第39話 ショッピング
トリスター滞在二日目。裕真パーティはショッピングに出かけた。
篤志一家は、食料品、家具、日用雑貨など、生活を快適にする品を。
裕真、イリス、アニー、ラナン、ニーアの五人は、今回の滞在の目的のひとつである魔道具の装備品を探しに向かった。
もちろんどんな魔道具でもいいわけではない。必要なのは裕真のチートMPに耐えられる高品質な逸品である。
そんなわけで一行が足を運んだのは、高級魔道具店が並ぶ『三ツ星通り』。
大英雄オリオンが最初に手にした神器《三ツ星の弓》にちなんで名づけられたらしい。
その由緒にふさわしく、この通りには長い歴史と格式を誇る名店が軒を連ねていた。
ショーウィンドウには、目を疑うような逸品がずらりと並ぶ。一点数十万マナはくだらない、まさに選ばれし者のための品々だ。
こんな高価なものを堂々と陳列していて大丈夫なのか、と不安になったが、通りの治安は万全だった。
紫地に銀の刺繍が施されたサーコートに、宝石で装飾された剣と盾。それらで武装した衛兵たちが通りの随所で目を光らせている。
その華美な装飾は単なる見せかけではない。いずれも強力な魔法が込められた一級品であり、それらを身につける衛兵たちもまた、実力を伴った精鋭揃いだという。
この通りを利用するのは貴族か上級騎士、もしくはBランク以上の高位ハンターが中心で、庶民じみた装いの裕真たちは否応なく目立ってしまう。
通りを歩けば、衛兵たちからさりげない警戒の視線が向けられた。仲間たちは思わず身をすくめてしまう。
だが、裕真だけは涼しい顔で受け流していた。
冥府の冥王や、邪神の猟犬デュベルに比べれば、精鋭とはいえ普通の人間の視線など毛ほども気にならない。
……いや、単に恐怖心が麻痺しているだけかもしれないが。
【魔法防具店 天兎屋】
まずは防具の調達から始めることにした。
この店は篤志のオススメで、初心者向けから熟練者用まで幅広い層に対応した品揃えがあるという。
店構えは、しっとりとした風情をたたえた和風(統星風)の造りだった。
淡い木目の外壁に繊細な格子窓がよく映え、ところどころにウサギを模した装飾が施されている。
先日訪れた『ムーンラビット』もそうだったが、この街ではウサギは特別な存在なようだ。
店の扉を開けると、「いらっしゃいませー」と柔らかな声が耳に届いた。
この店の看板娘、千那さんだ。
艶のある黒髪は腰まで真っ直ぐに伸び、前髪は几帳面に整えられている。上品な着物に身を包んだその姿は、まるで戦国の世から抜け出してきた姫君のようだった。
裕真はさっそく、千那さんにオススメを尋ねながら、装備を選び始める。
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【 防具系魔道具 裕真セレクト 】
※品名 [品質/耐久力・価格]
[頭]
ドルフィンヘルムMk-Ⅱ[特上/2,000・30万]…精神・神経攻撃無効
イーグルアイ[特上/2,000・10万]…視力上昇
[首]
そよ風のイヤリング[特上/2,000・10万]…酸欠予防
ホーリーアンク[特上/2,000・10万]…呪詛無効/闇耐性
ニガヨモギの首輪[特上/2,000・30万]…寄生攻撃阻止
[胴]
輝きのシルクシャツ[特上/1,200・30万]…物理/闇耐性
ダンディベスト[特上/2,000・10万]…魅力上昇、背も伸びる
[背中]
ペガサスのマント[特上/1,500・80万]…飛行能力
[右腕]
ガードバングル[特上/2,500・30万]…バリア展開
神樹の腕輪[特上/2,500・10万]…疾病耐性
[右手]
ゴリラアーム[右][特上/1,500・30万]…腕力上昇
