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第40話 賞金首100体狩り!(序)


 トリスター北部の街道を、奇妙な四人組が砂埃を巻き上げながら駆け抜けていた。

 何が奇妙かといえば、その速さだ。

 徒歩にもかかわらず、郵便ギルドの早馬をあっさりと追い抜いていく。

 その正体は、《セブンリーグブーツ》を履いた裕真たちだった。

 道行く旅人たちが一様に振り返り、目を丸くする。

 視線を感じたアニーは、耳まで真っ赤になった。


「なんかめっちゃ見られてますよ! 恥ずかしい! すごく恥ずかしい!!!」


 周囲の注目は当然だった。

 セブンリーグブーツは魔道具の中でも高級かつ希少品。実物を見る機会は滅多にない。

 ましてや四人全員が装備して並んで走る姿など、一生に一度見るかどうかの光景だ。

 イリスも頬を赤らめつつ、声を張った。


「気にしちゃダメよ! 悪い事してるわけじゃないんだから!!」


 一方、ラナンはというと、満面の笑みだ。


「ははっ! すげぇすげぇ! 歩いてるだけで馬を追い抜いたぞ!!」


 裕真は、やはり視線を気にしながらも、無邪気に喜ぶラナンを見て(高かったけど買って正解だったな)と心の中で頷くのだった。



■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■  



第一ステージ 【カタコンベ】


建造:約1,800年前 (魔法帝国時代)

危険度D:中堅ハンター向け


地下に建造された広大な共同墓地。

管理者を失った今は、アンデッドの巣窟と化している。


【 潜伏賞金首 12体 】



■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■  




 百体の賞金首は、トリスター近辺に点在する12のダンジョンに潜伏しているという。

 これらのダンジョンは既に“攻略済み”で、内部構造も解明され、価値ある財宝は持ち去られている。

 今はただ、魔物たちが巣として利用しているだけである。

 

 裕真たちはそのうちのひとつ、最もトリスターから近いダンジョン、『カタコンベ』の入口に立っていた。


 突入前に装備品を再確認する。出発前にも点検したが、念には念を。

 命がかかっている以上、万が一の見落としは許されないのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【現在の裕真の装備】


[頭]

そよ風のドルフィンヘルム[特上/1,500]

(ドルフィンヘルム+そよ風のイヤリング)

 ※精神・神経攻撃無効/酸欠・毒ガス防御


[顔]

スペクトラル・イーグルグラス[特上/1,500]

(スペクトラルグラス+イーグルアイ)

 ※霊視/視力上昇


[首]

ホーリーアンク[特上/2,000]

 ※闇耐性


[胴]

輝きのシルクシャツ[特上/1,200]

 ※物理・闇耐性


[背中]

ペガサスのマント[特上/1,500]

 ※飛行能力


[右腕]

ガードバングル[特上/2,500]

 ※バリア展開


[右手]

トロールバイパースタミナリング[特上/1,500]

(バイパーリング+トロールリング+スタミナリング)

 ※毒無効/再生力上昇/スタミナ上昇


[左腕]

ハヤブサの腕輪[特上/2,500]

 ※動体視力・運動神経上昇


[左手]

トライエレメントリング[特上/1,500]

(火蜥蜴の指輪+アースリング+フロストリング)

 ※炎・雷・氷耐性


[腰]

ゴリラ巨人のベルト[特上/1,500]

(巨人のベルト+ゴリラアーム)

 ※重力・念動耐性/腕力上昇


[両足]

セブンリーグブーツ[特上/2,000]

 ※移動力大幅上昇



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 出発前、ニーアは天兎屋で購入した装備を“合成”してくれた。

