2-16. 体育館の裏側で
(*未依沙視点)
一緒に帰った日、
わたしは立川先輩に伝えた。
「立川先輩、これまで何度も送っていただいてありがとうございます。とっても急なんですが、わたし、先輩と一緒に帰るの、これで最後にしたいと思ってます。」
立川先輩はビックリして固まった。
「え?俺、何か傷つけるようなことしたかな…?」
「いえ、全然そんなことじゃないんです。わたしが一方的に、やめた方がいいのかな…と思って」
「それってどういうこと?」
「わたし、気になる人…?がいるんです。だから、この気持ちで先輩と一緒に帰り続けるのは不誠実だなって思ったんです。」
正直に伝えると、
先輩はただ静かに聞いていた。
「そっか。伝えてくれてありがとう…」
絞り出すような声に、
胸が苦しくなる。
「本当にごめんなさい。先輩はとっても素敵で…でも、だから言わなきゃと思って…」
顔をあげると、先輩と目が合った。
泣き笑いのような表情で、
わたしもなぜか泣きそうだった。
「うん。上野の気持ちはわかった。でも、俺も気持ちを伝えたいから……明日の昼休みに第二体育館裏に来てくれる?」
「……わかりました。」
その後、クリスマスや新年の話をしたけれど、
上の空で何も入ってこなかった。
✳︎
次の日の昼休みになり、
わたしは体育館裏へ向かった。
体育館の壁に冬の光が薄く反射していて、
風が吹くたびに空気がひんやり揺れた。
立川先輩はそこに立って待っていた。
何度か一緒に帰っていたのに、
改まって呼び出されるととても緊張する。
「上野、来てくれてありがとう。寒いけど、ちょっとだけ話を聞いてくれる?」
そう言うと、彼はわたしの向かいに立ち、
真剣な顔になった。
「正直、最初は……可愛い子だから会ってみたい、ってのが本音だった。」
ゆっくり考えながら紡がれる言葉に、
誠実さが伝わる。
わたしも先輩が何を伝えようとしているのか、
ちゃんと受け止めたかった。
「学年で一番可愛い子を教えて、って一年に聞いて、上野のことを知ったんだ。」
心臓がドクンとはねた。
サッカー部が言ってた噂は本当だったんだ。
「でも、笑顔を見て、色んなことを話して、上野のことを知っていくうちに……俺の中で“好き”って気持ちが芽生えた。」
胸がぎゅっと熱くなる。
先輩は本当に、わたしのことを
想ってくれていたんだ。
「正直、行けると思ったんだよ。このまま一緒の時間を過ごしたら、上野も俺と同じ気持ちになってくれるんじゃないかって……願ってた。」
“願ってた”
その言葉に切なさがこもっていて、
胸が苦しくなった。
「気になる人がいるって正直に言ってくれたのは、本当に感謝してる。ありがとう…でも……俺、諦めたくないんだ。上野に他に気になる人がいたとしても、もし少しでも可能性があるなら……俺と付き合ってほしい。」
そして静かに頭を下げた。
「俺と付き合ってください。」
これまで何度か告白されたことはあった。
けれど、ここまで真摯に言葉を尽くしてもらったのは
初めてだった。
でも、ここで流されちゃダメ。
指先まで冷たくなるような緊張感を感じていた。
「先輩、顔をあげてください。」
真剣な目が向けられ、
胸の奥に鉛を置かれたような重みを感じる。
でも、伝えなきゃいけない。
「先輩の言葉、一つ一つが本当に嬉しくて……わたしのことをたくさん想ってくれていることが伝わりました。」
なぜか、わたしが泣きそうだった。
「でも……真剣に思ってくれているからこそ、わたしは先輩の気持ちに応えることはできません。」
一呼吸置いて、最後の言葉を。
「ごめんなさい。」
自然と頭が下がった。
ごめんなさいと一緒に、
感謝の気持ちも込めて。
わたしも、このくらい……
いや、それ以上に好きだと思える人と付き合いたい。
そう思わせてくれた先輩に、感謝が溢れた。
「先輩、本当にありがとうございました。」
背中を向けて体育館を後にする。
胸の奥がじんわり痛い。
背中に、先輩の小さなため息が聞こえた気がした。
振り返ったら泣いてしまいそうで、
振り返れなかった。
お母さんが言ってたのって、
このことなのかな……
相手に期待させてしまうって。
わたしが何度も帰ったことで、
逆に先輩を傷つけてしまったのかもしれない。
思わせぶりにしたつもりはない。
でも、好きな人ができるまでは、
しっかり線引きをしよう。
先輩を振ってしまって辛かったけれど、
学べることもあった。
そうやって自分を励ますのが精一杯だった。




