次のステージ
「ソラさんは……ウルエさんがかき氷の中に閉じ込めたの?」
「……そうだよ」
こちらを振り返らずに、彼女は俺に背を向けたまま答える。
今……俺に見られたくない顔してんでしょ?
「ねえ……そしたら逆に、ウルエさんが氷から出してあげること出来ないんですか? この世界の創造主でしょ?」
素朴な疑問を口にする。
「私もそう思ってたんだけど……最初に決めた異世界のルールの縛りが思ったより強くて、ね……」
彼女はふうっと溜息を吐きながら、腰に手を当てた姿勢で項垂れた。
当事者……責任を感じているのだろう。
じゃあ何で彼女を凍らせた?
必死に助けようとしてるくせに……いや、助けたいから、あえて凍らせた?
「最終ステージでゲームオーバーになっちゃったら……さ、上級ステージに戻されてやり直しなのよ……でも、一人じゃどうしてもクリア出来なくって……何度も何度も挑んで挑んで……でも、どうにもならなくって……海に行けなくて……ソラはずっとあの中で……」
そう話しながら、ぼたぼたと大粒な涙が足元へ落ちていく。
最初に会った時よりだいぶ幼い印象に感じる。
享年19歳、俺と同い年。
「ウルエさん……連絡鏡の場所は知ってるの?」
涙を手の甲で拭いながら、彼女は頷き、そっと右人差し指を天へと向ける。
「雲の上……」
「無駄だよ……もう割れているんだ……」
「っ‼︎」
『げっ、マジかよ⁉︎』って声に出しちまいそうだったが、ギリギリ、ごくんと飲み込んだ。
……人感センサー付いてるんだから、万一故障時の対応もしっかりして欲しいよ、社長。
異世界緊急サービス。
「最終ステージをクリアしたら出てくる鏡、それがあっち側の世界に戻れる唯一のモノ」
「最終ステージ……」
さっきの忍者で中級だろ?
おいおい、勝てる気がまるで湧いてこないんだが……。
っつうか、コンパクトといい、連絡鏡といい、どちらの鏡も割れたのは事故か、故意か?
彼女の表情を見るに……後者、かな?
そして割ったのは……。
ふいっと氷の中の彼女を見遣る。
今のウルエさんの話……『ハルちゃんが寝てる隙に、二人を返そうと……』って……俺の鏡が手に入っても、異世界の縛りがある以上、現状でソラさんを氷の中から解放できないはず。
もしそれが出来るとするなら……この異世界を終わらせること……つまりそれが意味することは……ウルエさんの消滅。
「……もう、嘘は無いですか?」
「ないよ」
真っ直ぐに俺を見つめ返し、澄んだ声で彼女はそう言った。
まだ、俺が知っといた方がいいことはゴロゴロありそうだけど……また、後にしよう。
「俺……じゃなくって私は、会社員さ……ソラさんを連れて現実に戻りたいです。だから……よろしくお願いします!」
「私も二人を元の世界に返したいから、よろしくお願いします!」
互いに礼をして、俺達は硬い握手を交わした。
◇◇◇◇
ぎぃぃぃっ……
上級ステージ『春の空』に行く前に、砂浜に建っていた装備小屋へと入っていく。
南国のコテージ風な外観。
軋んだ音を立てるドアはココアサブレ、小屋の外壁はシガレットクッキーで組まれているようだ。
「次のステージは雲の上で戦うの」
部屋の真ん中に置かれた大きめな箱の中をガチャガチャ漁りながら、ウルエさんは口も動かす。
クラッカー製の箱かな?
「はい! 今度はこれ使って!」
ひゅっ!
ウルエさんが武器を放り投げてくれる。
が、タイミングがズレて、俺は受け取り損ねた。
ばしっ!
「痛っ‼︎」
運悪く、初級ステージで喰らった打撲部分に当たり、思わず声が出た。
「そういえば怪我の具合、確認してなかったね。見せてごらん?」
「えっ⁉︎ だ、大丈夫だから!」
俺のお断りよりも、服が捲られたのが先。
びろん!
「脇腹ちょっと赤くなってるね。冷やそっか」
「あ、あぁ……ありがとうございます」
あれ? てっきり『男ってバレた!』と思ったのに……痩せ型貧乳女子だと思われたか……?
「ん? なんか身体熱くない? 熱ある?」
「だ、だ、だ、大丈夫です! 問題ないです!」
心配したウルエさんにペタペタ素肌を触られたことで、無意識に俺の体温急上昇!
ドキドキしてる俺の身体、色々静まりたまえ〜〜。




