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第32話 世界七大遺産

 【 ハンターギルド 宿舎 】



 旅立ちの準備を進めていた裕真のもとに、冥王から久々の通信が届いた。

 スマホの画面いっぱいに映し出された青白い顔は、何度見ても慣れない。


「久しいな。あれから変わりはないか?」


 低く響く声。冥王の視線が、画面越しにじっと裕真を射抜く。


「ええ、まぁ……」


 裕真は曖昧な返事をしながら、ふと思い出していた。つい先日、アコルルが念を押した言葉を。


”いいですか、陛下。私の存在は冥王に話さないで下さい。私が陛下と接触したことは、まだ気付かれてないはずです。ただ《貪狼星(どんろうせい)》のことは話して大丈夫です。むしろ話さない方が怪しまれます。冥王も『守護七星』の存在を知ってますし”


 その言葉通り、余計なことを言わないよう気を引き締める。


「え〜と……邪神の手先を倒したんですけど、そのとき貪狼星?ってやつを手に入れました。でも俺には使えないようで――」

「……どんろうせい? ああ、マーホーコーテーとかいう愚か者が作ったやつか」


 冥王は鼻で笑った。露骨な軽蔑。どうやら魔法皇帝をよく思っていないらしい。


「気にすることはない。所詮、人間の浅知恵で作られたガラクタ。我の与えたMPの方が遥かに役立つ」


 冥王は喉を鳴らして笑った。

 アコルルが聞いたら怒りそうだな、と裕真は内心で苦笑する。


「そんなことより、耳よりな情報を持ってきたぞ。まだ人類に発見されてない『神器』の在処が判明した。しかもその数は12個だ!」

「12個も!? よく見つけましたね!?」

「冥王府の職員を総動員して探させたからな。古文書を漁ったり、当時の亡者に聞き込みしたり――。感謝しろよ、職員たちに」


 そう言って、画面が切り替わる。表示されたのは、この世界『カンヴァス』の世界地図だった。


「神器の所在地はここだ。地図に記しておくぞ」


 冥王の指示に応じるように、地図上に光点が次々と浮かび上がる。


「……っ!」


 その瞬間、背後で仲間たちがざわめいた。


「こ、これは……『世界七大遺産』!!!」


 イリスが青ざめた顔で呟く。


「よりにもよって、こんな場所に……」


 アニーも顔をしかめ、ラナンが肩をすくめる。


「いや……こんな場所だからこそ、神器が今まで残ってたんだろうけど」


 三人娘の強張った顔を見て、裕真は思わず首を傾げた。


「七大遺産って、なにさ?」

「この世界の文明に深く関わる、重大な遺跡よ……」


 そう言うと、イリスは自分のバッグから一冊の本を取り出した。

 タイトルは『世界七大遺産』。

 今まさに裕真が知りたかった情報そのものだった。


※以下、本の内容と、冥王からの情報を併せた紹介。



 ―― 1 ――

 

 エルフ族の遺産!

 古代エルフ王朝最後の女王が眠る城!

 城を覆う魔法のイバラは、時間でさえも眠らせる!!

 目覚めのキスをする王子は現れるのか!?


 『スリーピングキャッスル』!



 【出没エネミー】

 ゴーレム、オートマタ、妖樹属、暴走精霊、ダークエルフなど。 



 【未発見神器】


 《天の叢雲(アメノムラクモ)》 

 水を操る力を持つ剣。応用次第であらゆる自然現象を引き起こせる。


  《茨のティアラ》

 『時間』を吸収する異次元のイバラを操る。触れた者は永遠に時を止められる。




 ―― 2 ――


 ドワーフ族の遺産!!

 機械文明の墓標! 鉄屑に覆われた死の山脈! 

 暴走した自動兵器が蠢く、鋼の地獄!!

 

 『機械山脈』!



 【出没エネミー】

 オートマトン、ミュータント、ガンランナーなど。



 【未発見神器】


 対竜銃アンチドラゴンライフル 《ジークフリート》

 ドラゴン属特攻の銃。もちろんドラゴン以外も殺せる。


 マスターゴーレム 《ゼペット》

 あらゆる魔道具、ゴーレムの製造能力を持つゴーレム。




 ―― 3 ――


 巨人族の遺産!

 偉大なる巨人王の力が宿る超巨大岩石!

 最強の座を目指し、強者達が血を流す格闘の聖地!


 『アトラスの玉座』!