 あれほどごちゃついていた品々が、見事に全身12個所へと収まり、無駄のない形へと整えられた。

 その仕上がりに、アニーが惚れ惚れとした様子で声を漏らす。


「いやー……すごいですね、ニーアさん。複数効果のある魔道具をポンと造っちゃうなんて」


 普通、ひとつの魔道具にはひとつの効果しかない。複数効果の品は、滅多に市場に出回らないのだ。

 裕真も感心して頷く。


「ああ、すごいよな〜。思ったほど耐久力も落ちてないし」


 欲を言えば、神樹の腕輪(疾病耐性)とニガヨモギの首輪(寄生耐性)も組み込んで欲しかったが、他の装備と上手く噛み合わなかったらしい。

 それに疾病や寄生は即死するほどの脅威ではなく、ポーションで治療可能ということで、そちらを用意するにとどめた。


 装備の点検を終え、そろそろ突入しようかという時、スマホから控えめな声が響いた。


「陛下、少々お時間よろしいですか?」

「ん? なに?」

「あのニーアという錬金術士、少し警戒が必要かと」


 思わぬ指摘に、裕真が眉をひそめる。


「なんでさ?」

「腕が良すぎます。魔道具の合成なんて、そうそう出来る芸当ではありません」

「……? そうなの?」


 仲間たちに視線を向けても、皆そろって首をかしげる。錬金術に詳しい者はいないらしい。


「普通、あれだけの腕があれば、宮廷にお抱えで召し上げられてもおかしくないはずです。それが田舎……ゲフンゲフン」


 咳払いをしてから続ける。


「中央から遠く離れた小国で、小さな店を営んでいたなんて、不可解じゃありませんか?」


 裕真は顎に手を当て、軽く首をひねる。


「それは別におかしくはないと思うぞ? 誰もが出世を望んでるわけじゃないだろ?」


 たとえ腕があろうとも、出世競争で神経をすり減らすより、静かな片田舎でのんびり過ごしたいという人もいるだろう。裕真もそのタイプだ。


「それだけではありません! いくら奴隷落ちから助けてもらったといっても、いきなり“御主人様”呼ばわりは不自然じゃないですか!? 普通は――」


 言いかけて、アコルルはハッと口をつぐんだ。

 裕真たちが冷めた目を向けているのに気づいたのだ。

 ……そう、彼女もまた、出会ってすぐに従属を申し出たひとりである。完全なブーメランだった。


「ち……違いますよ!? 私は帝国に使える人工精霊でして、陛下に忠誠を誓うのは極めて自然なことですから!」

「ああ、うん」


 裕真は、なんだかなーという顔で肩をすくめる。


「……あ、申し訳ありません。お話はもうひとつあります。魔物討伐に赴かれる前に、私からお送りしたい物があるのですが」

「ん? 贈り物?」


 スマホの画面に、デフォルメされた魔物のアイコンが浮かび上がった。


「新しいアプリ、『魔物辞典』を作成しました。私の記憶領域に保存されている魔物のデータを、電子書籍として閲覧出来るようにしたものです。どうかお役立て下さいませ」

「おおっ! RPGに付き物なアレか!! これは嬉しい! 一応ギルドから資料貰ってたけど、重くて嵩張るし、読みづらいと思ってたんだ!」


 裕真の顔に喜色が広がる。

 その様子を見て、アコルルは得意げに胸を張った。


「お喜び戴けて幸いです♪ このデータは特にイリスさんに役立つと思います。《貪狼星(どんろうせい)》で奪取出来る魔物のスキルも載せてますので。


 今度はイリスが目を輝かせた。


「へぇ、スキルも! 確かにそれは欲しかったわ、今までは倒した後じゃないと分からなかったし。ありがとう、助かるわ」

「いえいえ、いいんですよお礼なんて。貴方が強くなれば、それだけ陛下が安全になるのですから。win-winってやつです!」


 びしっと親指を立てるアコルル。


「そうだな、デュベル並に強くなってくれると頼もしいぜ!」

「え」


 ラナンの言葉に、イリスは一瞬固まった。

 邪悪な怪物と化したあの姿が脳裏をよぎったのだろう。


「あ~、うん……人間辞めない範疇で頑張るわ」


 強くはなりたいが、乙女の一線は譲れないらしい。

 ラナンはそんな気持ちを知ってか知らずか、腕を組みハハハと笑った。


「となると、魔物のトドメはイリスに任せた方が良いですね」


 アニーのまとめに裕真は頷く。


「ふむ、そうだな。さっそく買っておいた非殺魔道具が早速役に立ちそうだ」


 裕真は《アイスコフィンの杖》を取り出した。

 これは敵を魔法の氷で閉じ込め、行動不能にする魔法が込められている。

