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キメラ心中  作者: 凜古風
3/5

03殺意母

こんな言葉はありませんけれども、殺意母さついぼって、私なりに読んでいます。

 彼等一人は、風呂から出て全身を拭いていた時、玄関の扉が開いた。

「ああ、母親が夜勤から帰ってきたんだ」

 左脳の男が、右脳の女に伝える。


「帰ったの?お風呂」

「そうだよ、もう出た」


 左半身の母親は、ためらいもなく風呂隣の脱衣場の扉を開けた。

 そして、驚愕する。


「ば、ば、バケモノー。コッチくるな」

 母親は、一目散に動き、台所から包丁をとる。

「違う、オフクロ、俺だよ。女になった上、左半身だけど」

 弁明は聞かれることなく、振り回された包丁を必死にかわす。その時、右半身の女勇者の体が動き、母親に手刀を入れて気絶させた。


「そりゃ、そうよ……ね」

「オフクロ、毒親だしなぁ。最近も、出来の悪い俺を、ずっと無視していたし」

「毒親?」

「ヒステリー起こすうえに自己中なんだ。だから、親父も出て行った。カブを残して」

「そう。母親にも色々いるのね」

 右脳のイメージが左脳に伝わって来る。魔人討伐のために国家は子供を有償で引き取っていた。左脳の親は『勇者になるのよ』という言葉と共に、彼女を国家の組織に売ったようなものだった。


 気絶している母親をリビングで寝かし、彼等一人は書置きをする。


『今まで、ありがとうございました。バケモノになったので、家を出ます』


 左半身の部屋に入り、思い出を全て処分した。手持ちの現金が心もとないから、自室にあった全財産を財布に入れておく。そうして、出発の準備は整った。


「なんでだろう。死のうと思って山奥に入った時よりも、スッキリしてる」

「そういうもんだよ。『つらいから死のう』じゃなくて、『勇者になって死ね』の方が楽だもの」

「はっはっは、それだと、勇者ってバケモノじゃないか」

「私のいた世界も、そうなっているかもね。魔人を倒すバケモノじゃないと困るけど」


 彼等一人は、右脳と左脳で情報交換をした。

 彼はもういない、彼女ももういない、バケモノの彼等一人が、玄関を出てスーパーカブに跨る。


「荷物になるし、ヘルメットはもういいかな」

 いつもヘルメットを入れているリヤボックスに、荷物を詰める。


 法律が適用されるのは人間なのだ。

 バケモノである彼等一人には適用されないだろう。

 右半分は女の顔、左半分は男の顔。

 ヘルメットも被ることなく、姿を晒しながら、彼等一人は走りだした。

 それは、ホラー映画のワンシーンとも言えなくはなかった。


 バケモノが、スーパーカブで疾走する。

 怖いですね、恐ろしいですね、ホラーですね。

 でも、これはバケモノ側の哀しい物語。


 そうそう、風呂上りにバイクで走るのは気持ちいいですね。

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