バイパーリング[特上/2,000・10万]…毒無効
トロールリング[特上/2,000・20万]…再生力上昇
スタミナリング[特上/2,000・30万]…いつでもビンビン丸
[左腕]
ハヤブサの腕輪[特上/2,500・70万]…運動神経上昇
矢逸らしの腕輪[特上/2,000・50万]…遠隔攻撃回避
[左手]
ゴリラアーム[左][特上/1,500・30万]…腕力上昇
火蜥蜴の指輪[特上/2,000・20万]…炎耐性
アースリング[特上/2,000・20万]…雷耐性
フロストリング[特上/2,000・20万]…氷耐性
[腰]
巨人のベルト[特上/2,000・10万]…重力・念動耐性
[両足]
セブンリーグブーツ[特上/2,000・50万]…移動力大幅上昇
総額 630万マナ[約6億3千万円]
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試着室のカーテンが静かに開いた。
そこから現れたのは、購入予定の魔道具を一式身に着けた裕真だった。
その姿に、仲間たちの目が丸くなる。
裕真の身長がすらりと伸び、顔立ちもどこか大人びて見えたからだ。
それは装備のひとつ、《ダンディベスト》の効果によるものだった。
「どうかな? あらゆる状況に対応できるよう揃えたつもりだけど、何か抜けはある?」
鏡の前でポーズを取る裕真が、皆の反応をうかがう。
「抜けというか……ダンディベストはいらないでしょ」
イリスがあきれ顔で答える。
気持ちは分からなくもない。容姿が整う魔道具は社交界で人気が高く、イリス自身も余裕があれば一つくらい持っておきたいとは思っていた。
だが、今は必要ない。
莫大な稼ぎを得たせいで金銭感覚が麻痺してきているが、ダンディベストの価格10万マナ(約1千万円)は結構な大金なのだ。軽々と買っていい代物ではない。
「ダンディベストは余計ですけど、それ以外は良いんじゃないですか?」
アニーがやんわりとフォローし、ラナンも続けて同意した。
「金も十分あるしなー。ダンディベストはいらねーけど」
三人から揃って否定され、裕真は苦い顔になった。
本人としては、少しでも大人っぽく見られたかったのだ。
十五歳という年齢を考えれば気にすることではないのだが、異世界に来てからは、大人の相手をする機会が増え、自然と気になるようになってしまった。
背がもっと高くなって、精悍に見えたら……。そんな願望がつい顔を出す。
とはいえ、皆の意見はもっともだ。無理強いはできない。
「え〜と、ユウマさま……。その数は装備しすぎです。それでは魔道具が正常に機能しません」
控えめながらも、ニーアが真剣な面持ちで指摘する。
「え、大丈夫だけど? 俺のMPなら余裕だし」
裕真は軽く首を傾げた。
魔道具は基本的に、装備者のMPを動力源にして作動する。
一般人のMPはせいぜい1〜2、魔法職でも10〜20程度で、複数の魔道具を装備しても、MP不足でまともに機能しない。
だがしかし、裕真には100万MPのチート能力がある。MP枯渇の心配など、まず無い。
それでも、ニーアは不安げなままだった。少し考え込んだあと、意を決したように前へ出る。
「すいません、失礼します!」
そう言って、裕真の頭をコツンと軽く叩いた。
「あたっ、なに? いきなり」
「今、ちょっと痛かったですよね? それ《ガードバングル》が正常に作動してないからです」
「……あっ! 本当だ!? MPあるのになんで?」
《ガードバングル》とは、不可視のバリアを展開する防御用魔道具である。
物理、魔法を問わずあらゆる攻撃から装備者を守ってくれるし、転倒や落石といった不意の事故にも反応する。
