【番外】愛妻家たちの苦悩 1
懐妊が判明した妻に構うのに忙しいジルベルは、それはもう張り切ってありとあらゆる物を揃えた。侯爵家嫡男でよかった!
リルーシェの悪阻は、食が細くなるものだったため、王宮の子持ちマダムたちを突撃して、すっごい聞き込みをした。仕事より捗った。
うっすら既視感にあった芋の油揚げをシェフに頼んだら、びっくりするくらい食べてくれた。こっちは見ているだけで胃もたれしたが。
あまりに偏りすぎるので、果物を持ち帰るも撃沈。なんで。油と芋しか食べないって身体は大丈夫なの。
本人もよくわからないというので、そりゃそうだ初めてなんだからと開き直り、芋以外も揚げることにした。食べられれば何でもいい。
シェフが色々工夫してくれるし、なぜか王宮中からあれこれ情報が集まるので、非常に有難い。
いつの間にか、ジルベルの妻が第一子を妊娠したことはみんなが知っていて、顔を合わせるたびに祝いの言葉をもらう。
そういえば父母に伝えていないなと思いついた時には、すでに両家から贈り物が届いていた。噂って怖い。
まあとにかく、新米父として学ぶべきことはたくさんある。
女性陣の輪に巻き込まれがちなジルベルは知っている。
世の奥様方は、妊娠出産子育てに向ける温度や真剣度の差異を感じれば感じるほど、気持ちが冷めていくのだ。
そんなことさせてたまるか。夫への愛が冷めるとか、考えただけでぞっとする。
ああ、そうだ。
お元気すぎるご老体お二人がどうなったか、というと。
前国王陛下の隠し子の噂は、主に学園の若者たちの間で流れたもので、社交界では鼻で笑われる程度のものだった。
それに、明確に王家の血筋であると宣言したわけでもなく、公には『なかったこと』である。
とはいえ、公爵は王家の正統なる血筋を乱そうとし、妃殿下への悪意が害であることは明白。爵位を剥奪され、療養所に送られた。
表向きは高齢による療養、実際は幽閉。近いうち病を得るかもしれない。養うのもお金かかるもんね。
前ロリィネ侯爵は、長年連れ添った妻に離縁され、現当主である息子に絶縁され、愛人たちにも捨てられた。
ご高齢ながら平民になったので、一人で頑張って生きていくことになる。
正直、お二人に関しては政治的にもほぼ影響がないため、すんなりと受け入れられた。
ロリィネ侯爵家は、立て続けに直系による不祥事があったため、子爵まで降格。
領地の半分を没収し、王家預かりとなった。今後、爵位を賜る家門に与えられる予定だ。
最後に、公爵の養女で前ロリィネ侯爵の庶子。
権力者に振り回された点は酌量の余地があるが、王家の血筋という重大事項に触れた点が問題視された。
判断は荒れに荒れたが、彼女自身の意思もあり、教会併設の孤児院での生涯奉仕(復権なし)に決まった。
まあ、そんなことは心底どうでもいい。ジルベルは忙しいのだ。
リルーシェは、花や香の匂いがだめになったから、新しい石鹸を買いに行かねばならない。市井の方がいいかもしれない。
ただでさえ華奢なのに、吐いたりしてこれ以上痩せては心配だ。
意気揚々と職場を後にしたジルベルは、一目散に市へと馬車を走らせた。