 氷耐性や物質透過能力を持つ相手には効かないが、生け捕りにするにはうってつけである。

 だが、イリスは首を横に振る。


「あ〜ユーマ、アンデッド系はあなたが倒しちゃって良いわ。死者の力を吸収って、なんか気持ち悪いし」

「お……おう」


 拍子抜けしつつも、気持ちは分かるので、それ以上言及しない。

 しかしアコルルは、やや呆れたように口をとがらせる。


「好き嫌いしてたら強くなれませんよ!」



■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■  



『賞金首 一覧』



屍鬼属【ゾンビソルジャー】

討伐Lv10 賞金5,000マナ


勇猛な戦士のゾンビ。

普段は普通のゾンビと変わらないヨロヨロとした動きだが、戦闘態勢に入ると戦士の勘を取り戻す。


〔スキル〕

〈アンデッド属性〉 闇・毒属性無効/光・炎弱点

〈戦士の心得〉 臨戦態勢に入ると全体的な能力が上昇




屍属【ゾンビナイト&ゾンビホース】

討伐Lv15 賞金30,000マナ


騎士のゾンビ。死を恐れない騎馬突撃は脅威。


〔スキル〕

〈アンデッド属性〉 闇・毒属性無効/光・炎弱点

〈騎乗戦闘〉 馬などの動物に乗った戦闘術を習得




屍鬼属【ゾンビプリースト】

討伐Lv20 賞金50,000マナ


周囲のゾンビを修復する能力がある。

生前は何か邪悪な存在を崇拝していたらしいが、仔細は不明。司祭なだけに。


〔スキル〕

〈アンデッド属性〉 闇・毒属性無効/光・炎弱点

《ヒール・アンデッド》 アンデッドを回復させる




屍鬼属【ハンターゾンビ】

討伐Lv10 賞金5,000マナ


ゾンビ狩りに来たハンターが、返り討ちにあって自身もゾンビに。

同業者として楽にしてあげよう。


〔スキル〕

〈アンデッド属性〉 闇・毒属性無効/光・炎弱点

〈罠知識〉 罠を仕掛けたり解除したり出来る知識

〈弱点看破〉 敵の弱点を見つける




屍鬼属【オーガゾンビ】

討伐Lv18 賞金30,000マナ


ゾンビになったオーガ。

ただでさえ怪力なのに、ゾンビになった事で筋力のリミッターが外れている。近接戦闘は避けよう。


〔スキル〕

〈アンデッド属性〉 闇・毒属性無効/光・炎弱点

〈怪力〉 筋力が大幅に上昇するが自身の肉体にダメージ




屍鬼属【スケルトンナイト】

討伐Lv16 賞金15,000マナ



骸骨の騎士。肉が無いおかげで風のように素早い。


〔スキル〕

〈アンデッド属性〉 闇・毒属性無効/光・炎弱点

〈騎乗戦闘〉 馬などの動物に乗った戦闘術を習得

〈骸骨ボディ〉 敏捷性大幅上昇、耐久力低下




屍鬼属【スケルトン・メイジ】

討伐Lv18 賞金20,000マナ



魔法使いのスケルトン。魔法も脅威だが知能の高さが更に危険。


〔スキル〕

〈アンデッド属性〉 闇・毒属性無効/光・炎弱点

〈骸骨ボディ〉 敏捷性大幅上昇、耐久力低下

《魔力上昇》 魔力(MP)が上昇




屍鬼属【ガスト】

討伐Lv13 賞金5,000マナ



屍食鬼(グール)の上位種。

腐ったかのように爛れた皮膚を持ち、その外見からゾンビと混同されがちだが、力もスピードもゾンビとは段違いである。

更に強力な麻痺毒を有し、それは普通の解毒魔法では治療できない。


〔スキル〕

〈アンデッド属性〉 闇・毒属性無効/光・炎弱点

〈暗視〉 暗闇でもよく見える

〈腐肉食〉 腐った肉を食べても平気。むしろ大好物になる

〈麻痺毒(強)〉 強力な麻痺毒を分泌。解毒は困難




屍鬼属【アル・グール】

討伐Lv18 賞金10,000マナ



ガストより更に上位のグール。知能が高く、武器や魔法も使いこなす。

また、人間に擬態して奇襲を仕掛けることも。


〔スキル〕

〈アンデッド属性〉 闇・毒属性無効/光・炎弱点

〈暗視〉 暗闇でもよく見える

〈腐肉食〉 腐った肉を食べても平気。むしろ大好物になる

〈知力上昇〉 知力が上昇する




屍鬼属【グーラー】

討伐Lv22 賞金80,000マナ



グールでありながら、非常に美しい女性の姿をしている。

美貌を生かして男を誘惑し、油断させて喰らいつく。犠牲者多数。


〔スキル〕

〈アンデッド属性〉 闇・毒属性無効/光・炎弱点

〈暗視〉 暗闇でもよく見える

〈麻痺毒〉 人間を麻痺させる毒物を分泌する

〈誘惑術〉 男性を夢中にさせる術を身に着ける(魔法ではなく技術)