ニーアの華奢な腕から繰り出される拳など、本来なら弾かれて当然のはずだった。
「魔道具を装備しすぎると、お互いに干渉しあって、正常に機能しなくなるのです。これはいくらMPがあっても避けられません」
「へぇ……そんな不具合があったとは……」
パソコンに無数のソフトを立ち上げるとフリーズする。そんなイメージが裕真の頭に浮かんだ。
「それは私も知りませんでした……。仮にも魔術師なのに、お恥ずかしい……」
「普通、装備する魔道具は3つか4つぐらいだもんな……。沢山付けてもMPたりねーし」
アニーが顔を赤らめ、己の不明を恥じる。
その一方で、ラナンは感心したように頷いた。
「いや、危なかった! ニーアが指摘してくれなければ、つまらない理由で冒険が終わるとこだった! 仲間にして本当に良かった!」
裕真は満面の笑みを浮かべ、ニーアに素直な感謝を伝えた。
ニーアは驚いたように目を瞬かせ、すぐに視線を逸らし、頬を染める。
(へぇ、そうだったんだ… 勉強になるわ~)
少し離れたところで、千那がひそかに感心していた。
魔法防具屋の店員でありながら、この知識は初耳だったらしい。
「ところで、いくつまでなら安全なんだ?」
「そうですね……。2、3個なら同じ部位でも大丈夫ですが、それ以上つけるなら、身体の各部位に分散させないといけません」
ニーアは指折り数え上げる。
「具体的には、頭、顔、首、胴、背中、腰、両腕、両手、両足の計12ヵ所にひとつずつ……あ、ブーツ系は両足揃ってないと効果が無い物が多いので、実質11ヵ所ですね」
ー ー ー ー ー
《部位と装備まとめ》
【頭】 兜、帽子
【顔 (耳も含む)】 眼鏡、仮面、耳飾り
【首】 首輪、ネックレス、スカーフ
【胴】 鎧、服
【背中】 マント、矢筒、背嚢
【右腕】 腕輪 肘当て、肩当て
【右手】 指輪、手袋、籠手
【左腕】 腕輪 肘当て、肩当て
【左手】 指輪、手袋、籠手
【腰】 ズボン、ベルト、脚甲
【両足】 ブーツ、サンダル、靴下、足輪
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「11ヵ所……。まずガードバングルは絶対に必要だから、残り10個以内に絞らないといけないわけか」
試着した魔道具を眺めながら、裕真が唸る。
頭の中で装備の組み合わせを何度も思い浮かべては、首をひねった。
「というか、指輪は2つしか付けられないのか? 指輪系の魔道具多いのに……」
「まぁ、敵に合わせて付け替えるしか無いな」
「無敵の万能超人にはなれない訳ですね」
少し落胆した様子の裕真に、ラナンとアニーはため息交じりに笑う。
「あ……、それなら方法がなくもないです」
ニーアが小声で口を開いた。まるで誰かに聞かれたくないかのように。
「複数の魔道具をひとつに繋ぎ合わせるんです。例えば、アースリングとフロストリングを融合させる、とか」
「えっ! そんなことができるのか!?」
裕真が思わず身を乗り出す。するとニーアは慌てて口元に指を立てた。
どうやら千那さんに聞かれたくないらしい。
魔道具の職人は自分の作品に誇りを持っているものだ。そんな作品を勝手に改造するなんて言ったら、あまりいい顔はされないだろう。
……が、しかし、千那さんは職人ではなく、ただの売り子に過ぎない。
なので、お客が買い上げた商品をどう扱おうが気にしない。ニーアの心配は杞憂だった。
「ただ、そのぶん耐久力は落ちてしまうのですが……」
なおも小声で続けるニーアに、裕真は再び思案を始める。
攻撃系魔道具は、耐久力がそのまま最大火力に直結する。
だが耐性装備は、どんな攻撃を受けるか分からない以上、多少耐久力が落ちても種類を多く揃えたほうが良い。
