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第6話 それぞれの家名

「「「ごちそうさまでした」」」


(ふー、食った食った。)


 彼女に案内された店は確かに旨かった。


 この世界に来てから、こんなに美味しいご飯を食べたのは初めてだ。メニュー自体は牛肉のステーキや野菜のスープなどの、割りとオーソドックスな物だったが、調理技術はもちろん食材もかなり良い物が使われていた。


 そのうえ量も多く、大食いには多少自信があった俺でも食べきるのに苦労した。半日以上なにも食べていなければ、食いきれなかっただろう。

 俺も女の子2人の手前、出された料理を残す訳にはいかないからな。


 そんな俺の心境はどこ吹く風、2人は俺と同じタイミングになんなく料理を食べ終わった。量は俺とおんなじだっていうのに。

 2人の胃袋はどうなってるんだ......


「さてと、いっぱい食べてお腹もふくれた所で、お互い自己紹介でもしましょ」


 自己紹介か......

 そういえば俺はまだ2人の名前も知らない。

 俺はさっき合ったばっかりの、名前も知らない奴と一緒に食事してたのか。2人がなんだか親しみやすかったから、何も感じなかったな......


「まずは私からね。私の名前はフレア・レッドフィールド、歳は16よ。アルノンで近衛騎士団の一員として働いてるわ。よろしくね」


 フレアって言う名前なのか......英語で燃える炎とかそんな感じだっけ?

 赤い長髪にあってていい名前だな。家名もレッドフィールドだし、髪が赤色の一族なのかな?


 コメッコ村には黒髪の人しか居なかったから新鮮だな、ファンタジー異世界感があって。


 しかも、近衛騎士団か......首都アルノンに住んでるこの国の王族を守ってる人達だよな......

 正義の味方の象徴で、なりたい職業No.1の王国騎士団。その中でも限られたエリートしか入団できない王直属の騎士団、それが近衛騎士団だ。


 只者じゃないとはうすうす思ってたけど、まさか近衛騎士とは。だから、さっきの奴らはあんなに警戒してたのか。

 まあ、お国を守る騎士さまがいきなり現れて警戒するなってのが無理な話か。


 でも凄いな......歳は俺と1つしか変わらないのに、近衛騎士なんて立派な仕事に就いてる。


 俺も見習わないとな。


「それじゃあ、次は君の番よ」


 俺か。

 でも、こんなに改まって自己紹介するのなんて小学生の時以来だしな。何話せばいいんだろ?

 とりあえずフレアさんのを真似ようかな。


「僕はアランと言います。家名は持っていないです。歳は15歳です。仕事を探すためにコメッコ村を出て、今は王都に向かっています。よろしくお願いします」


 こんな感じかな?


「コメッコ村......この国の端にある村ね。そんな遠い所からよく1人で来たわね。......ひょっとして家名狙い?」


 この国で家名を持ってるのは王族や貴族、それに連なる良家の人達だ。

 家柄抜きで家名を持っている人は、国に仕える仕事に家族の誰かが就いているからだ。


 この国では日本でいう所の国家公務員試験、通称〈ユリス試験〉に合格した人の家族には家名が与えられ、本人には家名だけでなく国に仕える仕事に必要な資格、ユリス資格が与えられる。


 ちなみにユリスって言うのはこの国の守護神、女神ユリスの事だ。ユリス様の名前が、この国の金の単位にもなっている。


 そのユリス試験には毎年、万単位の人達が挑み合格するのは平均5人ほどだという。そんな狭き門でも挑む人が絶えないのは、家名にはそうするだけの価値があるからだ。


 まず、納める税が半額以下になる。学校や病院などで掛かる金が一部、もしくは全額無料になる。無料で選挙に参加できる。

 ざっと挙げただけでも、いい事ずくめだ。

 家名があるということは、それだけ信頼性があるということだ。

 故に、家名は誰もが求めて止まない物なのだ。


「一応そうです。まあ駄目元ですけど」


 家名があれば何か起こった時、金で困る事が減るからな。父さんや母さんが病気になっても、金が無くて病院に行けない! なんて事があったら嫌だし、俺も家名は欲しい。


 ただ、倍率が高すぎる。2000分の1未満なんて明らかにおかしいからな。 他の職業は高くても100分の1ぐらいなのに......それだけ狭き門なのだ。合格者0人なんて年もある。


 だから俺のは記念受験みたいなもんだな。

 受かるなんて思ってないし。


「そんな気構えじゃ参加しないほうがいいわよ。毎年、死人も出てるんだし」


 その通りだ。

 試験自体が過酷なのもあるが、受験者同士の衝突も絶えないという。去年は300人ぐらい死んだらしい。


 そんな危ないのは嫌だから、俺は早々にリタイアするつもりだ。受験料も安くはないが、それに使うのは母さんに貰った金じゃなく、俺が父さんの仕事の手伝いをしてコツコツ貯めた金だ。

 試験を受けるぐらいの自由は欲しい。


「分かってます。でもやっぱり受けてみたいんです」


 俺の意志は強い。


「そう......でも危なくなったら直ぐに棄権しなさいよ。何かあってからじゃ遅いんだからね」


「心配してくれてありがとうございます。そういえば、フレアさんは近衛騎士なんですよね? フレアさんもユリス試験を受けたんですか?」


 もしそうならアドバイスでも貰いたい。


「ううん。私の家には元々家名があったから、別の試験を受けたの。ユリス試験は家名が無い人用で、家名がある人は別ルートになるの。貰える資格は一緒なんだけどね」


 そうだったのか。その事については本に載って無かったな。最近できたルールなのかな?


「あと、そんな話し方じゃなくてもっと気安く話して。歳も1つしか変わらないんだから。名前もフレアさん、じゃなくてフレアでいいわよ」


「分かりまし......分かったよ、フレア」


 それはありがたい。

 いざこざを避ける為に、ずっと言葉遣いには気を付けて来たが、普通に話す方がやっぱり楽だ。


「さて、じゃあ後はあなただけね」


 ついにこの少女か。

 両親と旅行に来ていた所を誘拐されたらしい女の子。この歳でいきなり奴隷にされるのは辛かっただろうな......

 だからこそ、早く両親と会わせてやりたいってもんだ。


「......たし.....は......ます」


 うん?

 声が小さくてよく聞こえなかったな。

「ごちそうさまでした」の時は普通だったのに。


「落ち着いて。ゆっくりでいいわよ。ここにあなたの敵はいないわ」


 そうか、怯えてるのか。

 周りにさっきの奴らと同じような追っ手がいて、いきなり連れ去られるかもしれないからな。

 ここ数日、まともな物を食べて無かったから、食事中は無我夢中だったのか。

 落ち着いたのか、少女はゆっくり語りだした。


「わたしの名前は、アイリス・ペンフォードと言います。もうすぐ12歳になります」


 アイリス・ペンフォードって言うのか。

 いい名前だな......あれ? 家名が付いてる?


 それにペンフォードって家名にも覚えがある。

 どこでだっけ?


 たしか......そうだ。この国についての歴史が載ってる本に書かれてた。


 ペンフォードはこの国に居る貴族の家名だ。

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