悪霊属【スペクター】

討伐Lv25 賞金15,000マナ



ゴースト系の上位種。

その姿を見た者を恐慌状態にする。要精神耐性。


〔スキル〕

〈アンデッド属性〉 闇・毒属性無効/光・炎弱点

《恐慌》 姿を見た者を恐慌状態にする

《呪い》 呪詛を仕掛け様々な不幸を引き起こす




悪霊属【レムルース】

討伐Lv30 賞金50,000マナ



あまりの邪悪さから悪魔に成りかけている悪霊。

非常に高い魔力を持つ。


〔スキル〕

〈アンデッド属性〉 闇・毒属性無効/光・炎弱点

《魔力上昇(大)》 魔力(MP)が大幅に上昇する

《呪殺》 相手を即死させるぼどの強力な呪詛



■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■  



 以上がここに潜伏している賞金首だったが、裕真はこれらを相手に一切苦戦することが無かった。

 《スペクトラル・イーグルグラス》の霊視能力で居場所を見つけ、《ホーリーライトの杖》で浄化する。ただそれだけの単純作業だ。

 もちろん敵も反撃してきたが、優秀な防具で身を固めた裕真の身体には傷一つ付かなかった。


 最後の一体、スペクターを浄化して、さぁ帰ろうという時、裕真の耳に「ありがとう……」という微かな声が聞こえた。


「……!? 今の声は!?」


 驚いて振り返る裕真に、すぐさまアニーが答える。


「ああ、スペクターのものでしょう」


 どうやら声を聞いたのは裕真だけではないらしい。


「全ての悪霊が、好きで悪霊やっているわけじゃないですからね。解放されて感謝したんですよ」


 その言葉を聞き、裕真は少し考え込んだ。


「ふむ……。では他の霊も浄化されたら喜ぶ?」

「まぁ、大抵は」

「よし! なら他の霊も成仏させよう!」


 当然、このダンジョンには賞金首以外にも無数のアンデッドが潜んでいる。


「マジ!?」

「マジか……」


 イリスが目を丸くし、ラナンも困惑を隠せない。アニーもまた複雑な表情を浮かべていた。

 まだ向かうべきダンジョンは十一箇所もある。ここで余計な労力を使いたくない、というのが皆の本音だ。

 裕真はそんな空気を感じ取り、慌てて弁明する。


「放っといて、また犠牲者が出ても目覚めが悪いし……ほら、倒せば魔石を落とすんだし、まったくの無駄じゃないだろ?」

「……まぁ、いいけど」


 今後の犠牲を防ぐためと言われたら反論できない。不承不承了解する。


 その後、裕真はカタコンベ内に潜む千体近いアンデッドを浄化した。

 そしてその結果、卸したての新品だった《ホーリーライトの杖》を故障寸前まで使い込んでしまい、帰還した際、修理担当のニーアに渋い顔をされてしまうのだった。



【RESULT】


賞金総額 315,000マナ獲得


その他、アンデッドたちの魔石 500,000マナ相当獲得


呪いのアイテム 100,000マナ相当獲得

(※トリスターのギルドでは買い取ってくれる)   .


合計 915,000マナ(約9,150万円)




■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■  



第2ステージ 【下水処理場】


建造:約1,500年前(魔法帝国時代〕.