「わかった。耐性装備を中心に頼むよ」
「はいっ!」
ぱっと表情を輝かせるニーア。また役に立てる場面が来たことに、喜びを隠せない様子だ。
「ところで、みんなは装備、もう決めた?」
裕真の問いに、イリスが頷く。
「私たちはガードバングルと、耐性装備をいくつか。それと移動用のブーツぐらいね。これ以上装備してもMP足りないし」
その言葉に、千那さんの目がキラリと光った。
「MPが足りなくても使える物もありますよ~」
「え? 本当?」
「はい、魔道具には大きく分けて『接続型』と『自立型』がありまして、『接続型』は装備者のMPを消費しますが、『自立式』は魔石などから魔力を得るので、装備者のMPを必要としないんです」
その説明に、アニーが首を傾げる。
「ん? それって飛空船の魔石炉みたいなやつじゃないですか? そういうのってクソ重いから、普通持ち運べないものでしょう?」
魔石炉とは、その名のとおり魔石を燃料とする動力機関である。
大型のものは飛空船や城の動力として、小型のものはご家庭のオーブンや湯沸し器などに使用されている。
その小型でも数十キロの重量がある。そんなものを身に着けて戦うなんて、まず現実的ではない。
「まさか、そんなの担いで狩りに行けと?」
片眉を上げるラナンに、千那さんが微笑みながら首を振る。
「とんでもない! 十分持ち運べるサイズです。まあ接続型より多少嵩張りますが」
論より証拠と、棚から一つの腕輪を取り出した。
それは《ガードバングル》の自立型だった。裕真が持っているものより一回り大きいが、そのぶん魔石を収めるスペースがある。
見たところ、実用には十分耐えうるサイズだ。
「へぇ……。こんなのあったんだ。 マイラじゃ全然見かけなかった」
「魔石炉がここまでコンパクトに……。もしや古代エルフ王朝の遺物ですか?」
アニーが目を輝かせて唸る。
千那さんは「ふふふ」と意味ありげに笑ってみせたが、実のところ、その辺の事情はよく分かっていない。
「貴族やお金持ちが買い占めるから、下々にまで流通しないって聞きました……。それが庶民にも買えるなんて、流石は王都ですね」
ニーアが感心したように呟く。
しかし、イリスは眉をひそめ腕を組んだ。
「でも お高いんでしょ?」
「ええ、それはまぁ……。だいたい接続型の3~10倍のお値段になります」
「ふーむ……」
仲間たちは顔を寄せ合い、ヒソヒソと相談を始めた。
(マスターリングを手に入れたら必要無くなるよな?)
(そうね… 無理して買わなくても――)
ラナンとイリスが視線を交わす。
資金に余裕はあるものの、この先なにがあるか分からない。無駄な出費はできるだけ避けるべきだろう。
だがそのとき、裕真の脳裏に電流が走った。
「いや! 買おう!! マスターリングを手に入れるまで、何があるか分からない! お金で危険が減らせるなら、遠慮なく使う!!」
裕真が、まっすぐな声で言い放った。瞳が強く輝いている。
「ちょ……ユーマ! よく考えてよ! 私たちの装備を自立型で揃えたら、凄い金額になるのよ!?」
イリスが慌てて止めるが、裕真は譲らない。
「金はまた稼げば良い……。でも、皆の身に何かあったら、取り返しがつかない! そんなの俺は耐えられない!」
「ゆ……ユーマ!」
裕真の熱弁に、イリスの頬が赤くなる。
「おおっ! 太っ腹♪」
仲間たちが無邪気に歓声を上げた。
こうして、裕真はイリス、アニー、ラナンの分まで、自立型魔道具をまとめて購入した。
裕真の分と合計で、約1千万マナ(約10億円)ほどの買い物である。
……そしてその中に、こっそり《ダンディベスト》を紛れ込ませたのだった。
裕真の作戦勝ちである。 .