 【出没エネミー】

 ハイオーガ、ギガース、巨獣、怪獣など。



 【未発見神器】


 《ガイアカプセル》

 使用者を巨大化させる巨人の加護を宿す護符。


 《チャンピオンベルト》

 王者の証。あらゆる姑息な手段(魔法、呪い、特殊攻撃など)を無効化する。




 ―― 4 ――


 オーク族の遺産!

 世界全ての美食を集めた美しき島!

 だが美味い物が好きなのは人間だけじゃない!!

 世界中からグルメなモンスターが集う弱肉強食の楽園! 喰うか喰われるか!?


 『グルメアイランド』!



 【出没エネミー】

 グルメビースト、グルメオーガ、グルメデーモン、グルメドラゴンなど。



 【未発見神器】


 万能鍋 《オケアノス》

 これで調理した物体は、石でも鉄でも食用可能になる。伸縮自在で、防具としても使用可能。ただし見た目は保証しない。


 万能包丁 《フラガラッハ》

 あらゆる物体を食べやすい大きさに切断できる。また、再生阻害能力があり、不死身の生物も刺身に出来る。




 ―― 5 ――


 魔族の遺産! 


 禁断の知識の宝庫! この世全ての禁書、悪書がそこにある!

 恐怖と絶望、そして至高の快楽を知りたければ止めはしない!!


 『最低図書館オビブリオン』!



 【出没エネミー】

 デーモン、アンデッド、暴走魔導書など。



 【未発見神器】


 《まものずかん》

 所持者が今までに遭遇した魔物を、いつでも召喚できる。

 ただし、仲良くなれるかは貴方次第。


  《ぼうけんのしょ》

 使用者の命を“セーブ”して、死んでも復活できる。

 ※セーブデータの破損例あり。




 ―― 6 ――


 神々の遺産!

 地上と天界を繋ぐ塔!

 だが現在は強大な魔物に占拠され、世界最大のダンジョンに!!

 真の冒険がしたい者は、ここに集え!


 『至天の塔』!