危険度E:初級ハンター向け


魔法帝国時代、この近辺にあった都市の下水を集め、浄化していた施設。

だが帝国崩壊後、下水処理を担っていたスライム達が暴走して魔物化。施設内を占拠している。


【 潜伏賞金首 5体 】



■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■  



 下水処理場、内部。

 そこはじめじめと湿気が漂い、鼻を突くような悪臭が辺りに充満している。足下では黒ずんだ水がゆっくりと流れ、壁には緑色の苔がどろりと張りついていた。

 陰鬱さと不快感に、裕真は顔をしかめる。


「ヌルヌルジメジメして凄く不快なんだけど……。ダンジョンごと爆破しちゃダメ?」


 吐き出すような言葉に、湿気混じりの空気が重く絡みつく。

 ラナンは鼻を摘みながら振り返り、しかめ面で声を荒げた。

 

「ダメだぞ! うるせー連中が騒ぐからな!」


 言い方こそ強気だが、眉間には深い皺が寄り、鼻にかかる声からも堪えきれぬ不快さが滲んでいる。


「うるせー連中?」

「学者とかのダンジョン保護団体だよ。『ダンジョンは歴史的建造物なんだから壊すな!』って、とにかくうるせーんだ」


 ダンジョン保護団体。

 名の知れた学者や有力な貴族までもが名を連ねる組織で、彼らの意見はハンターギルドですら無視できないという。

 もっとも、内部の魔物討伐に限っては「被害を防ぐ」という名目で、どうにか認められているのだが。


「あれ? でもダンジョンって“誰の所有物でもない”はずだろ? 法的には問題ないんじゃないか?」

「法的にはな。それでも文句を言うやつはいるんだよ」


 ラナンがうんざりとした顔で吐き捨てる。

 裕真は「ああ……」と低く唸り、妙に納得した。

 地球にも似たような人々がいるからだ。法的に問題のない狩猟に対しても口を出し、妨害する団体が。


「じゃあ、あまり強力な魔法は使わないほうが良いのか?」


 湿った天井を見上げながら問いかけると、イリスとアニーが首を振った。


「そこまで気にしなくていいわ。大抵のダンジョンは自己修復機能があるから、多少壊しても大丈夫よ」

「だから、千年以上前の遺跡がゴロゴロあるんですよ」

「ああ、なるほどなー。普通の建物なら百年も持たないよな。……ところで多少ってどれぐらい?」

 視線を向けると、イリスは「うーん……」と考え込むように顎に指を当てた。

 だが答えを出す前に、不安げな目でアニーとラナンの顔を見やる。

 ところが二人とも視線を逸らしてしまう。

 どうやら、正確な基準は誰もわかっていないようだった。



「まぁ、部屋一つ分ぐらいなら大丈夫ですよ。……タブン」

「お……おう」


 心許ない返答に、裕真は引きつった笑みを浮かべる。

 せめてもの自衛として、大威力の魔法は控えておこうと胸の内で固く決めた。




■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 



 『賞金首 一覧』



造魔属【ウーズ】 ※殲滅指定


討伐Lv10 賞金10,000マナ

ゴミ処理用のスライムが暴走した姿。

圧倒的な速さで増殖するため、発見次第、即座に抹殺することが義務付けられている。


〔スキル〕

〈スライム属性〉 毒無効/物理耐性/炎弱点

〈消化液〉 有機物を溶かす液体を分泌する

〈分裂増殖〉 分裂して増える。分裂した個体は独立した人格を持つため注意




造魔属【ブロブ】 ※殲滅指定

討伐Lv20 賞金20,000マナ


あらゆる有機物を消化吸収し、肥大化し続けるスライム。

戦闘力はウーズを上回るが、分裂せず一塊で行動するため、総合的な対処はウーズより容易……かもしれない。


〔スキル〕

〈スライム属性〉 毒無効/物理耐性/炎弱点

〈消化液〉 有機物を溶かす液体を分泌する

〈吸収合体〉 取り込んだ有機物を吸収して、自身の血肉に変える

〈高速再生〉 驚異的な速度で再生する。千切れた手足も数分で再生可能




造魔属【ゼラチナス・キューブ】

討伐Lv17 賞金20,000マナ



空気のように透明度が高い、立方体のスライム。

視認が困難で、気付かぬうちに接触し、溶かされる者が多い。


〔スキル〕

〈スライム属性〉 毒無効/物理耐性/炎弱点

〈消化液〉 有機物を溶かす液体を分泌する

〈クリアボディ〉 身体が空気のように透明化する




造魔属【回復スライム】

討伐Lv8 賞金30,000マナ(生け捕りのみ)