◇ ◇ ◇
【 魔法武器屋 ワイルド・ギース 】
お次は武器の購入だ。
数ある名店の中から選んだのは、やはり篤志のオススメ、『ワイルド・ギース』という店である。
重厚な石造りの外壁と鉄の看板、そして鉄兜を被り両手剣を構えた勇ましいウサギの像が目を引く。
扉を開けた瞬間、威勢の良い声が響いた、
「いらっしゃいませ! 何かお探しでしょうか?」
声の主は店の看板娘リーザさんだった。
紫の髪をツインテールにまとめ、きびきびとした所作が印象的な、活発な雰囲気の少女である。
裕真は早速、目的を告げた。
「とにかく耐久力が高いものが欲しいんで、この店で一番頑丈な魔道具を見せて下さい」
リーザさんの顔に、ほんのわずかな困惑が浮かぶ。
もちろん耐久力は重要なステータスだが、普通はまず、効果や種類を尋ねるものだ。
それでも彼女は、笑顔を崩さず丁寧に対応する。
「はい、了解しました。当店の商品で一番硬い武器が、こちらになります」
ショーケースの鍵を開けると、彼女は無骨な大剣を取り出し、カウンターにドシンッと音を立てて置いた。
《アダマン・ブレイカー》
品質:至宝/耐久9,900
効果:筋力上昇/防御貫通
価格:200万マナ
それは、板状の金属塊を無理やり剣の形に整えたような重厚な造りだった。
しかし、その見た目に反して非常に高性能である。
使用者の筋力を強化し、加えて敵の装甲を軟化させる符呪が施されており、この世界で一番固い金属『アダマンタイト』ですらバターのように切り裂けるという。
だが、それを見た裕真は、どこか物足りなさそうな顔をした。
「9,900かぁ……。もっと硬いのは有りませんか?」
裕真が想定する敵は、変身後のデュベルだった。
体長50mの巨体に加え、岩をも砕くゴリラパンチさえ通じない防御力を持つ怪物……。
今後、あれと同等か、それ以上の敵と遭遇する可能性は十分ある。
その時のために、せめて耐久力1万以上の武器が欲しかった。
「えっ、これでも足りませんか……。申し訳ございません。それ以上となると『伝説級』になりまして、当店では取り扱いがございません」
(伝説級?)
裕真は心の中で首を傾げた。
後に調べて分かった話だが、この世界の魔道具は、その品質と性能から七段階にランク分けされているそうだ。
最上位から順に、
『神器』
『伝説』
『至宝』
『特上』
『上質』
『普通』
『粗悪』
の七つ。アダマン・ブレイカーは、上から三番目の 『至宝』
にあたる。
「ユーマ、伝説級を武器として使うのは、ちょっと勿体ないですよ」
隣からアニーが口を挟んだ。
「それらは古代文明の遺産で、現在では再現不可能な技術で作られているんです。武器としての性能はもちろんですが、文化遺産としての付加価値が値段に上乗せされているんですよ」
「上乗せってどれぐらい?」
「安くても1千万マナ(約10億円)はします」
裕真は目を剥いて絶句した。
「たっか! そんなにするの? となると、無理に買うことないか……」
たとえ伝説級が売られていたとしても、今の軍資金では一つ買うのがやっとだ。
それなら、まずは(比較的)安価な装備を揃え、それを使って情報にあった『神器』を探した方が効率的だと判断した。
「他に買うなら、『ミサイル系魔法』が良いと思いますよ。敵を自動追尾してくれる攻撃魔法です」
アニーはそう言いながら、杖が並ぶショーケースの一角を指差した。
「おおっ! そんなのがあるのか!? 素早い敵には苦労したし、欲しい!」
ナッツイーターとの戦いで、自分の攻撃をひょいひょい躱された時の屈辱を思い出した。あの憎たらしいドヤ顔が今でも脳裏にこびりついている。
だが、そんな裕真に、リーザさんが少し申し訳なさそうに説明した。
「お客様、そちらの商品を御購入なさる際には、王国騎士の許可証か、ランクC以上のハンターライセンスを御提示して頂く必要がありますが……」
「え? 許可とかいるの?」
「あ……、もしやお客様はアウトランドのご出身ですか?」
「そうです」
答えると、リーザさんの顔に「ああ、やっぱり」という表情が浮かぶ。