 【出没エネミー】

 世界中のありとあらゆる魔物。



 【未発見神器】


 飛空船 《ブルーソニック号》

 ドラゴンの攻撃すら弾く無敵の飛空船。


 《さいごのかぎ》

 この世界に存在するあらゆる封印を『開錠』する。

 邪神がめっちゃ欲しがっている。



 ◇ 



 イリスは本を閉じ、静かに息を吐いた。


「以上の六つに『封都ポラリス』を加えたのが『世界七大遺産』よ……」


 裕真はふむ……と小さく頷く。だが、すぐに新たな疑問が浮かび、冥王に顔を向けた。


「ポラリスってのは、邪神が封印されている魔法帝国の首都ですよね? そこに神器は無いんですか?」

「我が知る限りでは無い。というか、あったとしても既に邪神の手中だろう」

「……ああ。確かに」


 半ば封印が解けかけている邪神が、今もあの地で待ち受けている。その事実を思い出し、裕真の眉がわずかにひそむ。

 ふと部屋の空気が重くなったのに気付いた。仲間たちを見ると、まるでお通夜のような沈黙に包まれている。


「みんな、どうしたのさ? 神器の在処が分かったのに」


 アニーがため息混じりに肩を落とす。


「分かったから困っているんですよ……。私たちには回収不可能だって」

「……えっ? そうなの?」


 イリスが静かに頷く。口元に手を添え、言い淀むように続けた。


「いい? 世界七大遺産はすべて『Sランクダンジョン』に指定されているのよ」

「……Sランク?」

「世界で最も危険な、難攻不落のダンジョンってこと! 生息する魔物の討伐レベルは最低でも50以上!」

「最低で50!?」 


 裕真は目を見開いた。ようやくその困難さを理解したのだ。


「それって、今まで倒した賞金首が雑魚レベルってこと!?」


 今まで倒した賞金首を思い返した。


・ナッツイーター 討伐Lv40

・ラビィくん 討伐Lv35

・クレイジーホーン 討伐Lv25

・ヘルハウンド・チーフ 討伐Lv30


 いずれも街を悩ませ、数十万マナの賞金を掛けられていた強敵だが、Lv50に届いていない。

 裕真たちが倒していないトロル・キングが、ようやく50といったところだ。

 そんなレベルの魔物たちが当たり前に生息しているのが『Sランクダンジョン』……。なるほど、難攻不落なわけである。


「ユーマ以外は生きて帰れませんね……」

「というか、近づくことも出来ねーよ」


 アニーとラナンが肩を落とす。その口からは、ため息まじりの弱音が漏れた。

 仲間たちの士気は目に見えて下がっていた。唯一、戦闘面で対応できる裕真も困り果てる。

 いくらチートを持っていても、一人でSランクダンジョンを攻略するのは無理だ。つい先日。ラビィくんの巣窟で思い知らされたばかりである。

 だが、そんな皆の反応を予想していたのか。冥王は不敵に口元を吊り上げた。


「ふふふ……貴様らがそうしてヘタれるのは想定済みだ。そこで耳寄りな情報を教えてやろう」


 スマホの画面が切り替わり、黄金色に輝く指輪が映し出される。


「これは『王都トリスター』のオリオン王家が所有する《マスターリング》という神器だ。これを手に入れよ」


 裕真は身を乗り出す。


「それは……どんな神器なんです?」

「魔法教導用のツールだ。装備者のMPを味方に分配する機能がある」


 その瞬間、沈んでいた皆の顔がぱっと明るくなる。


「……!! つまり、俺の100万MPを皆に分けられると!?」


 ラナンとアニーが歓声を上げた。


「俺達がユーマみたいに活躍できるってことか!? 凄え!!」

「それなら七大遺産だって攻略出来ます!!」


 皆が期待に胸を膨らませる。

 だが、篤志だけは曇った表情のまま、そっと口を開いた。

 