消化液の代わりに回復薬を分泌するスライム。

仲間のスライムを回復させるため、優先的に討伐する必要があるが、賢く人懐っこい性質から、捕獲してペットにする者もいる。


〔スキル〕

〈スライム属性〉 毒無効/物理耐性/炎弱点

〈回復液〉 回復薬を分泌する。効果は初級魔法レベル

〈浮遊〉 ふわふわと浮かぶ。重量物は運べない

〈愛嬌〉 媚びを売って取り入る技術




造魔属【オティフ】

討伐Lv27 賞金50,000マナ



消化機能の不具合により、体内に雑菌や汚物を溜め込んでしまったスライム。

醜く肥大した身体から腐臭と有毒な気体を撒き散らす。


〔スキル〕

〈スライム属性〉 毒無効/物理耐性/炎弱点

〈腐食ガス〉 有機物や金属を腐食させるガスを吐く

〈毒ガス〉 命を蝕む毒ガスを吐く

〈超再生〉 極めて高い再生力を持ち、首が切れても再生する



■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■  



 カタコンベでは全て裕真が片づけていたが、ここからはイリスにトドメを任せることにした。

 貪狼星(どんろうせい)に魔物スキルを吸収させるためだ。

 スライムたちの水っぽい身体には電流がよく通るらしく、《スタンボルトの杖》が大活躍する。

 麻痺して動けなくなった標的に、イリスが《ヒドラバスター》を振り下ろし、とどめを刺した。

 この剣には再生阻害の効果があり、ブロブやオティフに効果覿面だった。


 順調に思えたが、最後の標的、ゼラチナス・キューブを仕留めた瞬間、異変が起きた。

 イリスの身体が、服だけ残して透明になったのだ。


「イリスどん! 顔が無かと!?」


 裕真の叫びに、イリスはゆっくりと振り返る。透明な顔から、確かにため息が漏れる音がした。


「ゼラチナスのスキル、〈クリアボディ〉を試してみたんだけど……。駄目ね、これは。身体だけ透明になって、服はそのままって……」


 落胆の理由はそこにあるらしい。

 なるほど、戦場で裸になるわけにもいかない。装備を必要としない魔物だからこそ役立つスキル、というわけか。


 あのデュベルも、こうしてハズレスキルを引き当てるたびにため息をついていたのかと思うと、少しだけ笑みがこぼれた。



【RESULT】


賞金総額 130,000

魔石+素材 100,000


計 230,000マナ獲得




■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■  



第3ステージ チーズが自慢のレストラン】


建造:約2200年前(オーク時代)

危険度E:初級ハンター向け


オーク時代に建てられた巨大レストラン。

厨房には魔法のチーズ製造機が設置され、かつては絶品のチーズが安価でふんだんに振る舞われていた。

しかし今では機械が故障し、腐敗したヘドロのようなチーズしか生み出せなくなった。

だが、そんなチーズでもネズミたちにとっては格好のご馳走であり、今では彼らの貸し切りとなっている。



【 潜伏賞金首 4体 】


野獣属【ヒュージラット】

討伐Lv11 賞金5,000マナ



突然変異により異常な筋力を得た巨大ネズミ。

「所詮ネズミだ」と侮ったハンターの首を、容易に捻じ切る。


〔スキル〕

〈環境適応〉 砂漠、雪原、高山などあらゆる環境で生存可能

〈疾病耐性〉 病気にかかりにくくなる

〈怪力〉 筋力が大幅に上昇するが、自身の肉体に負担がかかる




野獣属【ペイルラット】(殲滅指定)