「そうでしたか。ここミッドランドでは、魔法の危険度に応じて規制が設けられているのです。こちらをご覧ください」
そう言って彼女は、カウンターの下から一枚の表を取り出す。
それには魔法の種類ごとの危険度と、それに必要な許可のランクが一覧でまとめられていた。
ー ー ー ー ー
【魔法の危険度と使用許可ランク】
※各ランクには「効果の強度」「制御の難易度」「悪用リスク」「影響範囲」などの複合的な基準により等級が定められている。
※回復(生命)魔法は別制度により、神官資格が必須となる。
《危険度F 購入に制限なし》
・殺傷力の低い攻撃魔法
例:ショックボルト、ホーリーライト、アクアシュート
・日用魔法
例:照明、水浄化、冷凍保存
・身体強化魔法
例:筋力上昇、敏捷上昇、防御力強化
《危険度E 購入には身元確認が必要》
・初級攻撃魔法
例:ファイアボール、アイススパイク、ライトニング
・罠・捕縛魔法
例:ピットフォール、スネアトラップ、スパイダーウェブ
・弱体化魔法
例:筋力低下、防御低下、魔法耐性低下
《危険度D 衛士級の許可が必要》
・広範囲攻撃魔法(小規模)
例:ファイアストーム、アイスストーム、サンダーストーム
・初級召喚・使役魔法
例:精霊・妖精召喚、ゴーレム操作、使い魔使役
・軽犯罪に使われやすい魔法
例:透視、開錠、変装
《危険度C 騎士級の許可が必要》
・高殺傷力魔法(単体特化・貫通系)
例:自動追尾弾、バリア貫通弾、呪殺魔法
・重犯罪に使われやすい魔法
例:麻痺、石化、スリープクラウド、毒物・薬物生成
《危険度B 騎士団長級の許可が必要》
・制御困難または事故リスクの高い魔法
例:空間転移、気象操作、魔獣変身
・邪悪な力を伴う魔法(禁呪未満)
例:妖術、死霊術、悪魔術
《危険度A 領主級の許可が必要》
・超高威力破壊魔法
例:プロミネンス(炎最上位)、コキュートス(氷最上位)、ケラヴノス(雷最上位)
・深刻な環境被害を引き起こす魔法
例:アシッドレイン、メテオフォール、ヒドラペイン(ヒドラの杖)
・高位召喚魔法
例:大精霊召喚、魔神召喚、高位悪魔召喚
《危険度S 国王級の許可が必要》
・超広範囲破壊魔法(国土規模の被害)
例:ニュークリアブラスト、アースクエイク、タイダルウェイブ、アポカリプス
《危険度EX 国際禁呪指定(絶対に許可されない)》
・生命創造(人工生命、細菌・ウイルスの設計など)
・精神干渉(洗脳、記憶改竄、読心)
・死者蘇生(冥王がブチ切れる)
・時間遡行(歴史改変による世界崩壊の可能性)
・世界改変(物理法則や因果律の書き換え)
・異世界召喚(制御不能な存在の流入)
・混沌(神々ですら制御できない、宇宙根源の魔法)
《特記事項》
・危険度と同等ランクのハンターライセンス保持者は、別途許可なく使用可能。
・使用違反はランクに応じて重罪扱いとなる(例:A級以上は死刑もありうる)。
ー ー ー ー ー
「以上の分類になりまして、街の治安を守るため購入を制限させていただいているのです」
「お~、なるほど……」
考えてみれば当然の話だ。地球でも銃や爆発物の所持には、厳しい資格制度がある。
ならば、強力な魔道具に購入制限があるのも当然だろう。
昨日貰ったBランクライセンスが、さっそく役に立つ……と心の中でほくそ笑む裕真だったが、ふと、あることに気づく。
「……あれ? マイラで魔道具買った時には、身元なんて聞かれなかったけど……」
ぽつりと漏らした疑問に、イリスは頬を掻きながら苦笑した。
「あー、それね……。ほら、アウトランドではその辺が緩いというか、規則に縛られないというか……」
……なるほど、だからリーザさんは、裕真たちの出身地を尋ねてきたのか。
「ミッドランドのお店では、その辺のルールが徹底されてますからね。より強力な魔道具を買いたければ、ギルド総本部に行って昇格審査を受ける必要があるでしょう」
「え~、メンドクサ……」
「ちょっ!? Sランクハンターになるって――」
昨日とまったく同じやりとりを繰り返す裕真とイリス。
そんな中、ラナンが助言を挟んだ。
「非殺傷魔法も買った方が良いぞ。賞金首の中には生け捕りで報酬倍額、もしくは生け捕りのみってパターンもあるからな」
