ファイナル魔王城
魔王城の前に立ち、ふぅぅっと身体中の酸素を入れ替えるように、奥底からの溜息を吐く。
流石に……身体が緊張している。
扉を見るが、ここには『がいど』も門番も立っていない。
禍々しい重厚な観音開きの扉。
不用意に触るのは怖いので、『どうぐ すこっぷ』を選択し、コンコン叩いたり、ぐいーーっと押してみたりする……が、びくともしない。
「鍵がいるのかな?」
コマンドを開くと『どうぐ かぎ』の中で、選択可能な光っているのが一つ。
選び、取り出す。
手には、雪兎その①から貰った鍵が現れる。
ガチャッ……
ぎぃぃぃぃっ……
重い扉がゆっくりと開き、薄暗い城の中へ俺達は足を踏み入れる。
……静か過ぎて、不気味だ。
中を見回すと、さらに違和感を感じる。
ピカピカの床、無機質な内装。
魔王城というよりも神殿の様な造り?
いや、もっと最適な例えがありそう……何だ?
思い出せない。
ここはこの世界で一番、綾瀬(仮)さんの意識が反映されている場所……になるのか?
警戒しつつ、先へと歩みを進める。
入り口から少し進むと、通路の両側に魔物の彫刻が等間隔で並ぶ。
「あれは……頭が三つの犬……ケルベロスか? いち、にぃ、さん……何体置いてんだよ⁉︎」
やべぇな、彫刻x3 の攻撃力じゃねぇか。
俺だったら、この配置で無意味な彫像の設置はしない。
……セキュリティー、ですよね?
ぎぎぎぎぎぎぎぎ……
俺達の侵入を歓迎するかの様に、魔物の像はゆっくり首を動かす。
「来るぞ‼︎」
瞬間、像の口から三方向への光線が放たれる‼︎
「ユルファ、フィング! 防御しろーー‼︎」
双子は『盾』の魔法陣を展開!
「JJは出来るだけケルベロスの頭を凍らせろ‼︎」
「俺の本当の実力を見るがいい‼︎」
賢者って肩書きだけど、ステータス見たら結局、普通の魔法使いだったので、普通に頼む。
「チャル! 凍った頭をぶっ壊して進むぞ‼︎」
「オッケー、ハル様!」
武闘家子猫娘は確実に破壊活動を進める。
俺はチャルの保護と援護に注力!
がしゃーーーーんっ‼︎
この城は完全に冒険者御一行様を仕留めにかかってくる。
……そう簡単には通しちゃくれないか。
ダダダダダダダダッ!
全速力で駆け抜けながら、ケルベロス像を片っ端から破壊して行く!
左右の彫像からは絶え間なく、攻撃が繰り出される!
こっちの世界に来て、最初で最大のピンチ到来‼︎
マジ、やっべぇぇぇ‼︎
「うわぁ!」
「げっ‼︎」
ピカピカな壁・床・天井に、放たれた光線が反射して、即跳ね返る!
予想外な角度からもどんどん飛んでくる‼︎
「ひっ! あぶねっ!」
JJの足元をヒュンと光線がかすめる!
双子の『盾』だけでは防ぎきれず、流れ魔法が飛散‼︎
「きゃあぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「チャル⁉︎」
ケルベロスの半凍りの口から近距離光線、チャルの顔面あと数cm!
「だぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
俺の『粘着』魔法陣でチャルをびよょーーんと手元に引き戻す!
……やっぱ、意外と使えるなコレ。
「行けぇぇぇ! 一気に駆け抜けろぉぉぉぉ‼︎」
全速力で全員切り抜けるぞ‼︎
ダダダダダダダダダッ!
ようやく廊下の端が見えてくる……ちっ、また扉か!?
走りながら、コマンドを開く!
揺れる画面から『どうぐ かぎ』を選択、ぶれる、くそっ!
手には、雪兎②の鍵!
ガチャリ!
開くと同時に全員で滑り込み、速攻、扉を閉める!
ばたーーん‼︎
「ぜぇぜぇぜぇ……」
よっしゃ、ギリギリセーフ……じゃないな、JJの後頭部と尻が扉に挟まっちまった、すまん、犯人は俺だ。
削れた部分を修復しまーーす。
「この部屋は……?」
周りを見渡す……がらんとした空間だ。
敵らしき存在はなし。
……というか、本当に何もない部屋。
たった一つを除いて……。
右の壁面には天井まで達する大きな鏡。
鏡の間……とでも呼ぶのか?
「鏡よ鏡ってか……?」
俺がぼそっと呟いた瞬間、鏡から放たれた閃光が部屋に広がる!
「なっ⁉︎ 攻撃? 魔物か⁇」
鏡の魔物⁉︎
やべっ! 対処しようがねぇ‼︎
「……っ!」
そして突然、鏡が喋り始めたのだった。




