04事務所
市役所でも職安でも、親身になってくれるところもあれば、酷いところもありますね。
彼等一人、バケモノの逃避行がはじまる。
スーパーカブで走りながら、彼等一人は、右脳と左脳で会話をしていた。
「ねぇ、私達これからどうする?死ぬ?」
「それは、いつでもできるからさ。ちょっと試したいことあるんだ」
「ふーん。まぁいいや。でも、体で実験されたりするのは嫌だよ。綺麗なまま死にたい」
「それは、大丈夫だよ。向かうのは『LGBTQ性的マイノリティ相談オフィス』っていう事務所だから」
そうして、スマートホンを取り出し場所を確認した。
「コッチだ。けっこう近い」
地図を行動準に文字列にして、左脳で覚えて走る。
駐輪場に、スーパーカブを停めると、ヘルメットを収納しようとしてしまう自分自身に彼等は笑っていた。習慣って怖い。
LGBTQ性的マイノリティ相談オフィスでは、使い古した昭和の建造物の中に、やる気の無さそうな人達が、並んで座っている。研修不足でSOGI(性的指向・性自認)に関する知識が浅く、知らず知らずのうちに「異性愛前提」の対応をしてしまったり、相手を戸惑わせてしまうというのも、先日ニュースでながれていた。
相談窓口に行くことで、結果的にカミングアウトにつながってしまうや、プライバシーが守られていると理解していても不安といった状況から、利用への心理的躊躇があるなどと言われているが、それは人間での話なのだろう。彼等一人の場合は、どうなるのかわからない。
「すいません。性的マイノリティ相談相談をしたいのですが」
「……はい?え?いや、いいですよ。専門職員を連れてきます」
さすがに、そういった相談には慣れているのだろう。右半分が女で左半分が男の顔でもバケモノ呼ばわりされることはなかった。
しばらくして、ニューハーフであろう人がやってきて、相談室に導き入れてくれた。
「本日の御相談は。ああ、随分と奇抜な格好をされていますね」
「俺の体なんですけど。左半分が男で、右半分が女なんです。ほら、胸も右だけあるでしょ。住民票上の戸籍は男なんですけど、もう、股間のモノもなくて、女性器がついていましてね……」
ニューハーフに見える職員は苛立ちを募らせてこう言った。
「私達は、合成生物でもないのに、キメラと言われて悩んでいるんだ。本物のキメラに来られても困る。バケモノはお引き取りください」
彼等一人は、残念そうに答えた。
「そうですか……そうですね。失礼しました」
「二度と来るな」
彼等一人は、静かに考える。
「バケモノの俺達を誰も愛してくれることは無いんだろう。
俺達一人は、何か悪い事をしたんだろうか。
違うか、バケモノになる前から、幸せなんてなかったんだ。」
それがキメラの心中だった。
そうして、再び、スーパーカブは走り出す。
走ってる最中に彼等一人は、ヘルメット無しで警察に止められそうになったが、バケモノに驚いて、追いかけられることもなかった。
これくらいの特権を彼等一人に与えたとしても、いいだろう。
戸籍上の性別を変える為に必要な手続き
1.2人以上の医師から性同一性障害と診断されている
2.18歳以上である
3.現に婚姻をしていない
4.現に未成年の子がいない
5.他の性別の性器の部分に近似する外観を備えている
うーん、5.の条件がねぇ。
男から女は何とかなるけど、女から男はどうするんだろ。
そうそう、キメラはキマイラとも言いますね。