その言葉に、裕真はハッとした。
昨日渡された百枚の手配書の中に、『生け捕りのみ』と赤字で注意書きされた賞金首が何体かいたのを思い出す。
「生け捕りかぁ。捕まえて働かせた方が役に立つ、みたいな?」
「そうよ。たとえばユニコーン。そいつは処女以外を容赦なく殺す猛獣だけど、その角は強力な回復アイテムになるから、殺さず捕まえた方が金……人の役に立つのよ」
「この世界のユニコーンって、そんなに獰猛なのか……」
するとその時、ポケットの中からくぐもった声が響いた。スマホの中のアコルルである。
アコルル「陛下、地球の伝承でも、ユニコーンって猛獣ですよ? ほら、ご覧ください」
スマホの画面にウィキペディアのページが映し出される。
そこには中世ヨーロッパで語られていたユニコーンの伝承が、詳細に記されていた。
「……うわ、マジか」
思わず声を漏らす。
正義のヒーローやロボのモチーフにもなっていたため、清らかで神秘的な生き物というイメージを抱いていた裕真にとって、それはなかなかの衝撃だった。
※ お会計 ※
【近接武器】
アダマンブレイカー[至宝/9,900・200万]…腕力上昇/防御貫通
ヒドラバスター[特上/2,700・40万]…腕力上昇/再生阻害
わからせ棒[特上/1,500・20万]…腕力上昇/非殺傷能力
【追尾攻撃魔法】
ファイアミサイルの杖[特上/2,800・50万]…炎系の自動追尾弾
アイスミサイルの杖[特上/2,800・50万]…氷系の自動追尾弾
サンダーミサイルの杖[特上/2,800・50万]…雷系の自動追尾弾
【広範囲攻撃魔法】
ファイアストームの杖[特上/2,000・30万]…炎系の広範囲降撃
アイスストームの杖[特上/2,000・30万]…氷系の広範囲降撃
サンダストームの杖[特上/2,000・30万]…雷系の広範囲降撃
【非殺傷攻撃魔法】
スタンボルトの杖[特上/2,000・20万]…雷属性のスタン攻撃
アイスコフィンの杖[特上/1,500・50万]…氷結捕縛
【その他】
ホーリーライトの杖[特上/2,000・20万]…闇の魔物特攻
解呪の杖[特上/2,000・20万]…魔法解除
念動の杖[特上/2,000・10万]…サイコキネシス
合計金額 600万マナ (約6憶円)
装備選びを終えた裕真が、ふぅっと安堵の息を吐く。
「……今回はこの辺にしとこう。品揃えが良すぎて選ぶのも一苦労だ」
「そうね、実際に使ってみて、不足があったら買い足しましょう」
その様子を、リーザさんはどこか警戒するような眼差しで見つめていた。
(この人たち、高価で強力な武器をあんなに買い込んで、何に使う気だ?)
ここは裕福な客も多い高級武器の専門店だが、ここまで大量に購入する客は珍しい。しかも、彼らは貴族でも騎士でもなさそうだ。
一応、Bランクハンターの証を提示されたが、彼らにはそのランクに釣り合う威厳とか風格を感じられない。
武器が必要な理由で思いあたるのは、最近発見されたトリスター近郊のダンジョンだが、そこには大して強い魔物は出ないと聞く。こんな大量の、高品質な武器が必要とはとても思えない。
では、いったい何に使うつもりなのか?
(ま……まさか、テロ――)
頭の中に浮かんだ妄想に、思わずぶんぶんと首を振る。
(い……いや! 私ったら、何を馬鹿なことを!! 仮にもギルドが認めたBランクハンターだぞ! 悪事に使うわけが――)
「これだけあれば(賞金首を)楽々皆殺しに出来るな♪」
「そうね、(ダンジョンを)丸ごと焼き払えるわ」
ふふふ……と、不穏な笑みを浮かべるふたり。
さっ……と青ざめるリーザさん。
「くくく……国王陛下にお目通りする日が楽しみですねぇ」
(こ……国王陛下に何をする気だーっ!?)
その日、裕真たちは合計1,600万マナ(日本円換算で約16億円)分の買い物を済ませた。
彼らの名は、三ツ星通りを中心に、トリスター中の商人たちの間で瞬く間に知れ渡ることとなる。
そう、賞金首100体を狩る前に、伝説になったのだ。
【次回、いよいよ100体狩りに挑戦。】




