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ミリオンクエスト ~魔法使えないのに100万MP渡されて邪神倒してこいと言われました~  作者: 糠酵太
第三章 禄存星 ~茨姫と太陽の騎士~
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第75話 Sランクハンターの暗躍


 ミリオン号はカペラの街を後にし、次の目的地『統星(すまる)』へ向けて航行を始めた。


 飛び立って間もなく、船長室の扉がノックされた。裕真がデスクから顔を上げると、主計班の三人――アントニオ、バサーニオ、シャイロックが揃って入ってきた。

 裕真が依頼したミッションの報告に来たのだろう。


「どう? 《ダイヤの時計》は見つかった? それとお金は借りられた?」


 皆を代表するようにアントニオが一歩前に出た。穏やかな声に、わずかな緊張が混じっている。


「それについてですが……良い知らせと、悪い知らせがあります。どちらから聞きます?」

「ええ……」


 どうやら、思ったほど順調ではなかったらしい。

 裕真は背もたれに体を預け、心理的に身構えながら答えた。


「じゃあ、良い知らせから」


 すると、今度はシャイロックがにやりと笑って前に進み出た。皺の刻まれた顔に悪戯っぽい光が宿っている。

 彼は懐から一枚の紙を取り出し、机の上に「ほい」と放った。

 裕真が受け取って広げると、そこには格式ばった文字でこう記されていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【借用証書】


 私は、本日、下記の条件にて金銭を借用したことをここに証する。


一、借用金額 金1億マナ

一、利息 年1パーセント(単利)

一、返済期限 なし

一、返済方法 一括返済


借主 ミリオンハンターズ

貸主 魔女銀行


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「くくく……。このとおり、1億マナ(約100億円)を借りることに成功したぞい」

「おおっ! やった!」


  裕真は思わず拳を握り、喜びを爆発させた。これで資金面の心配は一気に解消だ。《ダイヤの時計》を問題なく購入できる。


 しかしその直後、ふとある記憶が蘇った。


「『魔女銀行』って……。まさか、俺の魂を担保にしちゃった!?」


 そう、『魔女銀行』とはその名の通り、魔女が経営する特殊な金融機関だ。

 通常の取引に加え、『人間の魂』を担保に大金を貸し出すことで知られている。

 青ざめる裕真を見て、シャイロックは豪快にガハハと笑い飛ばした。


「安心せい! 魂どころか、破格の低金利で貸してくれたわ」

「そ……そう?」


 裕真は胸を撫で下ろしたものの、今度は別の疑問が湧き上がってきた。


「でもなんで? いくら大銀行でも1億なんて、気軽に出せる額じゃないと思うけど」

「くくく、それはな。魔女銀行の本店が『トリスター』にあるからじゃよ」


 その一言で、裕真はだいたいの事情を察した。

 トリスターはつい先日、邪神の手によって滅亡の危機に立たされていたが、裕真たちがその事件を解決したのだった。


「それで、事件を解決してくれたおぬしに、とても感謝しているというわけじゃ」

「ああ……それで」

「まぁ、邪神がいる限り安心して商売できませんしね。金は出すから早く倒してくれってことでしょう」


 バサーニオが肩をすくめ、ハハハと笑い声を上げた。

 裕真は頷きながらも、すぐに本題に戻る。


「“良い知らせ”は分かったけど、“悪い知らせ”は?」


 その言葉に、三人の表情が一斉に渋くなった。

 アントニオが頰を引きつらせながら、ためらいがちに口を開く。


「それがですね……市場に出回っていた《ダイヤの時計》は、全て買い占められてしまっていたのです」

「……え? 買い占め!?」


 裕真は思わず身を乗り出した。

 《ダイヤの時計》は少なくとも2,000万マナ(約20億円)はする超高級品だ。そんなものを買い占められる財力の持ち主とは、いったい何者なのか?


「それで誰が買い占めたのさ?」

「それがなんと、あのマクリール卿だったのです」

「マクリール……。で、どういう人なんだ?」


 裕真の一言に、三人が揃って「え? 知らないの?」という顔をした。

 どうやらまたしても、知ってて当然の超有名人だったようだ。

 アントニオは裕真が異世界出身だったことを思い出し、こほんと咳払いして、丁寧に説明を始める。


「『マナナン・マクリール』。Sランクハンターにして、世界最強の精霊使い。クラン『銀影騎士団』の団長で、ハンターギルドの創設メンバーでもあるお方です」

「……創設メンバー? ハンターギルドって、900年前にできたって聞いたけど……。その人、何歳なんだ?」

「マクリール卿はエルフの上位種族『ハイエルフ』でして、少なくとも千歳以上だと言われています」


 裕真は思わず「はぇー……」と声を漏らした。

 後に知った話だが、通常のエルフの寿命が500年ほどであるのに対し、ハイエルフは寿命で死ぬことがないらしい。

 齢数千年という、嘘みたいに長生きしている個体もいるのだとか。


「Sランクハンターは世界に七人しかいませんが、マクリール卿はその中でも別格! 名実共に“世界最高のハンター”と呼ばれています」


 熱っぽく語るバサーニオの声に、裕真は圧倒されっぱなしだった。

 別格、世界最高――次々に上がる肩書きに、ただただ言葉を失う。


「そんな大物が、なんで時計を買い占めてるんだ?」

「そこまではまだ。現在調査継続中です」

「ああ、よろしく――」


 と、言いかけて、裕真は慌てて首を左右に振った。


「いやいや! ダメダメ! 調査は中止! マクリール卿に近づいちゃダメだ!」


 突然の拒絶に、商人たちがどよめいた。


「それはまた、どうして?」

「もしかしたらマクリール卿は、フェルダンと“同期”されたか、もしくは“本体”の可能性がある」

「え!? いやまさか!」


 驚きの声を上げるバサーニオ。

 だがアントニオは冷静に目を細め、腕を組んで頷いた。


「なるほど……。自分にとって“弱点”となる魔道具を買い占めていると」

「そうそう!」


 こくこくと頷く裕真。

 しかしバサーニオとシャイロックは、まだ腑に落ちない様子で顔を見合わせた。


「いくらなんでも、あのマクリール卿が――」

「世界最高のハンターじゃぞ?」


 二人の疑問に、アントニオは静かに微笑みを浮かべ、指で軽くデスクを叩いた。


「いえ、『最悪の七人(ワーストセブン)』の能力なら、まったく有り得ない話ではありません。それにマクリール卿は無事でも、その仲間が感染している可能性もあります」


 その冷静な指摘に、二人は「ふーむ」と小さく唸った。


「とにかく、マクリール卿との接近は避けて、なんとか《ダイヤの時計》を手に入れてほしい」

「了解しました。それでは好事家や魔法研究者を当たってみましょう」


 自分はかなり無茶なお願いをしているのに、快く引き受けてくれる三人を見て、裕真は胸の奥でほっと息をついた。


「よろしく頼む。……だが少しでも危険を感じたら、すぐに引いてくれ」


 裕真の脳裏に、マイラの街で出会ったエドワードさんたちの顔が浮かんだ。

 邪教徒の捜査を頼んだばかりに、皆が無残に殺害されてしまった。

 あの時の悲劇を、二度と繰り返したくない……。


 その想いを、声には出さず、心の中で強く噛み締めた。



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