討伐Lv10 賞金5,000マナ



体内に何十種類もの疫病を保菌する。青白いネズミ。

ネズミが病原菌のキャリアになるのは珍しくないが、この種は自ら進んで菌を宿し、他の生物に感染させることで勢力を広げようとする邪悪な存在である。


〔スキル〕

〈環境適応〉 砂漠、雪原、高山などあらゆる環境で生存可能

〈病原菌吸収〉 病原菌を宿しても病気にならず、むしろ活力が増す

〈病原菌感知〉 病原菌の所在を感知する




魔獣属【地獄ネズミ】

討伐Lv23 賞金20,000マナ



本来は地獄に生息し、罪人の肉を齧る役割を持つ生物。

しかし、愚かな召喚士によって地上に呼び出され、定着してしまった。

知能・生命力ともに地上のネズミとは比較にならず、炎や毒にも耐性を持つ。


〔スキル〕

〈地獄生物〉 全体的な身体能力向上/炎・毒・闇無効/水・光弱点

〈貫通〉 硬い物を貫きやすくなる




狂獣属【ファットラット】

討伐Lv29 賞金40,000マナ



体長3mに達する、醜く肥え太った巨大ネズミ。

満腹中枢が壊れており、際限なく食べ続け、時には同族さえも捕食する。

もはや生かしておいてはいけない危険な存在である。


〔スキル〕

〈環境適応〉 砂漠、雪原、高山などあらゆる環境で生存可能

〈大喰らい〉 いくらでも食べられる(過食可能な物のみ)

〈耐久上昇(大)〉 耐久力が大幅に上昇する

〈メタボアーマー〉 蓄えた脂肪が鎧となり、身を護る



■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■  



 ここの賞金首も特に苦戦することはなかった。

 それよりも裕真は、このレストランの広さに驚いた。勲章授与の時に訪れたマイラの城より広い。

 オーク時代……通称「グルメ時代」と呼ばれるらしいが、その時代にはこうした巨大な飲食施設が当たり前のように建てられていたという。


 討伐を終えたあと、ゴゴゴ……という不気味な異音に気づいて厨房を覗き込む。

 そこにはデフォルメされた牛の形状をした機械があり、腹部の空洞からヘドロのようなチーズをゆっくりと吐き出していた。

 悪臭に顔をしかめつつ、裕真は思わずつぶやいた。


「これが例のチーズ製造機か……。なんとか修理出来ないもんかな」


 この巨大レストランに訪れる客すべてを満腹にできるほどのチーズを生み出せる機械だ。このまま壊れたままにしておくのは惜しいと感じた。

 そんな裕真に、アニーが鼻を摘まみながら答える。


「まあ二千年以上放置されてたっことは、誰にも直せないんでしょうね」

「そうかな? アコルル、魔法帝国の技術でも無理?」


 裕真の問いに、スマホからアコルルの声が響いた。


「申し訳ありません。古代オークのグルメテクノロジーは、帝国でも解明できませんでした」


 グルメテクノロジー……。冗談みたいな呼び名だが、それに反してかなり高度な技術のようだ。

 残念そうに息をつく裕真に、イリスがいたずらっぽく笑みを浮かべる。


「直せたらチーズ屋でも始める?」

「あー……。そういうわけじゃないけど」


 たしかに惜しいと思う。だが裕真自身、そこまでチーズ好きというわけでもない。

 ラナンが彼の心情を代弁するように口を挟んだ。


「イヤだよ、そんな地味な仕事。退屈で死んじまう」


 その一言に、皆が声を上げて笑った。

 少し前までただの高校生だった裕真も、思わず同意する。やはり商売よりも冒険のほうが面白い。



【RESULT】


賞金総額 70,000

魔石+素材 30,000


計 100,000マナ獲得




■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■  



第4ステージ【ジャック・ビルド・ビーンスターク】


建造:約5900年前(巨人時代)

