雷神
「はぁはぁはぁ……」
「ハルちゃん、頑張れ! あとちょっと!」
俺の頭上から、ウルエさんが声援を送ってくれる。
俺達は雲間から垂れる縄梯子を登り、空へと上がってきていた……上級ステージ『春の空』だ。
しかし……重い。
欲張って、武器を背負い過ぎたか?
元特殊部隊員の男が逆襲する某映画の主人公みたいな格好。
足場もユラユラ不安定、この梯子……紐状のグミだぞ。
そこそこ弾力あるんだよな……これ、使えるかな?
「ウルエさん、ゴーグル付けるのちょっと待って!」
「はいは〜〜い!」
彼女にはしばしお待ち頂き、対策準備。
用意は周到に行きたい。
だって……怖いじゃん‼︎ 痛いのも嫌だよ、俺‼︎
深呼吸してから、三度目のゴーグル装着。
ははっ……緊張で手が震えてやがる。
カシャンとマスクが飛び出し……そして始まる。
『汝、敵ヲ殲滅セヨ。』
変わり映えのしないその音声を聞き、つーーっと汗がこめかみを伝う。
さっきの南国コテージで、この空専用、ふかふかな雲歩きムートンブーツに履き替えたが……ふわふわしてて、めっちゃ歩きづらい!
画面の数字は11。
今回はゴーグルの通信を繋いだまま、彼女の声がザザッと響いてくる。
「攻撃を避け、撃ち取る。警告音は常に鳴っちゃってうるさいから、切っておくよ? ……シンプルだけど難しいのが、このステージ……来るよ、ハルちゃん!」
ドーーンッ‼︎
轟音と共に一筋の稲妻が天から雲を突き破り落ちる!
間一髪、飛び退いて回避!
俺達が丁度立っていた位置の綿飴雲には、ぽっかりと穴が開いた。
………………
おいおいおい、アレ喰らったら一発でライフポイント消滅だろ⁉︎
ハートが10個あっても足りないぞ‼︎
「アレに打たれると痺れて動けなくなっちゃうの……そこに連続で攻撃喰らって、いつもゲームオーバー」
「えっ……ウルエさん、アレ経験済みなの……マジで⁉︎」
「けっこう痛いんだよ〜〜。超ビリビリするの」
えぇ、そうでしょうね‼︎ 何万ボルトよ⁉︎
前方に目を遣る。
今吹き飛んだ雲から生まれた砂糖の結晶と水蒸気で靄る先に……中級忍者とは違い、隠れることなく構える集団が!
ふわふわヘアーな可愛いカミナリ様達の……太鼓部隊⁉︎
虎柄のマーチングバンド風な衣装を着た……小太鼓5体、中太鼓3体、大太鼓2体……そして動かざること大物アーティストのごとく、ドラムセットを置いて鎮座するカミナリ様が中央に1体!
……イナズマ11ってか⁉︎
「中央以外は動き回るから、先に確実に撃ち取って行くよ!」
「はいっ!」
ダダダダダダダダダンダダン‼︎
ノリノリでドラムセットを叩くカミナリ様!
それに合わせて奏でるリズム部隊!
そして……太鼓に呼応して降り注ぐ落雷‼︎
「うおっ、超上手ぇ! 超絶技巧じゃん‼︎」
えっ? 腕は二本だけだよな⁉︎
早すぎて千手観音のよう……顔はまるで阿修羅だな。
「ちょっとハルちゃん、感心してる場合じゃないよ! 避けて! 小太鼓から狙い撃つよ‼︎」
バンッ! バンッ! バンッ!
ウルエさんのパチパチキャンディ弾が命中し、小太鼓3体が一瞬で弾け消える!
かっこいい‼︎ よっしゃ、こっちもやってやる‼︎
ダダダダダッ‼︎
俺のマシンガンで小太鼓を狙う……が、速いっ⁉︎ 捉えられない‼︎ ヤベッ‼︎
焦りで、照準がブレる‼︎
ターーンッ‼︎
ガラガラドーーンッ‼︎
捉え損ねた小太鼓が叩き鳴らした雷が俺を直撃‼︎
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」
「ハルちゃーーん‼︎」
俺の悲鳴が空に響き渡った‼︎




