 彼等一人、左半身が男で、右半身が女の異形な顔に驚き、自動車のハンドルを切る運転手のせいで、対向車が乱れた。

 どうせ、ドライブレコーダーの映像が、ネット上の動画サイトに流れるんだろう。わかってる。

 

 ガソリンを入れるため、セルフ式のガソリンスタンドに立ち寄る。

 少ない客も、彼等一人の異形の姿を見ると、そそくさと立ち去った。


「こっちは、人間種しかいないのね。こうなるよね」

「君がいた異世界だと、受け入れられたかな」

「うん、多分。ゴブリンもオークも獣人もいるから」

「そっか。コッチに来たのは、悲惨だったね。人として扱われないもの」

「まぁ、私を供物にした儀式は、それなりに成功したから、生きるのは別にもういいの」

「生きて何かを成し遂げたんだ。うらやましいね」


 そんな会話を、一人でしながらガソリンを入れ終え、再びスーパーカブは走り出す。

 もうすぐ雨だろうか、重く湿った空気が彼等一人の肌をぬるく撫でていた。


「あのさ、私達が一つになった、あの防火水槽があるじゃない。あそこに入りたい」

 言葉だけでなく、右脳から左脳に感情が伝わっている。

「うん、あそこは悪くない。もともと、俺も沈む予定だったし」

 彼等一人は、死を共鳴し、破滅を誓い合った。


「そうだな、どうせなら、やってみよう」

 左半身は、スーパーカブを走らせる。山麓の駐輪場を通り過ぎて、未舗装の山道をも走る走る。

「ははは、昨日も、こうすればよかったな」

 カブの車体が傷んだり、山道斜面から転がり落ちるのを恐れて、昨日まで人間だった彼は、歩くという選択をした。

 しかし、今日は、山の斜面をカブで駆け上がる。


「馬みたいだけど、面白い乗り物ね」

「そうだろ。いなくなった父親が唯一俺に残してったんだ」

「そう」


 カブは走る。もうすぐ、先程の誓いは果たされる。

 太宰治の『人間失格』の一節。

「……この水の底にて、ふたり、永遠となる」

  違うか、

「……この水の底にて、化け物、永眠となる」

  かな?

 そんなことを彼は考えていると、山奥の防火水槽の手前に到着する。


「じゃぁ、飛び込むよ」

「うん、わかった」


 彼等一人は、スーパーカブと自身の体をロープで縛って固定し、スロットルを開け、防火水槽にめがけて加速していく。防火水槽の淵にある段差がジャンプ台の役目を果たし、彼等一人とスーパーカブは空を舞った。


   ドボンッ


 深さのある防火水槽の中、鉄の重さを持つスーパーガブに引っ張られ、彼等一人は浮き上がることなく沈んて行く。


 ……防火水槽の水は、呼吸を奪うものではない。

 それは記憶を喰らい、魂を引きずり込む、意志を持った存在だった。

 目を開けると、水の中には、何十人、何百人もの男女が漂っていた。

 彼らは皆、かつて「心中」した者たちだった。

 誰もが死を望みながら、しかし死ねず、ここに囚われている。


 ……この水は、バケモノを受け入れない。

 ……水は、心中者を愛していたからだ。


 人失格の彼等一人は、水面の底で心中者となることはできなかった。

 だから彼等は、この水底から追放されなければならない。


 日が暮れてしばらくすると、今夜もまた水面月ミナモヅキが美しい。

世の中から追放されて、水中に飛び込んで、自殺をしようとしても、

バケモノ故にそれすら許されないという。

怖いですね、恐ろしいですね、ホラーですね。

世の中には、とんでもない防火水槽があるんですね。


追放された、彼等一人が、どこに行ったか?

そのうちココに出てくるかもしれない。

中盤以降から活躍する予定(2025年7月現在)

「異世界半身転移~女勇者の右半分になっちまったよ~」

   ↑よろしくお願いします↑


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>「異世界半身転移~女勇者の右半分になっちまったよ~」↑よろしくお願いします↑ え?ここで終わり?っていうか読む順番間違えたようです……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