プロデュース
俺の問いに対し、彼女が言葉を選びながら静かに答えてくれる。
「創造主……創造……か……最初は、別に自分から望んでこの異世界を創ったわけじゃないんだけど……ね」
視線がふっと遠くに向けられた拍子で、彼女のサブマシンガンが胸元のスリングで揺られる。
「ある時、ふっと……目を開けたら……何もない真っ白な空間に一人で立っていてね……。不思議なもんなんだけど……瞬間『あ、私、死んだんだ』ってなんとなく分かっちゃったんだ……」
薄ぼんやりとした彼女の目には、今何が見えているのだろうか。
……俺はまだ、死後の世界に行ったことがないからよく分からないが……本能的に『死』を理解できるよう、人間の頭は最終的にそこまでプログラミングされているのかもしれない。
「嘆きも悲しみもなく……ただ、ぼーーっとしていて……どれくらい時間が経った頃だったかな? 私の空間に突然あの人がやってきて、言ったの。『この空間を自由設計してみませんか?』って……」
………………
……あの人って……たぶん……社長だよな?
彼が凄く言いそうな台詞。
ん? ちょっと待ってくれ……異世界ってプロデュースできるもんなんですか?
あの不動産屋、いろいろ手広すぎるだろ?
少しずつ、歩き進みながら俺達は話を続ける。
森の外れはまだここからは見えない。
似たような木々ばかりの景色の中、曲がりくねった道が伸びている。
「何で俺……じゃなくって、私を狙ったんです? 目的は……魂? 命?」
「あぁ、ライフポイントがゼロになっても別に死なないから、安心していいよ? この世界は私達が一緒になって遊べるように創ったものだから……」
えっ? そうなの? 安心設計⁉︎
俺の魂を奪って、ウルエさんが身体を乗っ取りコンティニュー⁉︎
ってことも考えてたけど、どうやら違うみたい……。
「ただ、ライフポイントがゼロになると、だいたい一時間は意識消失しちゃうから……ハルちゃんが寝てる隙に、二人まとめて元の世界に返そうと思ったんだ……君の鏡を使って、ね」
俺と会社員のお姉さんの二人をそっと現実に戻すつもりだったのか⁉︎
……彼女が嘘をついているようには見えない。
別に、正直に言ってくれても良かったのに……何か他に事情があるのか?
「ごめんね、ハルちゃん。騙すようなことして……でも、どうしても……私はあの子を助けたいんだ」
「あの子……会社員のお姉さんのこと……ですよね?」
こくりとウルエさんが静かに頷く。
二人が、この世界で面識がある気は何となくしていた。
『一人だといつも上級でゲームオーバー』ってウルエさんが前に言っていたから……。
つまり、『二人ならクリア出来た!』……つまり、その二人は必然的にウルエさんと会社員のお姉さんってことになる。
「『何がやりたいの?』って聞いたらさ……『一緒にサバゲーがしたい!』って、ソラが言うから、さ……」
ソラさん……ってのが会社員のお姉さんの名前か。
っつうかサバゲー……サバイバルゲーム⁉︎
シューティングゲームじゃなかったんだ。
……素人の俺には違いが分からん。
三次元か二次元かの違いってことかな?
「ソラさんは今、どこに?」
「……あっ、もうすぐ……森の外に出るよ」
俺の質問には答えず、彼女が言う。
それとほぼ同時に、視界が急に開けた。
桃色だった空はどこで切り替わったのか、いま頭上には淡い青空と浮かぶ霞雲……これ何で出来てるんだ?
捻らずに考えれば綿飴か?
上級ステージ『春の空』は、これか。
そして、視線を下ろした目の前に広がるきび砂糖の砂浜、細波が寄せて来ない海……完全にキンキンに凍っている。
そして、どんと聳えるのは、高さ5mくらいのかき氷の山⁉︎
イチゴにメロンにブルーハワイ!?
あっ、宇治金時もあるよ!
そのかき氷山の一つに……彼女はいた。
……氷漬けにされた人間だ。
「最終ステージ『冬の海』……彼女を死なせない為に……私には……こうするしかできなかったんだ……」
そう呟き、彼女は氷の中で目を閉じるソラさんをじっと見つめていた。