「……でも、そのリングをどうやって手に入れるんです? 王家の所有物ですよね?」

「それは貴様等で考えよ」

「え…!?」


 突き放すような冥王の答えに、一同は唖然とする。


「我なら『城の人間を皆殺しにして奪え』と提案する。だが貴様等はそんなの嫌だろ?」

「……まあ嫌です、やりません」


 裕真は、いつもと違う冥王の態度に困惑しつつ答えた。


「だから自分で考えよと言っておるのだ。盗むなり交渉するなり貴様等の好きな方法でな」


 その言葉に、裕真の胸の奥が少しだけ温かくなる。冥王が自分たちのやり方を尊重してくれたことが、妙に嬉しかった。


「……ちなみに《ヒドラの杖》が必要なら、いつでも貸してやるぞ?」


 ……と、思ったらこれである。

 《ヒドラの杖》とは致死性の毒ガスを散布する杖で、ジェノサイドにうってつけの魔道具だ。


「結構です! 使いませんって!!」


 はははっと笑う冥王。どうやら半ば冗談だったらしい。

 とはいえ、頼めば普通に貸してくれそうなのが怖い。


「我からは以上だが、他に質問は?」


 そう言われ、裕真の胸にもう一つの疑問――心の引っ掛かりが浮かぶ。


「……あ、そうだ。 そちら(冥界)にデュベルの魂は行っていませんか?」

「いいや、来ていない。邪神と契約した者の魂は、邪神の元に赴く」

「……え? それは魂を喰われるってことですか? 犠牲者と同じく」

「そこまでは分からん。喰ってるかもしれんし、大切に保管しているのかもしれん。確かなのは、冥界の管轄外になるということだ」

「そうですか……」


 裕真は落胆する。

 もう一度だけ、デュベルと言葉を交わしたかった。……たとえ無駄だと分かっていても。



 ―― 通信 終了 ――



「……さて、さっそくお姫様の感謝状が役立ちそうですね」


 軽く首を鳴らしながら篤志が言う。小さなスマホ画面を皆で覗き込んだせいか、肩が凝った様子だ。


「う〜ん……。この大陸で一番偉い人と交渉か〜。今から頭が痛いな」

「まぁ、まだ先の話ですし、どう交渉するかはゆっくり考えましょう。ところで話は変わりますが、『錬金術師』を雇いません? 長旅をするなら必須かと」


 突然の提案に、裕真は思わず首をかしげた。


「錬金術師が? なんで?」

「錬金術師というのは、魔道具の専門家で、魔道具の整備点検をしてくれる人です。地球で言うと……メカニックみたいなものですかね?」


 そう言いながら篤志は懐から地図を広げ、指でトントンと叩く。そこには次の目的地『トリスター』までの道筋が描かれていた。


「トリスターまでは、だいたい一ヶ月ぐらいかかります。その道中で魔道具が故障しても、都合良くお店があるとは限らないでしょ?」

「……確かに! これからは未知の秘境にも行くんだし、整備してくれる人は必要だよな!」


 ぽんっと手を打つ裕真。

 自分では気づかなかった盲点を指摘され、改めて仲間の重要さを思い知らされる。

 だが、ラナンとアニーの表情は重い。


「問題は誰を雇うかだな……。金はあるから募集すればすぐ集まるだろうが……」

「……邪神の手先が混じっているかも」


 デュベルの裏切り以来、皆の間にはわずかな疑心暗鬼の影が落ちていた。

 その不安を代弁するように、イリスがスマホに向かって問いかける。


「アコルルちゃん、邪教徒を見分ける方法ってない?」

「『守護七星』を持っているなら感知できますが、そうじゃない普通の邪教徒までは……すみません」


 だめか……と、肩を落とす一同。だが、そんな中で篤志だけが、どこか自信ありげに微笑んだ。


「ああ皆さん、ご安心を。それなら既に一人、心当たりがいます」

「え? だれ?」

「『コロネフォルス』の店主、『ニーア』さんです。店をデュベルに焼かれましたし、奴らの仲間ってことは無いとでしょう」


 ニーアさん――。裕真がこの世界で初めて世話になった錬金術師だ。

 アメジストのような瞳と、同色の艶やかな髪。ハーフエルフ特有の目を引く美貌……。

 なるほど、もし仲間になってくれるなら嬉しい。……変な意味じゃなくて。


「そう見せるための偽装かも……」


 イリスは目を細め、こめかみに指を当てる。

 捜査の目を逸らすため、あえて被害者を装う。そんな推理モノの常套手段が脳裏をよぎったのだろう。


「いえいえ、その心配も無用です。ニーアさんはあの時の火災で莫大な借金を背負って、奴隷にされる寸前なのですよ。いくら疑いを晴らすためでも、そこまでしないでしょ?」

「は!?」


 裕真はぎょっとして思わず声を上げた。この世界には奴隷制度があるのかと。


「ちょっと待った! 家の修繕費は国が出してくれるはずでは!?」


 窓の外に目を向ける。

 デュベルに壊された家々を直すため、職人たちが忙しなく動き回っていた。

 その修繕費用は表向き、プロキオン王国の公費ということになっている――

 だが実際には、『時の勇者シノブ』が自腹を切っているという事実を、裕真たちはまだ知らない。


「補償額には上限がありまして、ニーアさんはそれを超えてしまったんです。なんでも修理のために預かっていた魔道具の弁償を請求されたらしくて」

「えっ、ひどっ……。ニーアさんのせいじゃないのに」

「ボクもそう思いますが、これは逆に好都合です。借金を肩代わりする代わりに、パーティに誘いましょう」


 その提案に、裕真は苦い顔をする。


「……それ、俺らがニーアさんを買い取るみたいじゃないか」

「ああ、はい。傍目からはそう見えるかもですが……。ニーアさんは奴隷にならずに済むし、ボクらは錬金術師を得る。win-winじゃないですか」

「うーん……」


 裕真は視線を落とす。

 街で静かに暮らしていた人を、こちらの都合で危険な旅に連れ出していいのだろうか?


「じゃあ、こうしよう。ニーアさんの借金は肩代わりする。だけど本人が冒険したくないって言うなら、それ以上誘わない」

「ええ……。それじゃ錬金術師が――」

「私もユーマに賛成。ニーアさんの店が焼かれたのは、私たちにも責任あるし、見て見ぬふりはできないわ」


 イリスの言葉に、他の皆も頷いた。篤志は肩をすくめ、苦笑交じりにため息をつく。


「……仕方ないですねぇ。皆さんがそう言うなら……ん?」


 不意に窓の外に視線を向けた篤志が、目を見開いた。


「あーっ!!」

「な、なに……!? ……あ!!」


 裕真も慌てて窓に駆け寄る。

 そこから見えたのは、大通りをゆっくりと進む荷馬車。

 そしてその荷台には、まるで荷物のように荒縄でぐるぐる巻きにされたニーアさんの姿が!


「なにあれ? もしかして奴隷として出荷されてるの!?」

「あちゃー……。遅かったか」


 窓から身を乗り出すイリス。肩をすくめるラナン。アニーも横で小さくため息をついた。


「い……いや! まだ間に合うはず!」


 言うが早いか、裕真は勢いよく部屋を飛び出した。

 


 【 次回 星野裕真、はじめての人身売買。 】



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