危険度C:熟練ハンター向け


ジャックという巨人族の魔法使いが造った巨大な豆の木。

天まで伸ばそうとしたが、神様に怒られたので伸ばすのを止めた。

現在では、オーガの巣窟になっている。



【 潜伏賞金首 7体 】



邪鬼属【オーガ・メイジ】

討伐Lv18 賞金20,000マナ



魔法を操るオーガ。

オーガは知能が低いから、魔法なんて使えるわけがない……などと侮るハンターをファイアボールで丸焼きにする。


〔スキル〕

〈筋力上昇〉 筋力が上昇する

《魔力上昇》 魔力が上昇する

《魔法の素質》 魔法を習得しやすくなる




邪鬼属【オーガ・レスラー】

討伐Lv20 賞金20,000マナ



格闘戦に優れたオーガ。

耐久力も通常種より数段上である。


〔スキル〕

〈筋力上昇〉 筋力が上昇する

〈耐久上昇(大)〉 耐久力が大幅に上昇する

〈レスリング〉 格闘能力が上昇する




邪鬼属【オーガ・ボクサー】

討伐Lv24 賞金30,000マナ



オーガの拳闘士。

素早い足運びで一気に間合いを詰め、数十発の打撃を浴びせてくる。

近接戦闘は避けよう。


〔スキル〕

〈筋力上昇〉 筋力が上昇する

〈敏捷上昇(大)〉 敏捷力が大幅に上昇する

〈ボクシング〉 格闘能力が上昇する




邪鬼属【オーガ・ナイト】

討伐Lv35 賞金100,000マナ



全身鎧を装備したオーガ。

鎧は人間から奪った金属を無理やり繋ぎ合わせただけの粗末なものだが、タフなオーガが身につければ十分な脅威となる。


〔スキル〕

〈筋力上昇〉 筋力が上昇する

〈耐久上昇〉 耐久力が上昇する

〈防具適性上昇〉 装備した防具の効果が上昇する




邪鬼属【オーガ・デストロイヤー】

討伐Lv50 賞金500,000マナ



オーガの中でも特に優れた戦士。

百体以上の獲物を屠った個体にのみ与えられる称号である。


〔スキル〕

〈筋力上昇(大)〉 筋力が大幅に上昇する

〈耐久上昇(大)〉 耐久力が大幅に上昇する

〈敏捷上昇(大)〉 敏捷力が大幅に上昇する

〈戦士の心得〉 臨戦態勢に入ると全体的な能力が上昇する




邪鬼属【オーガ・ブッチャー】

討伐Lv40 賞金500,000マナ



獲物の解体と調理を得意とするオーガ。

肉好きなオーガにとって、ブッチャーは特別な地位にあり、英雄やアイドルのように慕われている。


〔スキル〕

〈筋力上昇〉 筋力が上昇する

〈魅力上昇〉 魅力が上昇する

〈調理〉 料理の腕が上がる

〈解体〉 獲物を上手に解体し、素材の価値を高める




邪鬼属【スモトリ・オーガ】

討伐Lv50 賞金400,000マナ



東方に伝わる伝統武術「相撲」を習得したオーガ。

圧倒的な筋力から放たれるぶちかましは脅威。


〔スキル〕

〈相撲〉 格闘能力が上昇する

〈筋力上昇(大)〉 筋力が大幅に上昇する

〈耐久上昇(大)〉 耐久力が大幅に上昇する

〈メタボアーマー〉 蓄えた脂肪が鎧となり、身を護る


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■  


 オーガ。

 体長三メートルから五メートルに及ぶ巨躯に、異常なほど発達した筋肉を備え、額や頭頂部から鋭い角を生やした“人型魔物”である。

 かつては“亜人”とも呼ばれていたが、その生態や行動原理から、人類の一種ではなく純然たる“魔物”として学術的に分類されるようになった。


 なお“亜人”という言葉は現在、少数種族への差別発言とみなされ、使用を禁じられている。

 

 そういうわけで、オーガは倒すべき敵なのだが――異形とはいえ人の形をした生物と戦うことに、裕真は躊躇いを抱いていた。


 ……途中までは。


 ビーンスターク探索の最中、一行はオーガたちの“厨房”を発見してしまう。

 そこには、かつて“人間だったもの”が無数に散乱していたのだ。


 その瞬間、裕真の胸を覆っていた躊躇いは怒りに塗りつぶされた。

 魔法の炎が、氷が、雷が、次々と解き放たれ、ダンジョン全域に轟きわたる。

 数百体のオーガが、抗う間もなく灰と化した。



【RESULT】


賞金総額 1,570,000

魔石+素材 1,000,000


計 2,570,000マナ獲得




「いや〜、凄い暴れっぷりですね! まるで『(オーガ)』のようでした!」


 朗らかに笑うアニーの言葉に、裕真の表情が強張る。


 オーガたちは自分が食べる獲物を狩ってただけ……

 怒りに身を任せ、必要以上に殺しまくった俺こそ、『(オーガ)』なのか?


 裕真の顔に苦悩が滲む。

 だが、アニーにそんな深い意図はない。彼女はただ純粋に、裕真の圧倒的な力を称えただけだった。


そう、この世界で『(オーガ)』という言葉は、強いもの、凄いものを称える比喩として広く用いられているのだ。

 だがそれを知らない裕真は、ひとり思いつめ、またしても文化の壁に頭を抱えるのだった。



【 賞金首28体討伐 残り72体 】


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