鏡よ鏡……
輝く鏡が、愛らしい声で喋り出す。
「はい、もしもし。こちら賃貸不動産会社『ワープルーム』、箱庭がお受け致します」
………………
は?
鏡の中に映るのは……お会いしたことあります、麗しい美少女メイドさん。
大画面ビジョン越しにアイドルを見ている感覚。
あぁ、やっぱり可愛い!
……じゃなくって……
………………
はぁ⁇⁇
どうなってんの、これ⁇⁇
ここ綾瀬(仮)さんの異世界の中でしょ⁉︎⁉︎
「えっと……これはいったい……?」
「あら? ナギスギさんじゃないですか! ちょっと遍〜〜!」
事務員ちゃんが社長を呼び捨て。
「ん? おぉ、ここまで来たのかやるじゃねぇか。そういえば……お前の名字あんま他にいねぇよな」
相変わらずニヤニヤした顔でこちらを見る、人相の悪い邪悪なブルジョワお兄さん。
っつうか漢字三文字の名字のお方に言われたく無いわ。
「……なんで、鏡がそちらと通じているんですか?」
「不動産会社として、物件の管理は大事だろ?」
俺の言葉は社長と通じていない。
「元々、管理用に設置してあったんだが、ここまで来た居住者がいなくてね」
そりゃ、魔王目前の部屋ですからね……。
「……いったいどうやって異世界に設置出来るんですか?」
「うちの従業員が優秀だからなぁ」
またも答えになっていない回答をして、メイドさんの肩にポンと手を置く。
……どんだけ有能なの?
美少女メイド事務員ちゃん!
ちなみに、社長のスキンシップ嫌だったら、セクハラで訴えること可能ですよーー‼︎
ありえない異世界で、さらにありえない現実世界の会社員の対応に、ただただ困惑させられる。
鏡……ふと、この異世界にやって来た時の映像が頭を掠める。
あっ‼︎
「フィング! メーさんを隠して!」
「えっ? あぁ、はいよ」
ばさっと上着の裾を広げて、フィングが自分の服の中にメーさんを隠す。
「おっ! 察しがいいな」
俺の判断に社長がニヤニヤ喜ぶ。
「そうだ。ここから、合わせ鏡で元の世界に戻ることが可能だ」
やっぱりな。
社長の言葉で子供達が、バッと一斉に俺の顔を見る。
「ハル様……」
不安そうなチャルの頭をそっと撫でる。
「っつうか……お前、小児愛趣味なのか?」
「えっ⁉︎ いや、これは成り行きで……」
「なんか保育士さんみたいですね」
俺らパーティを見て、社長達がそう話す。
子供達に囲まれているからな。
……そういえば、ここまで年配者は登場して来なかったな。
「いや、意外。お前は単独行動を好むと思ってな」
「俺も……自分で意外でした」
異世界を巡ってくる中で、自分がこんな風にそこそこ面倒見良い奴だとは、正直思わなかった。
新鮮な発見。
「っつうか社長! ちょっと無責任じゃねぇ? この異世界は……」
「冒険者の魂を取り込む異世界と繋がっている、危ない物件を紹介するなんて……ってか?」
「ぐっ……そ、そうだよ!」
俺がクレームをつける前に、言い当てる。
全て分かっていて、この人はこの仕事をしているんだな。
「最初に行方不明者の件は話しておいたはずだが? うーん……じゃあお前は『駅員なら電車に乗るお客さんが飛び込まないよう、乗り込む全員の行動を監視しなさい!』って言うのか? 違うよな? 契約後に何があっても、当社は責任を追いかねる、全ては自己責任論。……ハルなら一番共感すると思ったんだがな?」
「……」
俺の訴えは正論ブーメランになって戻って来た。
社長に口で勝てる気がしない。
まるでラスボス。
……ん? 何で俺の性格、知ってるんだ?
まだ知り合って、たった一日だぞ?
……でも、社長の言う通りだ。
自分で選び、進んで、今ここに俺は立っている。
誰のせいでもない、自分の意思。
災害や事故は除くとして……人生は一つ一つの分岐点で選択肢を選び、繰り返し、最良と思われる道へと進んできて、現時点ここに存在している。
その理論からすれば、最新の自分は最高……のはずである。
「この鏡は、むしろこちら側の配慮だ。一つの選択肢を追加するんだから」
俺の選択は……決まっている。




